回転
「炎虎」
フレイが両腕を広げる。
すると炎でできた巨大な虎が現れ、スピンへ向かって大口を開けて襲いかかった。
「散回」
対するスピンは炎虎へ右手を当てる。
瞬間、炎虎はその場で激しく回転し始めた。
炎は四散し、巨大な虎は跡形もなく消えてしまう。
「まだまだ! こんなもんじゃないでしょ!?」
スピンは笑いながらフレイへ接近する。
「回風」
両手から放たれた風が渦を巻きながら左右からフレイを挟み込む。
「ヒャッフゥゥゥー!!」
フレイは炎を纏った拳を振り抜く。
しかしスピンはその拳に手のひらを当てた。
次の瞬間。
フレイの腕を支点にして風車のように回転する。
「うぉぉっ!?」
視界がぐるぐると回り、思わず情けない声が漏れる。
それでもフレイは手足から炎を噴射し、無理やり回転を止めた。
「めんどくせぇ能力だな」
頭を掻きながら悪態をつく。
その時だった。
【戦闘中の皆さん緊急連絡です! 今回の敵は追い込まれると命を犠牲に強大な力を得るようです! 可能な限り早急に意識を奪ってください!】
パシーの声が頭の中に響く。
フレイの表情が変わった。
(命を犠牲にする力……)
ゴクウ達から聞いたボルトやメタが使った力。
(あのことか。そりゃマズいな)
フレイは静かに拳を握った。
「時間がねぇ。本気でいくぞ」
「炎魔」
轟音と共に炎が膨れ上がる。
フレイを中心に炎が集まり、全長五メートルほどの巨大な炎の魔人が姿を現した。
「おぉぉぉ!!」
スピンの目が輝く。
まるで子供が新しい玩具を見つけたような顔だった。
「獄炎・魔人の怒り」
魔人が両手首を合わせる。
巨大な火球が生まれた。
そしてスピンへ放たれる。
「散回!」
スピンは再び手をかざす。
火球は回転し始め、炎は散って消えていく。
しかし――
「っ!?」
火球の向こうにいたはずのフレイがいない。
「獄炎・魔人の握撃」
真上から声が降ってくる。
気づいた時には遅かった。
魔人の巨大な手がスピンを掴み上げる。
「しまっ――」
轟炎。
魔人の掌から放たれた炎がスピンを包み込む。
「グァァァァァ!!」
「自転!!」
スピンは全身を高速回転させる。
だが炎は消えない。
魔人の手から直接送り込まれる炎は、回転だけでは振り払えなかった。
回転速度が徐々に落ちていく。
悲鳴も小さくなっていく。
やがて――
スピンの体から力が抜けた。
完全に意識を失ったのだ。
フレイは魔人を消し去る。
そして気絶したスピンを抱えたまま地上へ降りていった。
⸻
「おう、フレイ」
裏口へ入ると聞き慣れた声が響く。
黒髪のオールバック。
強面の大男。
ストロング・アイマーだった。
「敵を倒したんだな。そいつは俺が牢屋に入れとく。治療はいるか?」
「いや、大した怪我じゃねぇ」
フレイはスピンを預ける。
「じゃあ頼んだ」
そう言い残し、再び戦場へ戻っていった。
ストロングは気絶したスピンを見る。
全身火傷だらけ。
まだ幼さの残る顔。
「こんな子供が戦争の道具にされてるなんてな……」
拳を握る。
「許せねぇ」
そう呟きながら、地下牢へ続く階段を降りていった。
-
宇宙空間のような空間に閉じ込められたチェスは、ペースから繰り出される様々な攻撃を前にしても涼しい顔を崩していなかった。
ペースの生み出す攻撃はどれも強力だ。
しかし、その全てがチェスへ届く前に騎士達によって防がれている。
「何でなんだ!! ここでは僕の想像が全て現実になるのに!!」
ペースは怒鳴り声を上げる。
巨大な水塊を生み出すと、山のような質量のままチェスへ叩きつけた。
「零・氷山」
クイーンが静かに剣を振る。
巨大な水塊は一瞬で凍り付き、氷山へと変わった。
その直後。
ペースの真上からビショップが剣を振り下ろす。
「っ!」
ペースは咄嗟に腕を銀色の鉄へ変化させる。
剣撃は防いだ。
だが衝撃までは殺しきれず、右膝を地面へついてしまう。
その瞬間。
雷の鳥が飛来する。
ビショップへ体当たりすると、そのまま遠くへ吹き飛ばした。
「近づくな!!」
今度はポーンが迫る。
巨大なハンマーを振り上げ、そのまま振り下ろした。
ペースが叫ぶ。
見えない衝撃が発生し、ポーンの体も吹き飛ばされる。
しかし。
吹き飛ばされるポーンの横を一本の槍が駆け抜けた。
一直線。
まるで獲物だけを狙う矢のように。
「はぁっ!」
ペースの前に氷壁が出現する。
槍は氷壁へ突き刺さった。
壁は砕ける。
だが槍も勢いを失い地面へ落下した。
砕け散った氷の破片が宙を舞う。
その氷煙の向こうからナイトが現れる。
その剣には水色の波動が纏われていた。
「っ!」
ペースは全身を鉄へ変化させる。
だが――
ナイトの剣は鉄の肉体を容易く切り裂いた。
「あぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が響く。
そして。
ペースの背後にクイーンが現れた。
「真冬の眠り」
首元へ手が添えられる。
一瞬だった。
ペースの瞳から力が抜ける。
そのまま崩れ落ちた。
同時に。
二人を包み込んでいた宇宙空間がガラスのように砕け散る。
景色が戻る。
学校前だった。
チェスは倒れたペースを受け止める。
「ビショップよ。この子を本部へ連れて行っておくれ」
「御意」
ビショップはペースを抱えると翼を広げ飛び立った。
ちょうどその時。
パシーからの連絡が頭の中へ響く。
【敵は命を代償に力を得る禁術を使用する可能性があります――】
「命を犠牲にする力……unlimitedか」
チェスは静かに呟く。
数秒間、目を閉じる。
何かを思い出すように。
そして再び目を開いた。
「皆、各地の戦場へ向かうのじゃ」
「「「「御意」」」」
ビショップを除く四人の騎士は即座に走り出す。
その背を見送りながら、チェスは空を見上げた。
「嫌でも、あの日を思い出してしまうのぉ……」
その表情はどこか寂しげだった。




