代償
「倒せたのか……?」
ボルトが地面へ倒れ込む姿を見ながら、ゴクウは半信半疑な声でブレイクに問いかける。
「あぁ」
ブレイクはボルトの傍まで歩み寄ると、その場に膝をつく。
左手で首元に触れ、脈を確認する。
しばらくして静かに目を閉じた。
「終わったよ」
その言葉を聞いた瞬間。
張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「良かった……!」
メタは安堵の息を漏らす。
だが次の瞬間、表情を変えた。
「マッス!」
慌てて倒れているマッスの元へ駆け寄る。
「ちゃんと……見てたよ」
マッスは苦しそうに笑う。
「やったな……」
「マッス……!」
メタの目から涙が溢れる。
そこへゴクウとブレイクも駆け寄ってくる。
「おい!」
ゴクウはマッスの肩を掴む。
「死ぬんじゃねぇぞ!」
掌から大量の白い煙を生み出す。
「今すぐストロングのところに連れて行く!」
煙は担架のような形を作り、その上へマッスを乗せる。
飛び立とうとした、その時だった。
「いいんだ……ゴクウ」
マッスは残された左手をゆっくり伸ばす。
ゴクウの腕を掴む力は弱い。
それでも確かな意思があった。
「もう……助からねぇことくらい……分かってる」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!」
ゴクウが怒鳴る。
だがマッスは小さく笑うだけだった。
その視線がメタへ向く。
「メタ……」
「お前……その胸の光……弱くなってないか……?」
戦闘中、強く輝いていたメタの左胸。
今は蝋燭の火のように頼りなく明滅している。
「……」
メタは無言で胸元を見下ろした。
「そういえば」
ブレイクも視線を向ける。
「ボルトの胸も光っていたな」
静かな声で問いかける。
「あの光は何なんだ?」
その場に沈黙が落ちる。
メタは数秒だけ目を閉じた。
そして覚悟を決めたように口を開く。
「この力は――」
三人が息を呑む。
「『unlimited』」
その言葉を聞いた瞬間。
ゴクウとブレイクの表情が変わる。
「自分の命を代償にして、能力を限界以上まで引き出す禁技よ」
風が吹く。
静まり返った森の中で、誰も言葉を発せなかった。
ボルトが最後に見せた異常な力。
メタが突然得た力。
そして今、弱まり続ける胸の光。
全ての意味を理解したからだ。
「おい……てことはお前……」
ゴクウは震える声で問いかける。
「えぇ」
メタは静かに微笑んだ。
「私の命も、そろそろ尽きてしまうわね」
その言葉を聞いた瞬間。
ゴクウの瞳から堪えていた涙が溢れ出した。
「そうか……」
マッスは拳を強く握る。
爪が掌に食い込み、血が滲む。
「俺の命だけじゃ……足りなかったのか」
誰も返事をしない。
できなかった。
「ごめんね」
メタはそう言うと、マッスの手を優しく包む。
「でも私の力なら……マッスの力をゴクウに移せる」
マッスは少しだけ目を見開いた。
そしてすぐに頷く。
「……やってくれ」
息が苦しそうだ。
それでも言葉を続ける。
「ゴクウ……」
マッスは真っ直ぐゴクウを見る。
「俺らが守ってきたこの国を……俺らの分まで守ってくれ……」
「……わかった」
ゴクウは涙を拭う。
「お前らの意思は俺が受け継ぐ!」
拳を握る。
「だから安心しろ!!」
メタは左手でマッスの手を。
右手でゴクウの手を握った。
「超転移」
左胸で輝く光が左手へ移動する。
光はマッスを包み込み――
やがて一つの光球へ収束する。
その光はメタの体を通り抜け、ゴクウの胸へ吸い込まれていった。
そして。
メタの胸から光が消える。
完全に。
⸻
「ブレイクさん」
メタは涙を流しながら笑った。
「ゴクウをお願いね」
ブレイクは黙って聞いている。
「考えるより先に体が動くような馬鹿だけど」
