キクレン
超国西部 集落
首都ベゴニアから西へ離れた場所。
そこには地図にも載らない小さな集落が存在していた。
集落に住む者の大半は子供だった。
年齢は十歳にも満たない者ばかりで、大人の姿はほとんど見当たらない。
集落の中心では、一人の老人が杖にもたれながら子供達へ話をしていた。
老人の名はウェザー。
痩せ細った体と深く刻まれた皺が、その長い年月を物語っている。
「我々の持つ超能力とは、自身の意志が力となるものだ」
ウェザーはゆっくりと口を開く。
「意志が強ければ強いほど、その力はより強大になる」
子供達は誰一人として口を挟まない。
ただ無言でウェザーを見つめている。
「そして超能力には、もう一つの使い方がある」
ウェザーの目が細くなる。
「自身の命を燃やし、その力を限界以上に引き出す方法だ」
「死んでも守りたいもの」
「何が何でも成し遂げるという覚悟」
「それらを持つ者は強大な力を得ることができる」
しかし――
「そんな話どうでもいいから、家に帰らせてくれよ!」
一人の少年が立ち上がった。
不満を隠そうともせず声を張り上げる。
その瞬間。
ウェザーの表情が消えた。
「黙れ」
老人は片手を少年へ向ける。
ゴォッ!!
突風が吹き荒れた。
少年の体は数メートル先まで吹き飛ばされ、地面を転がる。
「ぐっ……!」
「ゴード」
ウェザーは振り返ることもなく呼ぶ。
「その子を教育してやれ」
「承知しました、ウェザー様」
近くに立っていたスーツ姿の男が頭を下げる。
ゴードは倒れている少年の服を掴み、乱暴に持ち上げた。
「や、やめてくれ!」
「連れて行かないでくれよ!」
少年は必死に抵抗する。
しかしゴードは気にする様子もなく、そのまま近くの小屋へ連れて行った。
バタン――
扉が閉まる。
その光景を見ても、他の子供達は反応を示さない。
助けようともしない。
視線を向けようともしない。
まるで最初から何も見ていなかったかのように。
その瞳には光が無かった。
希望も感情も失われているようだった。
「話を戻そう」
ウェザーは何事もなかったかのように続ける。
「お前達が強大な敵と戦い、敗北しそうになった時」
「命を燃やすのだ」
「そうすれば、その敵すら打ち倒せる力を得られるだろう」
誰も返事をしない。
ただ黙って聞いている。
話が終わると、子供達は一言も発することなく、それぞれの小屋へ戻っていった。
「ウェザー様!」
その時だった。
上空から大声が響く。
翼を羽ばたかせながら、一人の男が降りてくる。
「ダイナか」
ウェザーが空を見上げる。
「戻ったということは、何か進展があったのだな?」
「ああ」
ダイナは地面へ着地するとニヤリと笑う。
逆立っていた髪は無造作に腰まで伸びており、口元から覗く牙は獣のように鋭い。
「先日、ベゴニアが盗賊共に襲われたんだ」
「超能隊の連中は誰一人死んじゃいなかったが、流石に疲弊はしてると思うぜ」
ウェザーは静かに目を閉じる。
しばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「そうか……」
「ならば今が好機だな」
その老いた瞳に、不気味な光が宿った。
「これは思った以上にやべぇ状況だぜぃ。急いで報告しなくちゃな」
能力で強化された聴覚を使い、離れた位置にいるウェザー達の会話を盗み聞きしていたのは、超能隊のムサシだった。
ムサシがその場を離れようとした瞬間、こちらへ近づく足音に気づく。
すぐさま腰に差していた二本の刀を抜き、近づいてくる人物へ斬りかかった。
キィィン!!
「盗み聞きなんて趣味が悪いな。さっさとくたばりやがれ」
ムサシの刀は、メイド服を着た口の悪い少女の薙刀によって受け止められていた。
「へっ、真っ昼間から薙刀を振り下ろしてくるのも、なかなか趣味が悪いぜぃ」
ムサシは右手の刀で薙刀を受け流すと、左手の刀で少女へ斬りかかる。
だが少女は薙刀から片手を離し、腕に装着していた籠手で刀を受け止めた。
次の瞬間、強烈な力でムサシの体が吹き飛ばされる。
(敵陣で長く戦うのは危険だぜぃ。このまま逃げに徹する)
吹き飛ばされながらもムサシは冷静だった。
しかし、飛ばされた先にも別の気配がある。
ムサシは地面へ刀を突き刺し、無理やり勢いを殺した。
「おねーちゃん、この人だぁれー?」
そこに立っていたのは、ゴスロリ服を身に纏った少女だった。
周囲には緑色の粘液が滲み出ている。
「おそらく道に迷っただけの一般人でしょう」
「そんなわけないだろう。あの身のこなしと二本の刀。超能隊のムサシに違いない」
ムサシの左右からも、それぞれ別の人物が現れる。
一人は、髪を七三にきっちり分け、眼鏡をかけた知的そうな青年。
もう一人は、ハット帽を被り、一振りの剣をムサシへ向ける女性だった。
気づけばムサシは完全に囲まれていた。
(これはなかなかにやべぇ状況だぜぃ)
ムサシは周囲を一瞥する。
(連れてきた保険を使う時だな)
「バル!!」
ムサシが大声で叫ぶ。
すると次の瞬間、五人の頭上に巨大な泡が出現した。
ムサシを囲む四人は一斉に警戒する。
だがムサシだけは迷わずその泡へ向かって跳躍した。
空中で体勢を変え、泡へ向けて足を伸ばす。
泡はゴムボールのように弾み、ムサシの体を受け止めながら大きく沈み込んだ。
そして――
勢いよく元の形へ戻る。
その反発力を受けたムサシの体は、凄まじい速度で空へ弾き飛ばされた。
「あ〜ぁ、逃げられちゃった。追う?」
ゴスロリの少女が空を見上げる。
「いや、あの速度だ。追いつけないだろう」
ハット帽の女性が冷静に答える。
「チッ、あのクソ野郎……次会ったら絶対殺す」
メイド服の少女は薙刀を肩に担ぎながら舌打ちした。
「なるほど。ムサシとは泡の能力を使うのだな。覚えておこう」
眼鏡の青年が真剣な顔で頷く。
その言葉を聞いた三人は、同時に冷めた目を向けた。
「いや、どう考えても違うでしょー」
「今のは仲間の支援だろう」
「お前、頭悪すぎだろ。しね」
「おいおい、僕がいくら魅力的だからといって、そんな熱い視線を向けられると照れてしまうよ」
眼鏡の青年は自信満々に髪をかき上げる。
「しね」
「……」
「うざー」
そんなやり取りをしていると、遠くにいたゴードとダイナがこちらへやって来た。
「戦闘が起きていたようだが、どうしたのだ? また喧嘩か?」
ウェザーが遅れて現れ、四人へ問いかける。
ハット帽を被った女性が一歩前に出て、先ほどの状況を説明した。
――
「そうか」
話を聞いたウェザーは、深く皺の刻まれた顔をわずかに歪める。
「我々の存在に気づかれてしまった以上、もたもたしてはいられない」
杖を握る手に力が入る。
「ペース、タイム、スピンを呼ぶのだ」
ウェザーの瞳には、底の見えない闇が宿っていた。
「復讐の時だ」
その声を聞いた者の背筋に、冷たいものが走った。




