奪還
森の中では、50人ほどの盗賊たちが集まっていた。
「ガキがこの森で迷ってるなんて運が良かったな」
盗賊たちの中でも一際体の大きな男が、近くの盗賊に話しかける。
「レーツの頭、こんな泣きべそかいてるガキが本当に高く売れるんすかね?」
「とんだ物好きがいたもんだよなぁ。このガキを売った金があれば、幹部に昇格するのも夢じゃねぇぜ!」
レーツと呼ばれた男はスキンヘッドで、右目は潰れている。右手には大きな斧を携えていた。
「ただ、収穫はこのガキだけで、他には誰も見つかりませんでしたぜ」
「まぁいいだろう。目立った動きをすると、すぐ超能隊に嗅ぎつけられるからな」
レーツの目の前には、目隠しをされ、口に布を詰め込まれた子供が地面に座らされていた。
「全員揃ったか? そろそろ出発するぞ」
「いえ、まだトンとカツが帰ってきておりやせん」
「はぁ……あいつら、手柄欲しさに粘ってやがるのか。長居は禁物だ。先に帰るぞ!」
レーツは帰ってこない二人に呆れながらも、撤退命令を出した。
その時だった。
「遅れてすいません! カツ、帰りました!」
森の奥から一人の男が駆けてくる。
「おせーぞ! ……あ? トンはどうした?」
レーツはトンの姿が見当たらないことに気付く。
「あいつなら野糞してから来るみたいなんで、すぐ来ると思いますよ」
カツはそう言いながら子供の前まで歩き、その体を抱き上げた。
「おい、カツ。何してやがる?」
レーツは不自然な行動に眉をひそめる。
するとカツはニヤリと笑った。
「アルーシカは返してもらうぞ」
カツは自分の顔に手をかける。
ベリッ。
まるで仮面を剥がすように顔が外れた。
「なっ!?」
レーツが目を見開く。
剥がれ落ちた顔の下から現れたのは、ゴエモンの顔だった。
服装も瞬く間に元の姿へ戻る。
「捕えろぉ!!」
レーツは斧を振り上げながら怒鳴った。
だが、その時には既にゴエモンが動いていた。
「煙玉」
地面へ玉を叩きつける。
ボンッ!!
白い煙が一気に広がり、盗賊たちの視界を奪った。
「衝撃波!」
レーツは斧を大きく振るう。
放たれた衝撃波が煙を吹き飛ばした。
しかし――。
そこにゴエモンとアルーシカの姿はなかった。
「逃げられたか!! 探せ、お前ら!!」
レーツは即座に部下へ指示を飛ばす。
だが次の瞬間。
盗賊たちの足元が崩れ始めた。
「なっ!?」
「地面が!?」
足場が流砂のように変化し、盗賊たちを飲み込んでいく。
「蟻地獄」
木の陰から声が響く。
「ここでお前らは捕まえさせてもらうっす」
サタだった。
盗賊たちは必死にもがくが、身体はどんどん沈んでいく。
その間を縫うように、一人の男が瞬間移動を繰り返していた。
ポートである。
「おら」
「ぐっ!」
「がはっ!」
ポートは盗賊たちの前に現れては拳を叩き込み、一人ずつ気絶させていく。
「ちっ、超能隊か!」
レーツは歯噛みした。
「大衝撃!」
斧を地面へ叩きつける。
轟音と共に衝撃が走り、蟻地獄が強引に吹き飛ばされた。
盗賊たちはようやく動けるようになる。
だが、その時には既に半数近くが倒されていた。
「野郎ども! 逃げるぞ!」
レーツは生き残った者たちを連れて撤退を図る。
「砂塵包囲壁」
サタが手を振る。
すると砂が舞い上がり、盗賊たちを囲む巨大な壁となった。
「くそっ!」
「大衝撃!」
レーツは再び斧を振り下ろす。
衝撃によって砂の壁に穴が開いた。
「こっちだ!」
レーツは真っ先に穴へ飛び込む。
しかし。
穴の向こうには一人の男が立っていた。
「よう」
ゴエモンだった。
「邪魔だ!! 衝撃波!!」
レーツは斧を振るい、至近距離から衝撃波を放つ。
だがゴエモンは軽やかに身を捻って回避する。
そのまま一気に距離を詰めた。
「終わりだ」
ゴエモンは腰から取り出したハンマーを振り抜く。
ゴンッ!!