少し笑う。
「誰よりも仲間想いな馬鹿だから」
ブレイクは優しく頷く。
その隣でマッスが左手を差し出した。
ブレイクは自分の左手でその手を強く握り返す。
「この馬鹿の面倒は俺が見てやる」
力強く言い切る。
「任せろ!!」
⸻
「ゴクウ」
メタは抱きつく。
「私達の分まで長生きしなさいよ」
肩を震わせながら笑う。
「早死にしたら絶対許さないからね」
「……おう」
ゴクウは顔を伏せたまま答える。
声が震えている。
⸻
「ゴクウ」
今度はマッスだった。
「そんな顔すんなよ……」
左手を持ち上げる。
震えながらも拳を作る。
「最後まで俺を……からかってくれよ……」
ゴクウも拳を作ると、マッスの拳へ静かにぶつけた。
そして顔を近づける。
「あっちではちゃんとメタに告白しろよ」
マッスにしか聞こえないほど小さな声だった。
その言葉を聞いた瞬間。
マッスの目が大きく見開かれる。
「なっ……」
驚きで言葉が続かない。
ゴクウは少し笑った。
「いくら鈍感な俺でも気づくさ」
涙で濡れた顔のまま続ける。
「俺でも分かるくらいだ」
「勘の良いあいつなら、とっくに気づいてると思うぞ」
マッスはしばらく呆然としていた。
やがて力なく笑う。
「そう……だな」
小さく息を吐く。
「あっちで伝えてくるよ」
そして少しだけ意地悪そうな顔をした。
「だから……邪魔しに来るなよ?」
「あぁ」
ゴクウも笑う。
「お前は臆病だからな」
「当分そっちには行く気ねぇよ」
⸻
ゴクウは白い煙を生み出す。
メタとブレイクを引き寄せた。
「約束だ」
涙を拭う。
「俺とブレイクで、お前らの分までこの国を守り続ける」
肩を組まれたブレイクも前へ出る。
「お前らの意思は必ず受け継ぐ」
ブレイクの頬にも涙が流れていた。
「安心して眠れ」
⸻
「うん!」
メタは涙を流しながら笑う。
「二人ともお願いね!」
⸻
「……じゃあな」
マッスは静かに瞳を閉じた。
まるで眠るように。
呼吸が止まる。
それとほぼ同時だった。
メタの体からも力が抜ける。
ふらりと倒れ込み。
白い煙の上で横たわるマッスの隣へ身を預けた。
「メタ……」
ゴクウが名を呼ぶ。
返事はない。
二人とも。
もう二度と目を開くことはなかった。
白い煙の上で寄り添うように眠る二人の表情は――
不思議なくらい穏やかだった。
まるで長い旅を終えたかのような。
幸せそうな笑顔だった。
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ゴクウが白い煙に乗って超能隊本部を飛び出した。
向かった先は墓地。
街外れの静かな場所だ。
ゴクウは煙から降りると、二つの墓石の前まで歩く。
そして何も言わずに膝をついた。
次の瞬間。
地面に額がつくほど深く頭を下げる。
「すまねぇ……」
掠れた声だった。
墓石にはそれぞれ、
【マッス・ダイモート】
【メタ・ホープアイ】
そう刻まれている。
「お前らが命を懸けて守った宝玉を……」
ゴクウは拳を強く握る。
「奪われちまった」
風が吹く。
だがゴクウは頭を上げない。
「お前らからこの国を任されたのに……」
悔しそうに歯を食いしばる。
「不甲斐ねぇ事をしちまった……」
しばらく沈黙が続く。
墓地には風の音しか聞こえない。
やがてゴクウはゆっくり立ち上がった。
そして墓石を真っ直ぐ見つめる。
「でもよ」
その瞳には強い意志が宿っていた。
「この国の平和は絶対に壊させねぇ」
拳を握る。
「あの時、お前らと約束したからな」
ゴクウは少しだけ笑った。
「だからもう少しだけ力を貸してくれ」
「俺はまだ諦めねぇ」
白い煙が足元に集まる。
ゴクウは煙へ飛び乗った。
「見てろよ、マッス」
「メタ」
最後にそう呟く。
白い煙は空へ舞い上がり、
二人の墓だけが静かに残された。




