悪戦苦闘
「unlimited」
アムドは微笑みを浮かべながら、小さくその言葉を呟いた。
すると、百本もの剣がアムドを囲むように出現する。
それぞれの剣は宙に浮かび、その切っ先をアブ達へ向けた。
「おいおい、まずいぞ!!」
異様な変化を見たオーラは、再び全身にオレンジ色のモヤを纏い戦闘体勢を取る。
「剣舞」
次の瞬間。
百の剣が一斉にアブ達へ襲いかかった。
「百々分身」
アブは大量の分身を作り出し、壁のように前方へ並べる。
しかし、剣の勢いは凄まじかった。
分身達を貫いても勢いを失うことなく、そのまま本体へ迫る。
「橙拳爆散!!」
「炎拳!!」
オーラとチューズは拳で次々と剣を叩き落としていく。
だが、数が多すぎた。
防ぎきれなかった剣が二人の体を切り裂き、全身に無数の傷が刻まれていく。
「しまった!!」
数本の剣が二人の間をすり抜け、アブへ向かう。
アブは先ほど大量の分身を作った反動で、既に動く力を失っていた。
「アブ!!」
オーラは慌てて駆け出す。
しかし、到底間に合う距離ではない。
アブの瞳には、ゆっくりと迫ってくる剣が映っていた。
「ごめんね……」
アブは諦めたように微笑む。
そして、駆け寄ってくるオーラに向かって小さく呟いた。
その時だった。
「波動の盾」
アブの前に突如、漆黒の騎士が姿を現す。
水色の波動が盾から放たれると、迫り来る剣を全て弾き返した。
「師匠!!」
「ナイトさん!!」
現れたのはチェスが生み出した騎士――ナイトだった。
「間に合ったようで良かった」
ナイトは盾から放っていた波動を抑えると、今度は剣に波動を纏わせる。
「オーラ、チューズ。道を作ってくれ」
落ち着いた声で指示を出しながら、ナイトは真っ直ぐアムドを見据える。
「うす!!」
「了解です!」
二人が剣を叩き落とし、道を切り開く。
その隙にナイトは一直線に駆け出した。
そしてアムドへ飛びかかり、波動を纏った剣を振り下ろす。
「童子切安綱」
アムドの右手に、禍々しい黒い光を放つ刀が現れる。
「鬼斬・破怪」
両者の剣が激突した。
一瞬だけ拮抗する。
だが次の瞬間――
パキィッ!!
ナイトの漆黒の剣にヒビが走り、砕け散った。
しかし、ナイトは動揺しない。
砕けた剣の柄を即座に手放すと、今度は拳に波動を纏わせる。
「波動拳!!」
「赤糸縅鎧」
アムドは一瞬で全身を鎧で覆う。
ナイトの拳が接触した瞬間。
ドォォン!!
大爆発が巻き起こった。
「くっ!」
爆煙の中から、青い波動を纏ったナイトが吹き飛ばされる。
だが空中で体勢を立て直すと、オーラとチューズの隣へ着地した。
そして初めて、ナイトの声に緊張が混じる。
「これは……厄介な相手だな」
その視線の先では。
黒い刀を携えたアムドが、静かに三人を見下ろしていた。
「師匠! あいつの鎧は、二人以上で別方向から同時に攻撃しないと突破できません!」
オーラが叫ぶ。
その間にもアムドは手にしていた刀を消し、再び周囲に百本の剣を生み出した。
「承知した。今度は私とアブで援護に回る。二人は奴の元へ向かってくれ」
ナイトが指示を出した瞬間。
百の剣が四人へ向かって一斉に放たれる。
「分かりました!」
「複体」
アブがナイトの背中に手を触れると、隣にもう一人のナイトが現れる。
二人のナイトは何も言わず剣の波へ飛び込む。
盾から波動を放ち、次々と剣を弾いていく。
その隙間を縫うように、オーラとチューズは駆け出した。
左右からアムドを挟み込む。
「もう一回ぶん殴ってやる!」
チューズが叫ぶ。
だが、二人の背後には一本ずつ剣が浮かんでいた。
串刺しにするように飛来する。
しかし――
ガキィン!!
二人の間に盾が割り込む。
剣を弾いたのは、ナイトと複体が投げた盾だった。
盾を失った複体は無防備となり、無数の剣に切り裂かれて消滅する。
本体のナイトも波動を全身に纏い耐えるが、漆黒の鎧には次々と傷が刻まれていく。
「すみません、師匠!」
背後から響く金属音。
オーラはそれでも振り返らない。
前だけを見て走る。
「甘いぞ!」
アムドはオーラの進行方向へ拳を叩きつける。
「赤糸縅鎧!」
ドォン!!
爆発が起こる。
だが、全身にオレンジ色のモヤを纏ったオーラの足は止まらない。
チューズも並走し、二人はついにアムドの間合いへ到達した。
「うおおお!!」
「はぁぁぁ!!」
オーラとチューズが同時に拳を放つ。
しかし。
アムドは自らオーラ側へ体を寄せた。
「なっ!?」
タイミングがずれる。
先にオーラの拳だけが鎧に当たり、爆発。
続いてチューズの拳もワンテンポ遅れて鎧に触れ、同じく爆発を受ける。
「しまった!」
二人は吹き飛ばされる。
「ハッハッハッ!!」
アムドは高笑いを上げた。
「もう誰にも僕を止めることはできないのさ!!」
再び周囲に剣を生み出す。
その切っ先は倒れたオーラとチューズへ向けられる。
「終わりだ!」
その瞬間。
「あなたがね!!」
真上から声が響いた。
「なっ――」
反応するより早く。
ドゴォ!!
アブの踵落としがアムドの頭部を直撃する。
兜に大きなヒビが入り、砕け散った。
「貴様ぁぁぁ!!」
激怒したアムドは、本来オーラとチューズへ向けるはずだった剣をアブへ放つ。
だが。
アブの姿は剣に貫かれた瞬間、消え去った。
「分身!?」
アムドが動揺した、その瞬間。
「この野郎ぉぉ!!」
オーラの拳が無防備となった顔面に炸裂する。
「グハッッ!!」
吹き飛ばされた先では、
「炎拳!!」
待ち構えていたチューズが炎を纏った拳を叩き込む。
アムドの体は西門まで吹き飛び、門に大きな凹みを作りながらようやく止まった。
⸻
(死ぬ……のか?)
(そうか……)
(皆、一足先にあの世へ行ってくるよ)
(願わくば……僕一人だけで済んでいてほしいな)
(もっと……皆と……いたかったな……)
⸻
アムドは静かに意識を手放す。
左胸で輝いていた光は消え。
その瞳からも、完全に光が失われた。




