道場破り
超能隊本部。
街の中でもひときわ大きな建物の一階は酒場のようになっており、昼間から酒を飲む者や仲間同士で談笑する者たちで賑わっていた。
そんな穏やかな空気をぶち壊すように、入口の扉が勢いよく開かれる。
バァン!
「ここの一番強い奴を出せ!」
店内の視線が一斉に入口へ集まる。
そこに立っていたのは、茶髪のツンツン頭にピアスを付けた若い男だった。
「トップと今すぐ戦わせろ!」
威勢よく叫ぶ男に、酒を飲んでいた一人の男が立ち上がる。
「なんだお前、道場破りのつもりか?」
黒髪のボサボサ頭。
チーム・ブルームのビースだった。
「だったらまず俺が相手してやるよ!」
ビースは床を蹴って飛び上がる。
その瞬間、両腕が巨大なゴリラの腕へと変化した。
「うおおおっ!」
勢いそのままに殴りかかろうとする。
しかし――
「やめぇぇぇい!!」
二階から響いた怒号に、店内全員が反応した。
ビースの動きが止まる。
二階中央の扉から現れたのは、黒と白が混ざった髪を持つ筋骨隆々の老人。
超能隊隊長。
ブレイク・ハスメルだった。
「ブレイクさん!」
ビースは不満そうに眉をひそめる。
「なんで止めるんだよ! 向こうから売ってきた喧嘩だぞ!」
「ビースよ」
ブレイクはゆっくり階段を下りる。
「どうやら喧嘩を売られたのは私らしい」
その一言だけで空気が変わった。
「ならば私が買うのが筋というものだろう」
⸻
修練場へ移動した後。
「所で、お主の名は?」
ブレイクが尋ねる。
「バル・ジャック」
男はニヤリと笑った。
「これからお前を倒して、超能隊のトップになる男だ!」
周囲から失笑が漏れる。
呆れる者。
面白そうに笑う者。
無表情な者。
反応は様々だった。
しかしブレイクだけは真顔だった。
「うむ」
ただ一言。
「威勢だけは立派じゃな」
⸻
「泡弾!」
バルの掌から泡が放たれる。
一直線にブレイクへ向かう泡。
だがブレイクは動かない。
右手を前へ出すだけ。
パチン。
泡は右手に触れた瞬間、跡形もなく消滅した。
「なっ……!?」
バルの表情が変わる。
「何が起きた?」
「消えた?」
見守る者たちの間にもざわめきが広がる。
しかしブレイクは平然としていた。
「終わりか?」
「まだだ!」
バルは大量の泡を生み出す。
「泡機銃!」
無数の泡が弾丸のように飛ぶ。
だが結果は同じだった。
ブレイクの右手が触れる度に泡が消えていく。
爆発もしない。
音すら残らない。
まるで存在そのものが消されているかのようだった。
⸻
「巨大泡!」
最後の切り札。
天井近くまで膨れ上がった巨大な泡が突進する。
それでもブレイクは避けない。
右手を前に出す。
触れた。
次の瞬間。
巨大な泡は一瞬で消滅した。
まるで最初から存在していなかったかのように。
静寂が訪れる。
「……」
バルは膝をついた。
「俺の負けだ」
握り拳が震えている。
「ここまで差があるとは思わなかった」
⸻
「どうだ?」
ブレイクが手を差し出す。
「超能隊に入らんか?」
バルは驚いた顔をした。
「俺を?」
「能力も悪くない。根性もある」
ブレイクは笑う。
「鍛えればもっと強くなる」
バルはしばらく黙り込む。
だが首を横に振った。
「悪いな」
立ち上がりながら答える。
「俺はトップになるために来たんだ」
その目にはまだ闘志が残っていた。
「部下になる気はねぇ」
⸻
バルが去った後。
パシーが首を傾げる。
「もっと良い勝負になると思ったんですけどね〜」
ブレイクは小さく笑った。
「相手が悪かっただけだ」
「と言いますと?」
「私の能力に気付けば、もう少し善戦できたじゃろう」
周囲の隊員たちがブレイクを見る。
ブレイクは自分の右手を見つめた。
「右手で触れたものを破壊する」
さらりと言う。
「それだけのこの能力の対処法などいくらでもある」
その場にいた全員が苦笑した。
それだけ。
その”それだけ”が恐ろしいことを、誰もが知っていたからだ。




