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unlimited  作者: 轟号剛


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35/59

東西

キーンコーンカーンコーン


鐘の音が学校中に響き渡る。


「座るのじゃ! 授業を始めるぞ!」


チェスはいつも通り教壇の前に立ち、生徒たちへ声をかけた。


「今日は超国が統一される前の歴史。東のサイラク、西のキクレンで国が分断されていた時代について学んでいくぞ」


チェスは黒板に大きく超国の地図を描く。


そして、その三分の二ほどを指して『サイラク』、残りを『キクレン』と書き込んだ。


「昔、この国は二つの国に分かれておった。


一つは超能力を暮らしに活用し、人々の生活を豊かにしようとしていたサイラク。


そしてもう一つは、魔王こそが世界を統べる存在であると考え、その復活を目論んでいたキクレンじゃ」


生徒たちは静かにチェスの話に耳を傾ける。


「キクレンでは魔王復活のため、超能力を限界以上に引き出す研究が行われておった。


しかし、その研究が進むにつれて命を落とす者も増えていったのじゃ。


サイラクは何度も危険性を訴え、研究をやめるよう忠告した。


だがキクレンは耳を貸さず、研究を続けた」


チェスは黒板に大きく『東西戦争』と書く。


「そしてある日、サイラクはキクレンの研究所を襲撃し、破壊した。


それに激怒したキクレンはサイラクへ戦争を仕掛けた。


これが東西戦争じゃ」


教室内が少し静まり返る。


「キクレンの兵たちは命を代償に力を得ながら戦った。


当初はその力によりサイラクを圧倒しておった。


だが、その代償はあまりにも大きかった。


戦いが長引くにつれキクレンの兵は減り続け、最後にはサイラクがキクレンの王と重鎮たちを討ち取ったことで戦争は終結したのじゃ」


チェスはチョークを置き、一度生徒たちを見渡した。


「だがな、皆に勘違いしてほしくないことがある」


生徒たちは自然と背筋を伸ばす。


「この戦争でサイラクが完全に正しかったとは思わないでほしいのじゃ。


確かにキクレンの研究は危険だった。


しかし、戦争のきっかけを作ったのはサイラクが研究所を破壊したことでもある」


チェスは静かな口調で続ける。


「サイラクはもっと対話を続けるべきだった。


議論を諦めず、互いを理解しようとしていれば、あそこまで多くの命が失われることはなかったかもしれん」


教室は静まり返る。


「戦争になった時点で、どちらか一方だけが絶対に正しいということは滅多にない。


互いの正義がぶつかり合った結果、多くの人間が傷つくのじゃ」


チェスは黒板に書かれた『東西戦争』の文字を見つめる。


「じゃからこそ、お前たちには考えてほしい。


争いを止める方法をな」


そう言うと、チェスは笑みを浮かべた。


「これで東西戦争についての授業は終わりじゃ! 次は魔法・超能力・神剣についての授業を行うぞ!」


キーンコーンカーンコーン


その瞬間、授業終了を告げる鐘が校舎中に鳴り響く。


「あー! 終わった!」


「今日はここまでか」


生徒たちは席を立ち始める。


チェスはそんな様子を見ながら、静かに黒板を消していった。


--


王国の城下町。


「だ、誰か! 助けてください!」


人気のない路地裏を、一人の少女が必死に駆けていた。


「待ちやがれ! こんなところで逃げても誰も助けちゃくれねぇよ!」


追いかける男は叫びながら少女へ手を向ける。


ブツブツと小声で何かを唱えると、手の前に魔法陣が出現した。


次の瞬間、魔法陣から雷が放たれる。


「きゃっ!」


少女は思わず目を閉じる。


しかし――


雷が少女へ届く寸前、一人の人物が割って入った。


放たれた雷はその人物に触れる前に消滅する。


「あ? 誰だ!?」


男は苛立った声を上げる。


再び手を前へ突き出し、今度ははっきりとした声で詠唱を始めた。


「雷の矢を運ぶ鷲、おんぼはとるな。


――サンダー・アロー」


魔法陣から雷でできた矢が飛び出し、現れた人物へ襲いかかる。


「王国は思っていたより野蛮なのですね」


長い銀髪を風になびかせながら、その人物は静かに呟く。


見る者の心を見透かすような鋭い瞳。


コピだった。


パチン。


コピが指を鳴らす。


すると右腕が瞬く間に巨大化し、竜の鱗に覆われた腕へと変貌する。


そのまま軽く振るうだけで、雷の矢は霧散した。


「なっ!?」


男は目を見開く。


「何だその魔法は!? 詠唱も魔法陣もない魔法なんて聞いたことがないぞ!」


男は一歩後退すると、踵を返して逃げ出した。


「私の存在を吹聴されては困るのですよ」


コピは静かに言う。


次の瞬間には男との距離を詰めていた。


竜の腕が振り下ろされる。


鈍い音と共に男は地面へ叩き潰された。


「追手は片付けました。大丈夫ですか?」


コピは竜の腕を元に戻し、少女へ優しく声をかける。


「は、はい……助けてくださってありがとうございます」


少女は怯えたような表情を浮かべるが、それでも頭を下げた。


「助けたお礼という訳ではありませんが、少し質問をしてもよろしいですか?」


コピは安心させるように穏やかな口調で尋ねる。


「はい……私に答えられることでしたら……」


「ではまず、なぜ貴方は彼に追われていたのですか?」


コピが問いかける。


少女が口を開こうとした、その時だった。


「それは彼女が人攫いから逃げ出したからだよ」


突然、上空から別の声が響いた。


コピは即座に空を見上げる。


いつの間にか、一人の男が空中に立っていた。


「貴方はどなたでしょうか?」


コピは警戒を隠しながら問いかける。


「少し待っててね」


男は軽く手を振ると、少女の前へ降り立った。


「ここに書いてある住所へ行ってごらん」


男は紙を一枚差し出す。


続いてもう一枚の紙を渡した。


「それを見せれば、きっと君を雇ってくれる人がいる」


少女は紙を見た瞬間、目を大きく見開いた。


「ありがとう……ございます……」


涙が溢れ出す。


「うん。あの人には僕から話しておくから安心して」


男は明るく笑った。


「貴方も助けてくださってありがとうございました!」


少女はコピにも深く頭を下げる。


そして何度も礼を言いながら走り去っていった。


少女の姿が見えなくなると、コピは再び男へ視線を向ける。


「改めて聞きましょう」


静かに問いかける。


「貴方は誰でしょうか?」


男は振り返る。


その顔には爽やかな笑みが浮かんでいた。


「待たせてしまってごめん」


男は胸に手を当てる。


「僕の名はローク・スルタン」


一拍置いて告げた。


「この国の勇者だ」

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