決着
空から落ちてくる白い雷と、ボルトの手から放たれた黒い雷。
二つの雷はゴクウとブレイクへ向かって一直線に迫る。
「超転移」
メタが叫ぶ。
次の瞬間、白い雷と黒い雷はゴクウとブレイクの真横へ転移し、地面を激しく抉った。
二人は無傷のまま生き残る。
「なっ!?」
ゴクウは驚いたように振り返る。
「メタ! お前、雷まで転移できたのか!?」
そして目を見開く。
「って、お前……ボルトと同じで胸が光ってるぞ!?」
「ゴクウ、ブレイクさん!」
メタは笑顔を浮かべる。
だが、その額には大量の汗が滲んでいた。
「雷は私が何とかする!」
「だから二人は私を信じて突っ込んで!!」
「あれは……なるほど」
ボルトはメタの胸元の光を見る。
「メタも捨ててしまったのか」
静かに呟く。
「ならば、なおさら手加減はできないな」
(先ほどの雷を転移できるということは、遠距離攻撃は封じられたも同然)
(ならば体術で攻めるしかない)
ボルトは瞬時に状況を分析する。
「神具」
黒い雷が全身を包む。
その瞬間、ボルトの姿が掻き消えた。
次に現れたのはブレイクの背後。
そのまま手刀で胸を貫こうとする。
しかし――
ボルトを覆っていた黒い雷が突然消滅した。
「チッ!」
それでも構わず拳を振り抜く。
ブレイクは反応しきれず吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
地面を転がるが、すぐに体勢を立て直す。
その間にゴクウが白い煙に乗って接近する。
「黒煙・針」
腰の黒玉が二つ浮かび上がる。
瞬時に巨大な針へ変化し、ボルトへ飛んでいく。
(雷を飛ばしても転移される)
(ならば防御にだけ使う)
ボルトは迎撃の瞬間だけ黒い雷を纏う。
拳で針を迎え撃つ。
だが。
針はボルトに触れる直前で消えた。
「なに!?」
次の瞬間。
消えたはずの針がボルトの背後に出現する。
メタの転移だ。
ボルトは凄まじい反応速度で振り向く。
しかし、その瞬間には黒い雷が消されていた。
「隙ありだぜぇ!!」
ゴクウの棒が唸る。
一撃。
二撃。
三撃。
連続で叩き込み、最後に全力で吹き飛ばす。
(まずいな)
吹き飛ばされながらボルトは考える。
(メタがいる限り、俺の雷はことごとく無効化される)
(ならば狙うべきは――)
(メタだ)
だが。
吹き飛ばされた先にはブレイクが待ち構えていた。
右手を突き出しながら一直線に駆けてくる。
「気付いているぞ!」
ボルトは左手に黒い雷を纏う。
地面へ叩きつけることで爆発的な推進力を生み出し、上空へ逃れる。
「落ちておけよ!!」
ゴクウの声が響く。
上空には黒煙で作られた巨大な手が待ち構えていた。
ボルトの体を掴むと、そのまま地面へ叩き落とす。
轟音が響く。
「待っていたぞ」
土煙の中。
ブレイクが右手を構えていた。
「クソォォォ!!」
ボルトは咄嗟に黒い雷を放つ。
しかし。
雷はブレイクの右手に触れた瞬間、全て消滅した。
「終わりだ」
ブレイクの右手がボルトの胸を貫く。
「グフッ……!」
大量の血が口から溢れる。
それでもボルトは諦めない。
左手に黒い雷を纏い、ブレイクを殴ろうとする。
だが。
発生した黒い雷もまた一瞬で消滅した。
結果として、ただの拳が振り抜かれる。
ブレイクはその一撃を受けながら後退する。
そして距離が開いた。
ボルトはその場に立ったまま動かない。
胸の中央には拳大の穴。
そこから絶え間なく血が流れ続けていた。
(すまない。
ボニー、サイコ、ウィンド。
負けてしまった……)
胸から流れ続ける血の温かさが徐々に失われていく。
意識も霞んでいく。
(俺についてこさせたのに……)
最初に思い浮かんだのはウィンドだった。
(ウィンド。
お前らは俺を師匠と慕ってくれていたな)
修練場で何度も稽古をつけた日々が脳裏を過る。
(だが俺は大した人間じゃない。
こんな不器用な生き方しかできなかった)
苦笑する。
(お前は俺らと違う。
この国が好きだった。
それなのに俺らのために裏切らせてしまった)
申し訳なさが胸を締め付ける。
(お前には才能がある。
だから頼む。
俺みたいな生き方だけはするな)
続いて浮かんだのはサイコだった。
泥だらけの少女。
怯えながらこちらを見上げていたあの日。
(サイコ。
最後まで返事をしてやれなくて悪かったな)
静かに目を閉じる。
(俺はお前をボニーと同じように妹だと思っていた)
だから応えられなかった。
それがずっと心残りだった。
(だが、あの世ではちゃんと返事をするつもりだ)
少しだけ口元が緩む。
(だからその時は――ゆっくり話そう)
そして最後に。
一番大切な存在を思い浮かべる。
(ボニー)
幼い頃からずっと隣にいた妹。
いつも明るくて。
いつも自分を信じてくれていた。
(すまない)
胸が痛む。
(お前の夢を見届けてやれなかった)
戦争のない世界。
国同士が分かり合える世界。
あの日、山の頂上で語っていた夢。
(こんな不甲斐ない兄を許してくれ)
その時だった。
“ううん”
聞き慣れた声が響く。
“ボルト兄さんは不甲斐なくなんかないよ”
ボルトはゆっくりと目を開く。
そこには――
宙に浮かぶボニーがいた。
“不器用だったけど、いつも私のことを見ていてくれた”
“ちゃんと知ってるよ”
(ボニー……)
ボルトは自然と笑みを浮かべる。
(そうか)
(お前も死んでしまったのか)
悲しいはずなのに。
不思議と心は穏やかだった。
“ボルト兄さんは私の自慢の家族だよ”
その言葉を聞いた瞬間。
ボルトの瞳から一筋の涙が零れる。
(俺にとっても)
(お前は自慢の妹だ)
左胸で輝いていた光が静かに消えていく。
体から力が抜ける。
ボルトは最後に優しく微笑んだ。
そして。
目の前のボニーへ向かうように倒れ込む。
だが。
その体はボニーをすり抜け、そのまま地面へ崩れ落ちた。
ドサリ――
静かな音が響く。
ボニーは倒れたボルトを見つめる。
そして少しだけ視線を動かした。
ゴクウ。
メタ。
ブレイク。
三人の姿が映る。
ボニーは悲しそうに微笑んだ。
“皆、ごめんね”
その言葉を残し――
ボニーの姿は朝靄のようにゆっくりと消えていった。




