召喚
超能隊本部
フレイによって本部へ運ばれ、現在はストロングに看病されていたスピン。
しかし、ベッドで眠るスピンの体から突如赤い光の柱が立ち上った。
「おいおい、何だ何だ!?」
「何が起こってる!?」
ストロングは慌ててスピンに駆け寄る。
赤い光に手を伸ばすが、見えない壁に阻まれてしまった。
「なんだこの壁は……!」
すると。
「ん?」
「他にもか!?」
窓の外を見ると、ベゴニアの各地から何本もの赤い光の柱が天へ向かって伸びている。
「皆は無事なんだよな……?」
ストロングには何が起こっているのか分からない。
ただただ不安を募らせながら、仲間達の帰りを待つことしかできなかった。
⸻
ベゴニア郊外
「皆どうしたんだ!?」
西の集落から救出した子供達を連れ、ようやく首都ベゴニアへ辿り着いたレイ。
しかし到着した直後。
子供達の体から次々と赤い光の柱が立ち上り、全員が一斉に意識を失ってしまった。
「起きて!」
「皆、起きてよ!!」
レイは大鎌を振るう。
だが。
ガキィン!
大鎌は見えない壁に阻まれ、傷一つつけられない。
「何でなんだ!」
「ここまでせっかく来れたのに……!」
「こんなの、あんまりじゃないか!!」
何度も。
何度も。
レイは大鎌を振り続ける。
やがて。
「はぁ……はぁ……」
両手から血が滲むほど強く柄を握りしめていた。
そして。
レイは覚悟を決める。
「外から無理なら……中からだ!」
全身を霊化させる。
半透明となったレイは赤い光の柱の中へ入っていった。
どうやら霊化状態なら内部へ侵入できるようだ。
一人の少年の元まで辿り着く。
(ここで霊化を解けば……)
(僕まで気絶するかもしれない)
(でも……)
(やるしかないんだ!)
覚悟を決め、能力を解除しようとしたその時。
グルルルルル……
まるで獣の唸り声のような低い咆哮が遥か上空から響き渡った。
「!?」
反射的にレイは柱の外へ飛び出す。
霊化を解除し、空を見上げた。
「な……」
「何なんだ、あれは!?」
空間が裂けていた。
巨大な時空の裂け目。
その奥から顔を覗かせているものがある。
犬。
ライオン。
狼。
様々な動物を混ぜ合わせたような顔。
しかし、それは動物などではない。
見る者全てに本能的な恐怖を植え付ける異形。
そして。
レイが最も驚いたのは。
「三体……?」
三つの顔が裂け目から覗いていたことだった。
ベゴニア中から伸びる赤い光の柱は、時空の裂け目の節々に突き刺さっている。
まるで。
その赤い柱が、この異形達をこちらの世界へ引きずり出しているかのようだった。
「まさか……」
「これが……敵の目的だったのか……?」
絶望に染まるレイ。
しかしその時。
シュン――
一筋の金色の光が空を駆け抜ける。
一直線に、三体の怪物へ向かって飛んでいく。
「あ……」
「あれは……!」
「あれはチェスさん!?」
レイの瞳に映ったのは、
全身を黄金の光で包み、
天へ向かって駆け上がる老英雄の姿だった。
--
「お主……魔族召喚を行ったのか!?」
チェスは珍しく激しく動揺していた。
すぐさま金色の光を纏った拳を振り抜き、ウェザーを殴り飛ばそうとする。
しかし。
赤い光の柱に阻まれ、その拳は弾かれてしまう。
「無駄だぞ!」
「もう私達は生贄として捧げられている!」
「この国はあの魔族によって滅ぼされる運命なのだ!!」
ウェザーは狂ったように高笑いを浮かべる。
だが、その直後。
「ゴホッ……!」
大量の血を吐き出すと左胸を押さえながら膝をついてしまう。
「最初から……」
「最初から私達の魂を生贄に捧げ、あの魔族を召喚するつもりだったのだ」
「かつて東西戦争において、キクレンの国民全ての魂を捧げて呼び出した……あの化け物を!!」
ウェザーは最後に再び大きく笑う。
「ハッ……ハッハッハッハ!!」
そして。
そのまま意識を失い、地面へ倒れ込んだ。
⸻
「当時の超能隊の総力と、その命を代償にようやく魔界へ送り返した存在……」
「ワシ一人の力で何とかなるじゃろうか……?」
チェスは上空を見上げる。
遥か彼方。
時空の裂け目から三つの異形の顔が覗いている。
「いや……」
「何とかするしかないのじゃな」
「今まで皆に戦ってもらっていたんじゃ」
「最後くらいは、ワシが踏ん張らねばならん」
チェスは静かに呟くと、金色の光を纏い空へ飛び立つ。
⸻
しかし。
魔族達は裂け目から顔を出しているだけで、その先へ進めずにいる。
まるで何かに引っかかっているかのように、もがいていた。
「当然じゃ」
「かつて一国の民全てを生贄にして召喚した存在じゃ」
「この僅かな人数で呼び出そうというのが無理な話」
「魂が圧倒的に足りておらん」
チェスは冷静に分析する。
「このままなら完全召喚は――」
その時。
三つある顔のうち一つ。
狼にも獅子にも見える異形の顔が、ゆっくりと大口を開いた。
「……!」
その口の奥で。
黒い炎が渦を巻き始める。
「まさか……!?」
チェスの顔から余裕が消えた。
次の瞬間。
ゴォォォォォォォォォッ!!
魔族は黒い炎を吐き出した。
吐き出された炎は空中で急激に膨れ上がり、
百メートル、
千メートル、
さらに巨大化していく。
「なんじゃと……!?」
チェスの瞳が見開かれる。
黒炎は空を覆い、
まるで夜そのものが落ちてきたかのように、
首都ベゴニア全体を飲み込まんと広がっていく。
その圧倒的な絶望を前に、
地上にいる者達はただ呆然と空を見上げることしかできなかった。
そして。
人類を滅ぼしたと伝わる魔界の怪物は、
完全に姿を現すことなく、
その片鱗だけで世界を焼き払おうとしていた――。




