金
西の集落で激突するレイとゴード。
周囲の木々は全て黄金に覆われており、ゴード自身もまた全身を金色の鎧で包み込んでいた。
「どうやら、お互いの攻撃は通らないようだな」
金の兜に顔を隠しているため表情は見えないが、兜の隙間からゴードの低い声が響く。
「そうみたいだね……」
レイは幽化すると、一気にゴードへ接近する。
そして大鎌を振るうが、刃は金の鎧に弾かれてしまう。
反対に、ゴードは周囲の黄金に覆われた木々を操り、無数の金属片をレイへ放つ。
しかし、それらは全てレイの体をすり抜けていった。
再びレイは接近する。
今度は兜の隙間に大鎌の先端をねじ込もうとした。
「甘いぞ!」
だが、ゴードは瞬時に兜の隙間を金で埋める。
さらに鎧から針のような棘を生やし、レイの腕にいくつもの穴を穿った。
「ぐっ……!」
レイは顔を歪める。
しかし、すぐに幽化して後方へ退いた。
「やはり、攻撃の瞬間だけは実体化する必要があるようだな」
ゴードは棘を元に戻すと、ゆっくりとレイへ歩み寄る。
対するレイは、両手で握っていた大鎌を怪我をしていない右手だけで持ち直した。
「両手でも俺の鎧に傷一つ付けられなかった。
片腕になってしまっては、もう勝ち目は無いんじゃないか?」
ゴードは容赦なく周囲の黄金の木々を操り、レイへ襲い掛からせる。
「幽化」
だが、レイは怯むことなく再びゴードへ向かっていく。
ゴードもまた、全身の隙間を黄金で塞ぐ。
関節部分すら覆い尽くし、完全に死角の無い状態となった。
しかし。
レイは大鎌を振るおうとはしなかった。
何度も何度もゴードの体を通り抜けていくだけだった。
「……?」
ゴードは違和感を覚える。
そして、ある可能性に思い至る。
(こいつ……まさか)
(俺の酸素切れを狙っているのか!?)
全身の隙間を埋めるということは、呼吸をするための穴すら塞いでいるということ。
この状態では、ゴードは呼吸を止めている。
さらに全身を黄金で覆っている間は、自ら動くこともできない。
これまでゴードは、レイが攻撃を仕掛けてきた瞬間に位置を把握し、その一撃に合わせてカウンターを繰り出していた。
だが今。
レイは攻撃をしない。
ひたすら幽化しながらゴードの体をすり抜け続けるだけ。
そのためゴードは、レイの位置を把握することができない。
「……チッ」
初めて。
金色の鎧の奥で、ゴードが焦りを見せ始めていた。
(こっちの息が切れる前に仕掛けるしかないか……)
「黄金針樹」
ゴードを中心に、地面から無数の金の針が生え上がる。
レイを一旦後退させるための一手。
その隙に、ゴードは密閉していた兜の口元を開き、大きく息を吸い込む。
「ガッ!!」
しかし。
その瞬間、レイはゴードの真上にいた。
口元に穴が開くタイミングを読んでいたレイは、大鎌を振るい、その刃をゴードの口内へ突き刺す。
「ぐぁぁぁ!!」
反撃を受ける前にレイは大鎌を引き抜き、すぐに距離を取った。
ゴードは全身を覆っていた黄金の鎧を解除すると、その場に膝をつく。
鎧を消すと同時に周囲に生える無数の金の針も消えていく。
そしてゴードは地面に倒れると口から大量の血を吐き出す。
しかし、その目は未だレイを見据えていた。
戦意は失っていない。
「まだ……終わらん……!」
ゴードは右手をレイへ向ける。
何かをしようとしたその時――
グサッ
「お、お前……!」
ゴードの心臓を貫いたのは、小屋にいたはずの子供の一人だった。
先日、ゴードによって『教育』を受けた少年である。
「お前がいるから……僕たちが帰れないんだ!!」
少年が包丁を引き抜く。
「よくもぉ!!」
激怒したゴードは拳を振るい、少年を吹き飛ばした。
さらに右手を向ける。
「ごろ……して……やる……」
黄金の木々が動き出す。
今にも少年の身体を押し潰そうとしていた。
「死ね!」
スパン
切断されたのはゴードの首だった。
レイの大鎌が、顔と胴体を繋ぐ首を真っ二つにしていた。
ゴードの身体が力なく崩れ落ちる。
すると少年を襲おうとしていた黄金の木々は消滅した。
「大丈夫かい!?」
レイは慌てて少年を抱き寄せる。
優しく頭を撫でながら声を掛けた。
「君のおかげで助かったよ。ありがとう」
少年は涙を浮かべながら小さく笑う。
「ううん……」
「お兄さんのおかげで……僕たちもやっと家に帰れるんだ」
安心したのか、少年はレイの腕の中で静かに眠りについた。
戦いを見守っていた小屋の中の子供達も、次々と外へ出てくる。
皆、不安そうな顔をしながらレイの周りに集まってきた。
「これだけの子供達が誘拐されていたなんて……」
レイは胸を痛める。
そして子供達一人一人の顔を見渡し、優しく微笑んだ。
「もう大丈夫」
「みんな、家に帰ろう」
そう言ってレイは子供達を連れ、西の集落を後にする。
その背中を、沈み始めた夕日が優しく照らしていた。




