恐竜
上空で戦っていたビースとダイナは、互いに満身創痍だった。
「はぁ……はぁ……。中々やるじゃねぇか」
ビースは鷲の姿で空を飛んでいる。
だが、その翼からは何枚もの羽が抜け落ち、鋭かった嘴も先端が欠けていた。
「……おめぇらもな」
プテラノドンの姿をしたダイナも全身から血を流している。
「チッ。どうやらタイムがやられちまったみてぇだな」
ダイナは地上へ視線を向ける。
「残念だがおめぇとの遊びは終わりだ。下の奴らもまとめてぶっ潰してやる」
「アルゼンチノサウルス」
ダイナの体が光に包まれる。
その体はみるみる巨大化し、長い首と尾、四本の太い脚を持つ巨獣へと姿を変えた。
全長三十メートルを超える超巨大恐竜。
空中から落下したその巨体が地面へ激突する。
轟音。
地面は大きく陥没し、衝撃波によって周囲の建物の壁が崩れ落ちた。
地上にいたバンとイスは、いつの間にかビースの近くまで移動していた。
イスはバンに抱えられている。
「イス、ビースを強化してやってくれ」
「分かりました!」
バンがイスをビースの背中へ移す。
イスの左手薬指から赤い糸が伸び、ビースの爪へ繋がる。
瞬間、ビースの全身が赤い光に包まれた。
「ゴォォォォォ!!」
ダイナは長い首を薙ぎ払うように振るう。
まるで巨大な鉄柱が横から迫ってくるかのようだった。
「避けろ!」
バンは咄嗟にビースを突き飛ばす。
だが、自身は回避が間に合わない。
轟音と共に吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
「バン!!」
ビースが叫ぶ。
しかし、すぐに意識を切り替える。
ダイナの背中へ飛び乗ると、空中で姿を変えた。
鷲からゴリラへ。
「イス! しっかり捕まっとけよ!!」
「はい!」
イスが背中へしがみ付く。
「極・大猩猩拳!!」
「ガァァァァァ!!」
巨大な拳がダイナの背中へ叩き込まれる。
鈍い衝撃音が響く。
ダイナの巨体が大きく傾き、そのまま地面へ倒れ込んだ。
轟音と共に砂埃が舞い上がる。
「バンさん、大丈夫ですか!?」
ビースはすぐに吹き飛ばされたバンの元へ駆け寄る。
「えぇ、大丈夫よ」
バンは既に立ち上がっていた。
服は破れ、口元には血が滲んでいるが致命傷ではないようだ。
「おい、来るぞ!」
ビースが叫ぶ。
砂埃の向こうから重い足音が響いてくる。
ドカン。
ドカン。
ドカン。
地面が揺れる。
やがて砂煙の中から姿を現したのは――
ティラノサウルス。
短い前脚。
異様なまでに発達した後脚。
そして何でも噛み砕きそうな巨大な顎。
「悪魔・血爆」
バンが手をかざす。
血液の塊が一直線に飛ぶ。
ダイナは躊躇なく口を開き、その塊を飲み込んだ。
次の瞬間。
ドンッ!!
口内で爆発が起きる。
ダイナの腹が一瞬だけ膨らみ、口から灰色の煙が漏れ出た。
「グルルルル……」
ダイナは僅かによろめく。
だが、それだけだった。
すぐに体勢を立て直すと、獲物を狩る肉食獣のような目で三人を睨み付ける。
そして再び地面を揺らしながら突進を開始した。
「いくぞ、ビース!」
「おう!!」
バンとビースは迫り来るダイナの正面に立つ。
互いに頷き合うと、同時に拳を振りかぶった。
「極・大猩猩拳!!」
「悪魔・血拳」
二人の拳が同時にダイナの顔面へ叩き込まれる。
「グォォォォォ!!」
ダイナの巨体が大きくのけ反った。
そのまま地面へ倒れ込むと、ティラノサウルスの姿が光に包まれ、人間の姿へ戻っていく。
「ふぅ……終わったか」
ビースはゴリラの姿を解除すると、額の汗を拭った。
「お疲れ様です〜! 二人とも怪我は大丈夫ですか〜?」
イスが駆け寄ってくる。
「えぇ、大丈夫よ」
バンは息を整えながら答える。
「ただ、この形態は体力を使い過ぎるわね……」
全身に浮き出ていた血管が引いていき、赤黒く染まっていた肌も元の色へ戻る。
その瞬間だった。
ピクリ。
ダイナの指先が動く。
「!」
真っ先に異変へ気付いたのはビースだった。
「まだだ!!」
ビースは反射的にダイナへ駆け出す。
しかし――
ドォォン!!
ビースの身体が突然吹き飛んだ。
「なっ!?」
バンが目を見開く。
ビースの身体はいくつもの建物や瓦礫を突き破りながら遥か後方へ飛ばされていった。
先程まで倒れていたはずのダイナは、既に立ち上がっている。
そして。
その左胸は眩い光を放っていた。
「unlimited」
静かな声が響く。
ダイナの全身を硬質な鱗が覆っていく。
額からは二本の角が伸び、背後には長い尻尾が現れる。
巨大な恐竜へ変身した時とは違う。
今度は人間の体格のまま、恐竜の力だけを凝縮したような姿だった。
「悪いな」
ダイナは拳を握る。
その鋭い瞳には、わずかな悲しみが宿っていた。
「負けるわけにはいかねぇんだ」
周囲へ圧力が広がる。
先程までとは明らかに別次元の威圧感だった。
バンはその姿を見て表情を曇らせる。
「イス……悪いけど無茶をさせるわよ」
珍しく弱気にも聞こえる声だった。
イスもまた、その意味を理解している。
いつも浮かべている柔らかな笑顔は消えていた。
「……はい」
真剣な表情で頷く。
二人は目の前に立つ怪物を見据えた。




