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unlimited  作者: 轟号剛


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34/59

代償

「倒せたのか……?」


ボルトが地面へ倒れ込む姿を見ながら、ゴクウは半信半疑な声でブレイクに問いかける。


「あぁ」


ブレイクはボルトの傍まで歩み寄ると、その場に膝をつく。


左手で首元に触れ、脈を確認する。


しばらくして静かに目を閉じた。


「終わったよ」


その言葉を聞いた瞬間。


張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


「良かった……!」


メタは安堵の息を漏らす。


だが次の瞬間、表情を変えた。


「マッス!」


慌てて倒れているマッスの元へ駆け寄る。


「ちゃんと……見てたよ」


マッスは苦しそうに笑う。


「やったな……」


「マッス……!」


メタの目から涙が溢れる。


そこへゴクウとブレイクも駆け寄ってくる。


「おい!」


ゴクウはマッスの肩を掴む。


「死ぬんじゃねぇぞ!」


掌から大量の白い煙を生み出す。


「今すぐストロングのところに連れて行く!」


煙は担架のような形を作り、その上へマッスを乗せる。


飛び立とうとした、その時だった。


「いいんだ……ゴクウ」


マッスは残された左手をゆっくり伸ばす。


ゴクウの腕を掴む力は弱い。


それでも確かな意思があった。


「もう……助からねぇことくらい……分かってる」


「馬鹿言ってんじゃねぇ!!」


ゴクウが怒鳴る。


だがマッスは小さく笑うだけだった。


その視線がメタへ向く。


「メタ……」


「お前……その胸の光……弱くなってないか……?」


戦闘中、強く輝いていたメタの左胸。


今は蝋燭の火のように頼りなく明滅している。


「……」


メタは無言で胸元を見下ろした。


「そういえば」


ブレイクも視線を向ける。


「ボルトの胸も光っていたな」


静かな声で問いかける。


「あの光は何なんだ?」


その場に沈黙が落ちる。


メタは数秒だけ目を閉じた。


そして覚悟を決めたように口を開く。


「この力は――」


三人が息を呑む。


「『unlimitedアンリミテッド』」


その言葉を聞いた瞬間。


ゴクウとブレイクの表情が変わる。


「自分の命を代償にして、能力を限界以上まで引き出す禁技よ」


風が吹く。


静まり返った森の中で、誰も言葉を発せなかった。


ボルトが最後に見せた異常な力。


メタが突然得た力。


そして今、弱まり続ける胸の光。


全ての意味を理解したからだ。


「おい……てことはお前……」


ゴクウは震える声で問いかける。


「えぇ」


メタは静かに微笑んだ。


「私の命も、そろそろ尽きてしまうわね」


その言葉を聞いた瞬間。


ゴクウの瞳から堪えていた涙が溢れ出した。


「そうか……」


マッスは拳を強く握る。


爪が掌に食い込み、血が滲む。


「俺の命だけじゃ……足りなかったのか」


誰も返事をしない。


できなかった。


「ごめんね」


メタはそう言うと、マッスの手を優しく包む。


「でも私の力なら……マッスの力をゴクウに移せる」


マッスは少しだけ目を見開いた。


そしてすぐに頷く。


「……やってくれ」


息が苦しそうだ。


それでも言葉を続ける。


「ゴクウ……」


マッスは真っ直ぐゴクウを見る。


「俺らが守ってきたこの国を……俺らの分まで守ってくれ……」


「……わかった」


ゴクウは涙を拭う。


「お前らの意思は俺が受け継ぐ!」


拳を握る。


「だから安心しろ!!」


メタは左手でマッスの手を。


右手でゴクウの手を握った。


「超転移」


左胸で輝く光が左手へ移動する。


光はマッスを包み込み――


やがて一つの光球へ収束する。


その光はメタの体を通り抜け、ゴクウの胸へ吸い込まれていった。


そして。


メタの胸から光が消える。


完全に。



「ブレイクさん」


メタは涙を流しながら笑った。


