王の最期
「キングは、あんな卑劣な男と同類などではありません」
「キングは誰よりも優しい心の持ち主です」
「だからこそ、ポーンも命を懸けてキングの手助けをしたのですよ」
背後から聞こえてきた声に、チェスは振り返る。
そこにいたのは、ボロボロになった漆黒の鎧を纏うナイトであった。
「そうか……お主達、気付いておったか」
さらにその後ろには、
クイーン、ビショップ、ルーク。
四人の騎士達が横一列に並び、膝をついて頭を下げていた。
「私達は繋がっていますからね」
ビショップが静かに答える。
「だから、キングの命がもう長くないことも分かっています」
ルークの声は震えていた。
今にも泣き出しそうなのを必死に堪えている。
「キングが命を懸けて戦っていたのに、私達は駆け付けることができませんでした」
「どうか、お許しください」
最後に口を開いたクイーンは、未だ解凍しきれていないのか、砕けた両手両足を氷で補っていた。
「ふっ」
「お主はまだ解凍も終わっておらんのに来たのか」
「そのせいで手足が壊れてしまったようじゃの」
チェスは苦笑すると、四人に立ち上がるよう促す。
「ワシの方こそ謝らねばならん」
「今まで散々わがままを言ってきたのに、最後の最後までお主達を振り回してしまったのじゃからな」
チェスは悲しげに頭を下げた。
すると、
「謝らないでください」
ビショップが優しい口調で語りかける。
「私達は知っています」
「あなたが誰よりもこの国を愛し、ここに住む人々の事を考えてきたことを」
「そんなあなたと共に歩んでこられた事を、私達は誇りに思っています」
「感謝しているのです」
チェスは静かに目を閉じた。
その隣でクイーンが氷でできた手を差し出す。
すると。
ボロボロになっていたチェスの服が薄い氷で覆われ、美しく煌びやかな装束へと変わっていく。
「どうやら皆さんが来るようです」
「キングには最後まで、いつものように威厳ある姿でいていただかねば」
クイーンの言葉通り、
四方から超能隊の面々が駆け寄って来ていた。
「チェスさん!!」
真っ先にやって来たのは、白煙に乗ったゴクウとブレイクだった。
「その力は……」
「ゴクウ、ブレイク」
チェスは朗らかな笑みを浮かべ、自身の左胸に手を当てる。
「お主達は知っておるじゃろう?」
「かつてボルトがこの力を使い、命を失ったように……」
「ワシも同じ運命を辿る」
「そんな……」
ブレイクは言葉を失う。
「チェスさん……」
「あんたがいなくなったら、学校の子供達が悲しむぜ……」
ゴクウは顔を覆いながら空を見上げる。
必死に涙を堪えていた。
「フォッフォッ」
「そうじゃなぁ」
「だが、子供達に気を遣う必要はないぞ」
「ありのまま起きた事を話してやればよい」
「あの子達は強いからの」
チェスの胸の光は、先程まで太陽のように輝いていた。
しかし今では、ろうそくの火のような淡い輝きへと変わっている。
「ふざけんなよ!!」
怒声が響く。
「何でチェスさんが死ななきゃなんねぇんだよ!!」
駆け付けたビースであった。
「落ち着け、ビース……」
フレイが肩に手を置く。
「最後の時間なんだ」
「暖かく見送ってあげよう」
アクアも静かに言った。
三人は空からゆっくりと降り立つ。
そして。
超能隊の仲間達が一人、また一人と集まっていく。
その中心で。
キング・チェスは、いつものように穏やかな笑顔を浮かべていた。
すると、肩を組みながらオーラとチューズもチェスの元へ歩み寄ってきた。
「さっきビショップさんから聞いたんですが……」
「チェスさん、本当に死んでしまうんですか……?」
オーラは悲しげな表情を浮かべて問いかける。
しかし、その答えは既に分かっているのだろう。
この場の空気が全てを物語っていた。
「そうじゃ」
「ワシはもうすぐ死ぬ」
チェスは優しくオーラの頭を撫でる。
そしてチューズへ顔を向けた。
「チューズよ」
「あの馬鹿弟子に、調子に乗るのも程々にしておけと伝えてくれるかの?」
その言葉に、チューズは少し笑う。
「マンは貴方のことを本当に尊敬していましたよ」
「あの性格なので分かりづらいとは思いますけど」
「いつも感謝していました」
「ホッホ」
「お主が言うのならそうなのじゃろう」
「クイーンやナイトではなく、ワシ自身に稽古を頼みに来るのは妻を除けばあやつくらいじゃった」
「生意気じゃが……可愛い一番弟子じゃ」
「頼んだぞ」
チェスはそう言って、チューズの肩に手を置く。
その瞬間。
チェスの手が一瞬だけ金色に輝いた。
「この僕の活躍を、天国という特等席で眺めていてよ」
「絶対に貴方を超える良い男になってみせるからさ!」
その声に。
この場にいた全員が驚いてチューズの方を向く。
そこに立っていたのは。
赤髪のチューズではなく、
金色のロングヘアを揺らすマンであった。
「……!」
誰もが目を見開く。
これまで人格が一日の途中で入れ替わることなど一度もなかった。
だが。
次の瞬間には再び赤髪のチューズへ戻っていた。
「だってよ」
チューズは肩をすくめて呟く。
「ホッホッホ」
「最後まで生意気な奴め」
「まぁ、それがあやつの良いところじゃな」
チェスは心底嬉しそうに笑った。
そして。
この場にいる全員の顔を一人一人見渡す。
「お主達!!」
「後は頼んだぞ!!」
大気が震えるほどの声量。
その声に。
超能隊の面々は皆、真剣な表情で頷きを返した。
⸻
「そろそろ時間じゃな」
「クイーン」
「ナイト」
「ビショップ」
「ルーク」
「そしてポーン……」
チェスはゆっくりと4人の元へ歩いていく。
「お主達のおかげで」
「ワシはとても幸せな人生を歩むことができた」
「心から感謝するぞ」
そう言って。
チェスは四人を優しく抱き寄せた。
すると。
胸の金色の輝きが完全に消える。
そして。
チェスと四人の体が塵となって消え始めていく。
⸻
「随分待たせたの、リル」
消えゆく視界の中。
目の前には、半透明の姿となった妻リルが立っていた。
「まだまだ来なくて良かったのよ?」
リルは少し寂しそうに微笑む。
「ホッホ」
「そろそろお主が寂しがる頃じゃと思ってな」
「もういいの?」
「うむ」
「もう全部、託してきたからの」
チェスが振り返る。
そこには。
涙を流す超能隊の仲間達。
守り続けてきた子供達。
未来を託した者達。
皆がいた。
「そう」
「じゃあ後は、あの子達の頑張りを高みの見物で眺めていましょうか」
「あぁ」
「そうじゃな」
その瞬間。
老人だったチェスの姿が変わる。
白髪は黒く染まり、
背筋は伸び、
若き日の姿へ戻っていた。
「行くかの」
「えぇ」
チェスとリルは手を取り合い、
ゆっくりと空へ昇っていく。
すると。
「キング!」
「お待ちください!」
「一緒に行きますよ!」
「当然です!」
「キング!」
後ろから五つの声。
クイーン。
ナイト。
ビショップ。
ルーク。
そしてポーン。
五人の騎士達もまた、若き姿となりながらチェス達を追うように空へ駆け上がっていく。
誰よりも優しく、
誰よりも国を愛した王は、
愛する妻と仲間達に囲まれながら、
静かに天へと旅立っていった。
次の章がある程度書き溜めたら、連載再開します。
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