ケルベロス
魔族の名はケルベロス。
魔界の門番という役割を担っており、儀式によって魔界への道が開かれた際、真っ先に人間界へ現れる魔族である。
「やらせはせん!!」
チェスの体から金色の光がさらに強く輝く。
金色の尾を引きながら、チェスは放たれた黒炎へと凄まじい速度で突っ込んでいく。
激突。
轟音と共に大爆発が巻き起こった。
黒炎の勢いは止まったが、チェスもまた押し返され、それ以上ケルベロスへ近づくことができない。
しかし。
攻撃していたのは三つある頭のうち一つだけ。
残る二つの頭も、ゆっくりと口を開き始める。
「これは流石にまずいのぉ……」
チェスは横目でその様子を確認する。
だが、一つの黒炎を防ぐので精一杯。
残る二つの攻撃までは止められない。
やがて二つの頭も口の奥に黒炎を溜め始める。
今にも放たれようとした、その時。
「炎拳!」
「橙拳爆散!」
一つの頭に向かって飛び込んできたのは、ビショップの背から飛び降りたチューズとオーラだった。
二人の拳が同時にケルベロスの顔面へ叩き込まれる。
ドォン!!
爆発が起こり、開いていた口が勢いよく閉じる。
溜め込んでいた黒炎は口の中で暴発した。
「しゃあ!! やってやったぜ!」
「って、うおぉぉぉ!?」
だが、暴発した黒炎による凄まじい衝撃波が周囲に吹き荒れる。
ビショップ、オーラ、チューズの三人はまとめて地上へ吹き飛ばされていった。
「二人とも手を!!」
チューズは体勢を立て直すと、落下するオーラとビショップの手を掴む。
足元から炎を噴射し、何とか落下速度を緩めていく。
その頃。
もう一つの頭へ向かって三つの影が飛翔していた。
「チェスさんばっかりに無茶させてらんねぇだろ!!」
ビースの叫び声が響く。
左右を飛んでいたフレイとアクアは、それぞれ炎と水をビースへ纏わせる。
「神鳥!!」
鳥の姿へ変身したビースは、炎と水の渦をまといながら猛スピードで突撃する。
激突した瞬間、もう一つの頭の口も閉じられ、黒炎は放たれることなく内部で霧散した。
「この国は壊させない!」
今なおチェスへ黒炎を吐き続ける中央の頭。
その顔の前には、いつの間にかレイが辿り着いていた。
「はぁぁぁ!!」
大鎌が閃く。
左右の眼球が切り裂かれた。
「ガァァァァァァァ!!」
激痛に叫ぶケルベロス。
黒炎を止め、レイへ噛みつこうとするが牙は空を切ることとなる。
「皆の者……助かったぞ」
いつの間にかチェスがケルベロスの目前まで到達していた。
金色の光が溢れる。
「座が高いぞ」
ケルベロスの巨体が硬直する。
「ブレイクさん!! 後は頼んだぜ!!」
地上から白い煙が急上昇する。
その先端にはゴクウとブレイク。
煙はケルベロスよりもさらに高く上昇すると、
「行けぇぇぇ!!」
ゴクウはブレイクを掴み、ケルベロス目掛けて投げ下ろした。
迫るブレイク。
左右の頭はそれに反応し、上空へ黒炎を放つ。
二つの黒炎は空中で交差し、一つとなる。
その威力は、先程チェスが受け止めていたものを遥かに超えていた。
だが。
「消滅させる右手」
ブレイクの右手に触れるものは全て消滅する。
それが物質であろうと、
超能力であろうと、
たとえ一国を滅ぼすほどの破壊であろうと。
例外は存在しない。
黒炎が右手に触れた瞬間――
ゴォッ!!
巨大な黒炎は一瞬で消滅した。
さらにその力はケルベロスの口内にまで及び、
吐き出される寸前だった黒炎までもまとめて消し去ってしまう。
すぐさまブレイクの危険性を察したケルベロスは、魔界へと顔を引っ込めようとする。
「帰す訳にはいかんじゃろう」
「王の威光」
チェスの両手に金色の光が集まっていく。
そして両腕を突き出すと、金色の光線が一直線に放たれた。
光は真ん中の頭の下顎を撃ち抜く。
「ガァァァ!!」
巨大な頭部はそのまま強引に上空へ押し上げられる。
そして。
「終わりだ」
真上から落下してきたブレイクの右手が、真ん中の顔を捉えた。
「消滅させる右手」
触れた瞬間。
真ん中の顔は声を上げる暇すらなく消滅する。
それと同時に、繋がっていた左右の頭も跡形もなく消え去った。
ゴォォォ……
ケルベロスの消滅と共に、魔界へと繋がっていた巨大な時空の裂け目に無数の亀裂が走る。
そして。
ガシャァァン!!
ガラスのように砕け散った。
同時に、儀式の生贄となっていた者達を包んでいた赤い柱も次々と消えていく。
⸻
「そんな……馬鹿な……!!」
意識を取り戻したウェザーは地面にうつ伏せになったまま叫ぶ。
すでに立ち上がる力も残されていない。
能力を使う余力すら失っているようだった。
「これがこの国の力じゃよ」
チェスは静かにウェザーを見下ろす。
その顔には怒りではなく、憐れみが浮かんでいた。
「非道な実験を繰り返して得た力など、所詮は一時のもの」
「仲間を信じ、支え合ってきた力には敵わんのじゃ」
「……まぁ」
「ワシも禁技を使ってしまった以上、お主と同類なのかもしれんがのぉ」
「クソ……」
「クソォォォォォ!!!」
ウェザーは最後の力を振り絞るように叫ぶ。
だが。
左胸を照らしていた虹色の輝きがゆっくりと消えていく。
そして。
その瞳からも光が失われた。
ウェザーは二度と動くことはなかった。
⸻
すると。
亡骸となったウェザーの体から、半透明の靄のようなものが浮かび上がる。
「む……」
チェスが目を細める。
次の瞬間。
ウェザーの傍らに、小さな時空の裂け目が出現した。
半透明の靄は抗うこともできず、その裂け目へ吸い込まれていく。
そして。
裂け目は閉じた。
同時に。
ウェザーの亡骸は砂となり、風に吹かれるように消えていった。
「地獄へ魂を引きずり込まれたか……」
「当然の報いじゃな」
チェスは静かに呟く。
だが。
その声に勝利の喜びは無かった。
キクレンの生き残り。
超能隊最強の敵。
ウェザー・キクレン。
その長き復讐の人生は、誰に看取られることもなく終わりを迎えた。
そして――
空を覆っていた黒雲がゆっくりと晴れ始める。
長い戦いは、ようやく終わりを告げたのであった。




