任務
今日は木曜日。
ウィークの身体を動かしているのは、木曜日担当のサース・ウィークだった。
チューズやウェンが使っていた部屋。
そこに今いるのは、緑色のマッシュヘアと知的な瞳を持つ青年だ。
サースは椅子に腰掛け、静かに目を閉じていた。
「そろそろ時間ですね」
他の人格たちと違い、サースはパシーの起床連絡を必要としない。
ゆっくりと立ち上がると家を出た。
⸻
街外れの森。
木々に囲まれた広場へ到着したサースは、切り株の上に腰を下ろす。
「少し早かったようですね」
目を閉じ、静かに瞑想を始める。
十分後。
二人の人物が姿を現した。
「サース、待たせたぜぃ!」
ムサシだった。
その後ろには大柄な坊主頭の男、マグもいる。
「いえ。今来たところです」
サースは微笑みながら立ち上がる。
そして地面へ手を触れた。
瞬間。
ゴゴゴゴ――
何もなかった広場から大量の木々が生え始める。
「相変わらず便利な能力だぜぃ」
ムサシは刀を抜いた。
次の瞬間。
ザンッ!
ザンッ!
ザンッ!
生えた木々が次々と切り倒されていく。
「マグ!」
「うす」
マグは無駄なく木材を台車へ積み込んでいく。
そしてサースは倒れた木を見ながら、再び能力を使う。
切り株から新たな木が生える。
伐採。
再生。
伐採。
再生。
三人は慣れた手付きで作業を進めていった。
⸻
やがて台車が木材でいっぱいになる。
「こんなもんだろうぜぃ」
ムサシは刀を肩へ担いだ。
「そういえばサース」
「はい?」
「ブレイクさんがお前たちカインズに用があるらしい」
サースが首を傾げる。
「ブレイクさんが?」
「詳しくは知らねぇぜぃ」
「分かりました」
サースは二人へ頭を下げる。
「ありがとうございました」
⸻
超能隊本部。
到着すると、既にアブとオーラが待っていた。
「サース!」
「遅いぞ!」
「僕が最後でしたか」
「いや、今来たところだ」
オーラは笑う。
三人はそのまま二階へ向かった。
⸻
部屋の中ではブレイクが椅子に座っていた。
「よく来たの」
三人は机の前に並ぶ。
「カインズに頼みたい仕事がある」
ブレイクが口を開く。
「ある人物を超能隊へ勧誘してきてほしい」
「勧誘ですか?」
サースが尋ねる。
「そうだ」
ブレイクは頷く。
「名はドラゴ」
その名前を聞いた瞬間、部屋の空気が少し変わった。
「能力が強すぎて制御できず、現在は山に籠って修行しているらしい」
「強すぎて制御できない……」
アブが呟く。
「場所はアネモネ山」
ブレイクは三人を見る。
「超能隊に必要な人材だ」
⸻
本部を出た後。
「面白そうじゃねぇか!」
オーラが拳を握る。
「能力が暴走するほど強いんでしょ?」
アブも興味津々だ。
「アネモネ山は南です」
サースが説明する。
「今から向かえば夕方には着くでしょう」
「じゃあ決まりだな!」
三人は歩き出した。
⸻
その頃。
別の場所。
「ピエロくん」
コピは椅子に腰掛けながら本を閉じる。
「アネモネ山へ行こう」
お手玉をしていたピエロが顔を上げた。
「ハハ、また盗み聞きですか?」
「面白い話が聞けたんだ」
コピは微笑む。
「超能隊が新人を勧誘しに行くらしい」
「ハハ」
ピエロが笑う。
「邪魔しに行くんですか?」
「いや」
コピは立ち上がった。
「先に会いに行くだけさ」
パチン。
指を鳴らす。
次の瞬間、コピの背中から巨大な翼が生えた。
足は鋭い鉤爪を持つ鳥の脚へ変化する。
ピエロは慣れた様子でベランダへ出る。
「ハハ、よろしくお願いします」
コピはピエロの肩を掴んだ。
そして翼を大きく広げる。
バサァッ!
