矛盾
「地の星座・完璧の乙女」
カードが盾を構えながら詠唱すると、盾から茶色の光が溢れ出す。
「おうおう! とうとう本気になってきたか!? だったらこっちも上げてくぜ!!」
チヨは勢いよく飛びかかり、薙刀を振り下ろした。
薙刀が盾にぶつかった瞬間、茶色の光が強く輝く。
同時にカードの足元から岩の柱が突き上がり、チヨへ襲い掛かった。
「おぉ? ちゃんと防ぐだけじゃなくて攻撃もできるんじゃねぇか!」
だが、チヨは薙刀を一振りするだけで岩の柱を全て粉砕してしまう。
「ちっ、この怪力女が! 数少ねぇ攻撃手段を簡単に潰しやがって!」
カードは盾を正面に構えたまま突進する。
薙刀を振るう間合いを潰し、そのまま体勢を崩すつもりだった。
「あめーんだよ!!」
しかしチヨは強烈な蹴りを盾へ叩き込む。
カードの突進は止められたが、その衝撃を受けた盾は再び輝きを放った。
今度は無数の岩の破片が地面から飛び出し、チヨへ襲い掛かる。
「もっともっと楽しませろよ!!」
チヨは薙刀を高速で回転させ、飛来する破片を全て弾き飛ばす。
さらに勢いよく地面を踏みつけた。
ドンッ!!
衝撃で砂煙が巻き上がり、カードの視界を奪う。
その隙にチヨは大きく跳躍し、真上から薙刀を振り下ろした。
カードは寸前で気配に気付き、盾を頭上へ掲げる。
だが地面が割れていたため踏ん張りが利かず、膝をついてしまった。
「もう一発だ!!」
「怒舞斬」
チヨは盾を踏み台にして再び跳び上がる。
そして自身も回転しながら遠心力を乗せた一撃を叩き込んだ。
ガギィィン!!
凄まじい衝撃と共に、カードの盾が砕け散る。
「因果返し」
今まで盾を覆っていた茶色の光が、今度はカードの右拳へ集まる。
拳は眩い光を纏い、空中で薙刀を振り切ったチヨへ向けて振り上げられた。
「受けて立ってやるよ!!」
「怒拳」
チヨは薙刀を放り捨て、拳で迎え撃つ。
二人の拳が激突した。
最初は拮抗する。
だがチヨの拳から伝わる力を受けた瞬間、カードの拳がさらに強く輝いた。
「なっ――!?」
チヨは力負けし、そのまま後方へ吹き飛ばされる。
「夏の牡牛、昼の乙女、金の山羊、商人の理を表せ」
カードが静かに詠唱を始める。
右拳へ茶色の光が集まり続け、その輝きは今日一番の強さを放っていた。
「エレメント・バースト」
カードが拳を突き出す。
拳に集まっていた膨大な光が一気に解放され、巨大な奔流となってチヨへ襲い掛かった。
「おもしれぇぇぇ!! かかってこいや!!」
チヨは避けようともせず、両腕を大きく広げる。
真正面から受けるつもりだった。
「あああああぁぁぁぁ!!」
茶色の奔流がチヨを飲み込む。
轟音と共に光が周囲を照らした。
やがて光が消える。
そこには両足で立ったままのチヨがいた。
「ハッ……中々効いたぜ……」
チヨは笑みを浮かべながら一歩踏み出そうとする。
だが。
ガクン――
膝が崩れた。
「……あ?」
そのまま前のめりに倒れ込み、動かなくなる。
「はぁ……」
カードは大きく息を吐いた。
「もう俺には戦う力は残ってねぇ……。だからそのまま寝ててくれよ」
安堵したように肩の力を抜く。
しかし、その瞬間。
「おねーちゃん!!」
悲鳴にも似た声が響いた。
ライムが倒れたチヨの姿を見つけ、こちらへ駆け寄ってくる。
カードの表情が再び険しくなった。
「悪いけど、君の相手は僕だよ」
走るライムの正面にポートが現れると、手に持っていた手榴弾を足元へ落とした。
次の瞬間には姿を消している。
ドォンッ!!
爆発が起こる。
ライムは瞬時に粘液で全身を包み込み、衝撃を防いだ。
だが、その顔には苛立ちが色濃く浮かんでいる。
「さっきからチマチマとうぜぇなぁ!! 正面から堂々と戦えよ!!」
いつもの間延びした口調は消え失せていた。
どことなく姉のチヨを思わせる荒々しい口調になっている。
「これが俺の戦い方なんだ。卑怯とでも何とでも言えばいいさ」
ポートは倒れているチヨの傍に姿を現すと、気絶したチヨの身体を持ち上げた。
「てめぇ!! 何してやがんだ!!」
「粘液・波衝」
ライムは怒鳴りながら大量の粘液を放つ。
狙いはポートとチヨだった。
「破裂する槍」
怒りで視野が狭くなっていたライムは、背後から迫る槍に気付けなかった。
槍は容赦なくライムの胴体を貫く。
「ガハッッ!!」
ライムは血を吐き出しながら正面を見る。
しかし、そこにポートの姿はない。
粘液に呑まれていたのはチヨだけだった。
「よくやってくれた、ルーク」
ポートは粘液が届く前に瞬間移動していた。
三十メートルほど離れた場所で、青い鎧を纏うルークの隣に立っている。
「ポートさんが気を引いてくれたお陰ですよ!」
ルークが返事をすると、ポートは軽く肩を叩いた。
それが彼なりの感謝の表現だった。
そして再び姿を消す。
次に現れたのはライムの正面だった。
「この……卑怯者、が……」
ライムは血を吐きながらポートを睨みつける。
しかしポートの表情は変わらない。
「好きに言えよ」
静かな声だった。
「戦争ってのは最後に立ってた奴が勝ちなんだよ」
そう言い残し、再び姿を消す。
次の瞬間。
ライムの背後から青白い電流が走った。
バチィッ!!
「ッ――!」
全身を電流が駆け巡り、ライムはその場に崩れ落ちる。
完全に意識を失っていた。
「ルーク! この女を本部まで運んでくれ!」
ポートは倒れたライムを抱え上げると、大声で呼びかける。
「了解です!」
ルークはすぐに駆け寄ってきた。
「カードはそいつを連れて行ってくれ。どうせもう戦力にならないだろ?」
「あぁ。俺はもう能力が使えねぇから、こいつを本部に連れて行く。だがお前はどうするんだ?」
カードはチヨを担ぎながら問いかける。
「俺は色んな場所を回って情報収集だな」
ポートは軽く肩を竦めた。
「こいつらは頼んだよ」
そう言い残すと、瞬間移動で姿を消す。
「……なんか今日のあいつ、いつにも増して頼りになるな」
カードは呆れたような表情を浮かべる。
だがすぐにルークがライムを担ぎ上げた。
二人は気絶した姉妹を連れ、超能隊本部へ向かって歩き出していった。