「ゴクウをお願いね」


ブレイクは黙って聞いている。


「考えるより先に体が動くような馬鹿だけど」


少し笑う。


「誰よりも仲間想いな馬鹿だから」


ブレイクは優しく頷く。


その隣でマッスが左手を差し出した。


ブレイクは自分の左手でその手を強く握り返す。


「この馬鹿の面倒は俺が見てやる」


力強く言い切る。


「任せろ!!」



「ゴクウ」


メタは抱きつく。


「私達の分まで長生きしなさいよ」


肩を震わせながら笑う。


「早死にしたら絶対許さないからね」


「……おう」


ゴクウは顔を伏せたまま答える。


声が震えている。



「ゴクウ」


今度はマッスだった。


「そんな顔すんなよ……」


左手を持ち上げる。


震えながらも拳を作る。


「最後まで俺を……からかってくれよ……」


ゴクウも拳を作ると、マッスの拳へ静かにぶつけた。


そして顔を近づける。


「あっちではちゃんとメタに告白しろよ」


マッスにしか聞こえないほど小さな声だった。


その言葉を聞いた瞬間。


マッスの目が大きく見開かれる。


「なっ……」


驚きで言葉が続かない。


ゴクウは少し笑った。


「いくら鈍感な俺でも気づくさ」


涙で濡れた顔のまま続ける。


「俺でも分かるくらいだ」


「勘の良いあいつなら、とっくに気づいてると思うぞ」


マッスはしばらく呆然としていた。


やがて力なく笑う。


「そう……だな」


小さく息を吐く。


「あっちで伝えてくるよ」


そして少しだけ意地悪そうな顔をした。


「だから……邪魔しに来るなよ?」


「あぁ」


ゴクウも笑う。


「お前は臆病だからな」


「当分そっちには行く気ねぇよ」



ゴクウは白い煙を生み出す。


メタとブレイクを引き寄せた。


「約束だ」


涙を拭う。


「俺とブレイクで、お前らの分までこの国を守り続ける」


肩を組まれたブレイクも前へ出る。


「お前らの意思は必ず受け継ぐ」


ブレイクの頬にも涙が流れていた。


「安心して眠れ」



「うん!」


メタは涙を流しながら笑う。


「二人ともお願いね!」



「……じゃあな」


マッスは静かに瞳を閉じた。


まるで眠るように。


呼吸が止まる。


それとほぼ同時だった。


メタの体からも力が抜ける。


ふらりと倒れ込み。


白い煙の上で横たわるマッスの隣へ身を預けた。


「メタ……」


ゴクウが名を呼ぶ。


返事はない。


二人とも。


もう二度と目を開くことはなかった。


白い煙の上で寄り添うように眠る二人の表情は――


不思議なくらい穏やかだった。


まるで長い旅を終えたかのような。


幸せそうな笑顔だった。


---


ゴクウが白い煙に乗って超能隊本部を飛び出した。


向かった先は墓地。


街外れの静かな場所だ。


ゴクウは煙から降りると、二つの墓石の前まで歩く。


そして何も言わずに膝をついた。


次の瞬間。


地面に額がつくほど深く頭を下げる。


「すまねぇ……」


掠れた声だった。


墓石にはそれぞれ、


【マッス・ダイモート】


【メタ・ホープアイ】


そう刻まれている。


「お前らが命を懸けて守った宝玉を……」


ゴクウは拳を強く握る。


「奪われちまった」


風が吹く。


だがゴクウは頭を上げない。


「お前らからこの国を任されたのに……」


悔しそうに歯を食いしばる。


「不甲斐ねぇ事をしちまった……」


しばらく沈黙が続く。


墓地には風の音しか聞こえない。


やがてゴクウはゆっくり立ち上がった。


そして墓石を真っ直ぐ見つめる。


「でもよ」


その瞳には強い意志が宿っていた。


「この国の平和は絶対に壊させねぇ」


拳を握る。


「あの時、お前らと約束したからな」


ゴクウは少しだけ笑った。


「だからもう少しだけ力を貸してくれ」


「俺はまだ諦めねぇ」


白い煙が足元に集まる。


ゴクウは煙へ飛び乗った。


「見てろよ、マッス」


「メタ」


最後にそう呟く。


白い煙は空へ舞い上がり、


二人の墓だけが静かに残された。

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