ハンマーがレーツの胴体へ直撃する。
レーツの巨体は吹き飛び、再び砂壁の内側へ叩き返された。
「砂圧流波」
サタが能力を発動する。
周囲を囲んでいた砂壁が一斉に内側へ倒れ込んだ。
逃げ場を失った盗賊たちは、そのまま大量の砂に飲み込まれる。
やがて砂の流れが止まる。
サタが手を振ると砂が散開した。
そこには気絶したレーツたちの姿が転がっていた。
「いっちょ上がりっす!」
サタは満足そうに笑った。
「よし、よくやったな」
ゴエモンは頷く。
「じゃあ俺はアルーシカを家に送り届ける。サタはこいつらを本部まで運んでくれ。ポートはさっき気絶させた二人を頼む」
「えぇ~!? 俺が送り届ける役の方が良かったですよ! 俺の能力じゃ他人を運べないんですから、男二人抱えて帰れってことじゃないですか~!」
ポートが不満を漏らす。
「うるせー! 普段楽して移動してんだから、ここらで自分の足で歩くことを思い出せ!」
「理不尽だ……」
ポートは肩を落とした。
ゴエモンは苦笑しながらアルーシカの頭を撫でる。
「もう喋って大丈夫だぞ。よく耐えたな」
「ゴエモンさんも、サタさんも、ポートさんも……助けてくれてありがとう!」
アルーシカの目から涙が溢れる。
張り詰めていた緊張が一気に解けたのだろう。
「怖かったよぉ……」
「もう大丈夫だ」
ゴエモンは優しく言った。
そしてアルーシカを抱えたまま立ち上がる。
「じゃあ、お前ら頼んだぞ!」
そう言い残し、ゴエモンは森の奥へ駆けていった。
「アルーシカ! 無事で良かったよ! ゴエモンさんも連れてきてくれてありがとうございます」
「おばあちゃん……すごく怖かったよぉ……」
ゴエモンがアルーシカを家まで送り届けると、アルーシカはすぐさま祖母の元へ駆け寄った。
祖母はアルーシカを強く抱きしめ、その無事を喜ぶ。
「これに懲りたら、あんまり森の奥まで行くんじゃねーぞ」
ゴエモンはアルーシカの頭を軽く撫でながらそう言うと、その場を後にした。
そして超能隊本部へ向かう。
本部に到着すると、入口の前にはサタと砂で拘束された盗賊たちの姿があった。
「ゴエモンさん、ちょうど俺も今着いたところっす。ポートさんのこと待ちますか?」
サタが振り返りながら尋ねる。
「いや、あいつは時間がかかる。先に報告するぞ」
「了解っす。じゃあ俺はこいつらを地下牢に入れてきますんで、先にブレイクさんのところへ行っておいてください」
サタは盗賊たちを引き連れ、本部の中へ入っていく。
ゴエモンもその後を追い、本部二階の最奥にある部屋へ向かった。
コンコン。
扉をノックし、返事を待ってから中へ入る。
部屋の奥ではブレイクが机に向かって座っていた。
「ブレイクさん。森で盗賊どもを捕まえたので地下に捕らえてあります。連中はダチュラ盗賊団の一員でした」
「構成人数千人を誇る、あのダチュラ盗賊団か」
ブレイクは眉をひそめる。
「捕まえた盗賊の話によると、子供を誘拐して西の国で売り飛ばすつもりだったそうです」
その報告を聞いた瞬間、ブレイクの表情が変わった。
「西の国だと……?」
低い声が部屋に響く。
ゴエモンはその反応に少し驚く。
「何か心当たりが?」
「……キクレンの生き残りかもしれんな」
ブレイクはそう呟くと、机の上の紙へ素早く情報を書き留めていく。
「とりあえずはよくやってくれた」
「ありがとうございます」
「この件はナーブにも伝えておこう。それと森のパトロールも強化する方針にする」
「了解です。では失礼します」
ゴエモンは一礼すると部屋を後にした。
部屋から出ると、ちょうど地下へ続く階段を登ってきたサタと鉢合わせる。
「ゴエモンさん、報告終わりましたか?」
「ああ。今日のところはもう上がっていいぞ」
「よっしゃ! じゃあお疲れ様っす!」
サタは元気よく頭を下げる。
そして本部の扉を開いた。
「つ、疲れた……」
外には盗賊二人を引きずりながら、地面に倒れ込んでいるポートの姿があった。
「うわっ、ポートさん! 大丈夫っすか!?」
サタは思わず駆け寄る。
「大丈夫に見えるか……?」
ポートは死んだ魚のような目で答えた。
「あっ、確かに大丈夫そうじゃないっすね」
「そこは否定してくれよ……」
ポートはがっくりとうなだれる。
サタは砂を操り、盗賊二人を持ち上げた。
「この二人、俺が地下まで運びましょうか?」
しかしゴエモンは首を横に振る。
「いや、ポートに最後までやらせておけ」
「え?」
「いつも生意気な口を叩いてくる罰だ」
「りょーかいっす!」
サタは即答した。
そして持ち上げていた盗賊たちを――
ドサッ!
地面へ放り投げた。
「ぐえっ!」
気絶している盗賊たちの身体が跳ねる。
「そ、そんな……」
ポートは絶望した表情でゴエモンを見る。
だがゴエモンは一切振り返らない。
「じゃあな」
そのまま帰っていった。
サタも軽く手を振る。
「頑張ってくださいっす!」
「お前もか……」
ポートは膝をつく。
そして盗賊二人を見下ろした。
「……あいつ、今度飲み物に下剤仕込んでやる」
復讐を誓いながら、ポートは重い足取りで盗賊たちを引きずり、本部の中へ入っていった。