二人の身体が空へ舞い上がった。
遠く南。
アネモネ山へ向かって。
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アネモネ山。
カインズの三人はドラゴに会うため山道を登っていた。
階段は整備されているが、それでもかなりの距離がある。
「はぁ……はぁ……」
アブは既に息を切らしていた。
「まだ着かないの〜?」
「もう少しですね」
サースが周囲を見渡しながら答える。
「山に住んでいるなら小屋があるはずです」
その時だった。
「おい!」
先頭を歩いていたオーラが声を上げる。
「あれ見ろ!」
指差した先。
山頂付近に小さな小屋が見えた。
「恐らくあれでしょう」
サースが頷く。
「よし!やっと着くな!」
オーラが笑う。
「少し休憩したら――」
「そうはさせませんよ」
突然、上空から声が降ってきた。
三人が顔を上げる。
巨大な翼を生やした男が空から降下していた。
男は静かに地面へ着地する。
「誰だお前」
オーラが前へ出る。
男は微笑んだ。
「メシアのリーダー、コピです」
だがその笑顔には妙な不気味さがあった。
「ドラゴさんは私達に必要な人材なのでね」
コピは眼鏡を押し上げる。
「ここで足止めさせてもらいます」
アブの表情が変わる。
「なるほど」
「先に誰かをドラゴのところへ向かわせたのね」
「ご想像にお任せします」
否定しない。
サースは地面へ手を置いた。
「つまり時間が無いという事ですね」
「だな」
オーラが拳を鳴らす。
「なら、さっさとやっちまおうぜ!」
オレンジ色のオーラが全身を包む。
オーラは地面を蹴り、一直線にコピへ突っ込んだ。
パチン。
コピが指を鳴らす。
「炎球」
掌から放たれた火球が一直線に迫る。
だが。
「三木壁」
サースが地面へ手を触れる。
直後、三本の大木が地面を突き破り、火球を受け止めた。
轟音。
炎が木々を包み込む。
燃え上がる木々の陰からオーラが飛び出した。
さらに左右からアブの分身。
後方ではサースの木々が逃げ道を塞いでいる。
完全包囲だった。
「いいチームワークだ」
コピが微笑む。
パチン。
「霊化」
「らぁぁぁ!」
オーラが拳を振るう。
アブ達も同時に飛び込んだ。
だが。
拳は当たらない。
コピの身体をすり抜けた。
「なっ!?」
三人の攻撃が空を切る。
勢い余ったアブの分身同士がぶつかり合い、煙となって消えた。
そして。
ドゴッ!!
コピの蹴りがオーラの腹へ突き刺さる。
「ぐっ!」
オーラが数歩後退する。
しかし倒れない。
オレンジ色のオーラが衝撃を吸収していた。
「なんなんだよ……!」
オーラが歯を食いしばる。
「能力が変わりすぎだろ!」
サースも眉をひそめる。
「炎に変身……そして今のは透過能力でしょうか」
アブはコピから目を離さない。
「もしレイさんの能力なら――」
そこで何かに気付いた。
「二人とも合わせて!」
⸻
周囲に十人以上のアブが現れる。
同時に走り出した。
サースも能力を発動する。
「包樹圧木」
コピの周囲を囲むように巨大な木々が生えた。
枝が蛇のように伸びる。
逃げ場はない。
しかし。
コピは空中へ浮かび上がった。
木々をすり抜けながらオーラへ向かう。
「今よ!」
アブが叫ぶ。
分身の群れからオーラが飛び出した。
コピが腕を上げる。
だが遅い。
ドゴォッ!!
