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unlimited  作者: 轟号剛


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荒天

――80年ほど前


西の国・キクレン。


その日は国が滅びる日だった。


サイラクの軍勢が研究所へ攻め込み、キクレンの民は総力を挙げて迎え撃っていた。


キクレンでは子供の頃から戦闘訓練を受ける。


老人も女も子供も関係ない。


戦える者は全員が戦士だった。


「必ず奴らを討ち取れ!!」


男の怒号が響く。


「命を犠牲にしてでも倒すのだ!!」


その言葉に応えるように、キクレンの戦士達は雄叫びを上げる。


巨大な研究所は炎に包まれていた。


数千人を収容できるほどの施設だったが、今では至る所から黒煙が立ち上っている。


周囲ではサイラクとキクレンの兵士達が命を削り合っていた。


悲鳴。


怒号。


爆発音。


血の匂い。


地獄そのものだった。


そんな戦場から離れた森の中を、一人の女性が歩いていた。


右足を引きずりながら。


腕の中には、生まれて間もない赤子が抱かれている。


女性の顔に浮かんでいるのは悲しみではない。


純粋な憎悪だった。


「許さない……!」


息を切らしながら森を進む。


「赦さない……!」


抱きしめる力が強くなる。


「よくも私達の研究を……!」


瞳から涙が零れる。


「もう少しだったのに……!」


女性は叫んだ。


「あの方を解放する方法を見つけられていたはずだったのに!!」


森の中へ声が響く。


その時だった。


背後から足音が近づいてくる。


「待て!!」


振り返る。


そこには一人の男がいた。


サイラクの兵士だ。


「お前はあの研究所にいた人間だろう!」


男は剣を構える。


「逃がすわけにはいかないんだ!」


女性は歯を食いしばった。


「来るんじゃない!!」


必死に走ろうとする。


しかし傷付いた足では限界があった。


距離は徐々に縮まる。


そして――


「捕らえたぞ!」


男の手が女性の肩を掴む。


その瞬間だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


腕の中の赤子が激しく泣き叫ぶ。


直後。


轟音。


突風が森を吹き荒れた。


「なっ――!?」


男の体が吹き飛ぶ。


さらに。


空を覆っていた雲から雷が落ちた。


轟雷。


男は悲鳴を上げる暇すらなかった。


体は黒焦げになり、その場へ倒れ伏す。


女性は呆然とする。


そして腕の中を見る。


赤子は泣いていた。


まるで怒っているかのように。


「はぁ……はぁ……」


女性は震える手で赤子を抱き締める。


「いい子ね……ウェザー……」


母親の声は優しかった。


その瞳だけが憎悪に染まっている。


「生きなさい……」


女性は再び歩き出す。


燃え盛る故郷を背に。


復讐の火種を抱えながら。


森の奥へと消えていった。


---


首都ベゴニア 遥か上空


「ここで平和に過ごしてきたお前達に分かるか? 俺が八十年もの間、絶やすことなく抱き続けてきたこの憎しみが!!」


ウェザーが腕を掲げると、黒雲の中で雷が荒れ狂い始める。


次の瞬間、ゴクウ達四人それぞれに向かって雷が落ちていった。


「ゴジョウ! ハッカイを守れ!」


ゴクウは腰に付けていた黒玉を空へ放る。


黒玉から大量の黒煙が噴き出し、降り注ぐ雷を呑み込んだ。


同じくゴジョウとハッカイは結界によって守られ、ブレイクは右手で雷に触れることで消し去っていた。


「今度はこちらがこの国を滅ぼす番だ。覚悟しろよ、サイラクの民ども!!」


ウェザーは黒く染まった瞳で四人を見下ろし、不敵な笑みを浮かべる。


「ガタガタうるせぇんだよ!!」


いつの間にかウェザーの背後へ回り込んでいたゴクウが棒を振り下ろす。


しかし、ウェザーを包む風の障壁に阻まれ、そのまま吹き飛ばされてしまう。


だが、その背後から白い煙に乗ったブレイクが飛び出した。


「消滅させる右手(エクスティンクション)


ブレイクの右手が風の障壁に触れた瞬間、障壁は跡形もなく消滅する。


そのままウェザーへ右手を伸ばした。


「お前はかなり危険だな」


ウェザーは寸前でブレイクの存在に気付く。


全身を雷へと変化させると、数メートル下へ瞬時に移動してブレイクの攻撃を回避した。


巨手(ビッグハンド)!」


しかし、その移動先には視界を埋め尽くすほど巨大な拳が迫っていた。


「読まれていたか」


雪達磨(ユキダルマ)


ウェザーは瞬時に全身を雪で覆い、巨大な雪玉へと姿を変える。


直後、ハッカイの拳が直撃した。


雪玉は粉々に砕け散り、その中から現れたウェザーが勢いよく吹き飛ばされる。


「やるではないか。では、お返しだ」


ウェザーは空中で体勢を立て直すと、降り続く雨へ手を向ける。


雷鮫(ライサメ)


雨水が集まり、一匹の巨大な鮫へと姿を変える。


さらに上空から雷が落ち、鮫の全身を電撃が覆った。


雷鮫は一瞬でハッカイとの距離を詰め、大口を開いて襲い掛かる。


だが、ハッカイの周囲には正方形の結界が展開されていた。


鮫が結界へ噛み付いた瞬間、雷鮫ごと消滅する。


「最初から俺の狙いは貴様だ」


次の瞬間。


雷を纏ったウェザーがゴジョウの眼前へ現れる。


雷勁(ライケイ)


ウェザーの掌がゴジョウの腹部に触れた。


「がはっ!!」


凄まじい電流が体内を駆け巡る。


ゴジョウは大量の黒煙を吐き出しながら、地上へ向かって落下していった。


「とどめだ」


ウェザーは冷たく呟く。


切雨(キリサメ)


降り注ぐ雨が鋭い弾丸へと変化し、落下するゴジョウへ襲い掛かる。


「水操・水玉」


雨弾が届く寸前。


無数の水が集まり、ゴジョウを包む巨大な水球を形成した。


雨弾は勢いを失い、水球へ吸い込まれていく。


そのまま水球は地面へ落下し、衝撃を和らげた。


「穏やかじゃないな」


静かな声が響く。


足裏から水を噴射しながら現れたのはアクアだった。


アクアはゴジョウを救うと、そのままウェザーへ向かって上昇していく。


「次から次へと……まるであの時のように数だけはいるんだな」


ウェザーの瞳に憎悪が宿る。


「いいだろう……全員まとめて殺してやる」


崩天(コラプス)


ウェザーを中心に巨大な竜巻が発生する。


巻き込まれた雨粒は弾丸へと変わり、黒雲からは無数の雷が降り注ぐ。


まさに天災そのものだった。


「来て早々で随分とヒートアップしているじゃないか」


アクアは冷や汗を流しながらも全身を水で覆い、臨戦態勢を取る。


その視線は一瞬たりともウェザーから外れていなかった。

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