拳が炸裂した。
コピの身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、木に激突した。
「ぐっ……!」
コピが顔を歪める。
右手の指があり得ない方向へ曲がっていた。
「やった!」
オーラが叫ぶ。
アブは口元を上げる。
「やっぱりね」
コピが顔を上げる。
「なるほど」
「見抜かれていましたか」
アブは頷いた。
「その能力、ずっと使い続けられるわけじゃない」
「霊化には時間制限がある」
「だからわざと分身をぶつけて時間を稼いだのよ」
コピは感心したように笑った。
「流石ですね」
⸻
パチン。
「回復」
緑色の光が指を包む。
折れていた指がみるみる元通りになった。
オーラの顔が引きつる。
「おいおい……」
サースの額から汗が流れる。
「今のはストロングさんの能力ですね」
コピは笑う。
「別に何でも使えるわけではありませんよ」
「例えばウィークさんの能力は使えませんでした」
その言葉にサースの目が僅かに開いた。
パチン。
コピが指を鳴らす。
その瞬間、姿が消えた。
「消えた!?」
オーラが目を見開く。
次の瞬間。
ドサッ。
鈍い音が響いた。
振り向くとアブが力なく地面へ倒れていた。
その背後には、いつの間にかコピが立っている。
「アブ!!」
オーラが叫ぶ。
サースの表情も僅かに変わった。
「瞬間移動ですか……」
サースは地面へ手を押し当てる。
「超能隊の能力が使えるのなら、ポートさんの能力も警戒すべきでしたね」
悔しさを滲ませながら能力を発動する。
地面が盛り上がる。
大量の木々がコピへ襲い掛かった。
しかし。
パチン。
コピが指を鳴らす。
そして向かってくる木へ手を触れた。
触れた瞬間。
木々は跡形もなく消滅した。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「今度はブレイクさんの能力ですか……」
サースの額を汗が伝う。
能力の数が多すぎる。
何が本来の能力なのかすら分からない。
⸻
「アブをよくも!!」
オーラが怒号を上げる。
オレンジ色のオーラが激しく揺らめいた。
一直線にコピへ突っ込む。
「殺していませんよ」
コピは落ち着いた声で答える。
「彼女は貴重な戦力ですからね」
そして右手を前へ出した。
だが。
「針樹雨」
サースが先に動く。
地面から無数の木の針が空へ打ち上がった。
空を覆い尽くすほどの数。
次の瞬間。
雨のように降り注ぐ。
アブの身体は木々が包み込み守っていた。
一方オーラは全身のオーラを右腕へ集中させる。
オレンジ色のモヤが傘のように広がった。
降り注ぐ木の針を弾いていく。
「これは流石に右手だけでは防げなさそうですね」
コピは微笑む。
パチン。
オレンジ色のオーラが現れる。
それはオーラと同じように傘の形へ変化した。
ガガガガガッ!!
無数の木針が二人へ降り注ぐ。
しかし一本たりとも届かない。
全て弾かれていた。
⸻
やがて木の雨が止む。
その瞬間だった。
オーラが地面を蹴る。
「らぁぁぁぁ!!」
一直線にコピへ向かう。
だが。
ボン!!
突然、小屋のある方角の空で爆発が起きた。
赤い光が空へ広がる。
オーラの視線が一瞬だけそちらへ向く。
その僅かな隙。
コピが笑った。
「時間ですね」
パチン。
「ピンクボール」
桃色の球が現れる。
「ピンクカーテン」
球が弾けた。
コピを中心に桃色のカーテンが閉じていく。
「待て!!」
オーラが飛び込む。
しかし遅い。
カーテンが完全に閉じた。
そして。
静かに消える。
そこにはもう誰もいなかった。
⸻
「クソッ!!」
オーラの拳が地面へ叩きつけられる。
土が砕け散った。
サースは小屋の方を見つめる。
「恐らく……終わったのでしょう」
「終わった?」
オーラが振り返る。
「ドラゴの勧誘です」
サースは静かに言った。
「先程の爆発は合図だったのでしょう」
「つまりコピは足止め役だった」
その言葉にオーラは歯を食いしばる。
⸻
「うぅ……」
倒れていたアブが目を覚ます。
すぐに立ち上がり周囲を見渡した。
「あいつは!?」
しかし姿はない。
その反応だけで全てを理解したようだった。
「逃げられたのね……」
「アブ!」
オーラが駆け寄る。
涙目になりながら肩を掴んだ。
「無事でよかった……!」
「大げさよ」
アブは苦笑する。
しかし少し嬉しそうだった。
⸻
「一応、小屋を確認しましょう」
サースが言う。
「その後ブレイクさんへ報告です」
アブは頷いた。
「そうね」
「恐らくもう誰もいないでしょうけど」
その言葉通り。
カインズに与えられた任務は失敗に終わった。
ドラゴ。
コピ。
メシア。
新たな謎だけを残して。
三人は重い足取りで小屋へ向かった。




