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unlimited  作者: 轟号剛


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32/54

外の世界

「ルーク!!」


チェスは空中からボニーへ視線を移し、大きな声で叫ぶ。


「オッケー! 行きますよキング!」


ルークは青い長槍を大きく後ろへ引く。


「破裂するゲイボルグ


次の瞬間、長槍が放たれた。


轟音を上げながら飛ぶ槍は、立ちはだかる骨兵達を次々と吹き飛ばし、一直線にボニーへと迫る。


「っ!」


ボニーは咄嗟に地面から骨の腕を生やし、自身を横へ突き飛ばさせた。


槍はボニーの脇を掠め、そのまま彼方へ飛んでいく。


「危ないね!」


ボニーは安堵の息を吐く。


そして再び左手を掲げる。


新たな骨兵を呼び出そうとした、その時だった。


ドスッ――。


鈍い音が響く。


「……え?」


ボニーの腹部から槍の穂先が突き出ていた。


遅れて激痛が全身を駆け巡る。


「な、何で……?」


震える声で呟きながら後ろを振り向く。


そこには。


槍を握るチェスが立っていた。


「『入城キャスリング』」


チェスは静かに口を開く。


「私は一日に一度だけ、ルークの槍と自身の位置を入れ替えることができる」


ボニーの目が見開かれる。


「この能力は……まだ誰にも見せたことはなかったな」


致命傷。


それはボニー自身が一番理解していた。


力が抜けていく。


能力の制御も維持できない。


周囲に立っていた骨兵達が次々と崩れ落ちていく。


黒く染まっていた瞳も元の色へ戻った。


同時にメテオとシルブを縛っていた命令も解ける。


「やっぱり……すごい……や……」


ボニーは苦しそうに息を吐く。


それでもチェスを見つめながら微笑んだ。


「チェス……さんは……」


震える手をポケットへ入れる。


そして取り出した。


淡く青い光を放つ宝玉を。


「……!」


チェスの表情が変わる。


「お前が持っていたのか!?」


チェスは思わず声を上げた。


ボルトが持っていると思っていた。


だからこそ、その事実は予想外だった。


ボニーは力なく笑う。


--


ボニー達が地下にいた頃――


超能隊本部地下三階。


最奥の牢から封印の宝玉を取り出したボルトは、それをボニーへ差し出した。


「これはお前が持っておけ」


「え?」


ボニーは思わず目を丸くする。


「念のためだ」


ボルトはそれだけ言う。


相変わらず表情は固い。


「私が持つの?」


「あぁ」


短い返事だった。


ボルトは宝玉を渡すと、そのまま階段へ向かって歩き出す。


「……分かった」


ボニーは少し不思議そうな顔をしながらも宝玉を受け取り、ポケットへしまった。


数歩歩いたところで、ボニーが再び口を開く。


「ねぇ、ボルト兄さん」


ボルトは足を止めない。


「何だ」


「今回、帝国の誘いを受けたのって……」


ボニーは少しだけ視線を落とした。


「昔、私が話した夢のため?」


階段を上るボルトの足が一瞬だけ止まる。


ほんの一瞬。


だが確かに止まった。


ボニーはその背中を見つめる。


しかし。


「昔の夢?」


ボルトは振り返らない。


「何のことだ?」


そう言うと再び歩き出した。


ボニーは数秒その背中を見つめる。


そして小さく笑った。


「……そう」


返事はそれだけだった。


だが。


長年兄として見てきたからこそ分かる。


ボルトは嘘をつく時、いつも振り返らない。


--


「ビショップ!」


チェスは封印の宝玉を拾い上げると、遠くで骨兵達を相手にしているビショップへ声を張り上げた。


「ボニーの手当てをしてやってくれ。お前の力ならギリギリ治せる程度の傷にしてある」


「はい!」


ビショップは即座に返事をすると、大きな翼を羽ばたかせてボニーの元へ飛んでいく。


チェスはその様子を確認すると、小さく息を吐いた。


一方のボニーは地面に横たわったまま腹部を押さえる。


傷口から流れる血と共に体力も奪われていく。


それでも意識はまだはっきりしていた。


(やっぱり……)


ボニーは空を見上げる。


(さっきボルト兄さんは嘘をついていたわ)


脳裏に地下での会話が蘇る。


――昔の夢?


――何のことだ?


ボルトのぶっきらぼうな声。


だがボニーは知っている。


誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきたのだから。


(兄さんは昔から嘘をつく時、私の目を見ることができないもの)


あの時もそうだった。


振り返りもしなかった。


だから分かってしまう。


あれは誤魔化しだったのだと。


ボニーはゆっくりと目を閉じる。


そして遠い昔の記憶を思い出す。


(今こうして皆が戦っているのは……)


胸が少し痛んだ。


腹の傷とは別の痛みだった。


(昔、私があんなことを言ったからなのかな……)


頬を一筋の涙が伝う。


---


20年前


ボルトが十歳、ボニーが七歳の頃。


二人は超国の街並みを見下ろせる大きな山の頂上にいた。


空は赤く染まり始めている。


遠くでは、今日機国から撃ち込まれたミサイルによる煙がまだ薄く立ち上っていた。


「ねぇ、ボルト兄さん」


ボニーは街を見下ろしながら呟く。


「何で戦争って無くならないのかな?」


ボルトは少し考え込んだ。


子供ながらに何度も考えてきた疑問だった。


「難しい質問だな」


ボルトは苦笑する。


「俺も全部分かってるわけじゃない」


しばらく考えた後、ゆっくりと言葉を続けた。


「簡単に言うなら、俺とお前がケンカするようなもんだ」


「えー?」


ボニーは不満そうな顔をする。


「私たちのケンカと戦争が一緒なわけないじゃん」


「そうか?」


ボルトは笑う。


「俺たちだってしょっちゅうケンカするだろ」


「それはボルト兄さんが私の料理を残したり、試合で手を抜いてくれなかったりするからだよ!」


ボニーは頬を膨らませた。


「あれにはちゃんと理由がある」


ボルトは妹の頭を撫でる。


「俺には嫌いな食べ物もあるし、お前には強くなってほしいからな」


「むぅ……」


ボニーは納得していない。


その様子にボルトは少し笑った。


「でも、お互いに理由があってぶつかるだろ?」


「戦争も似たようなもんだと思う」


ボニーは少し考える。


「でも私たちはすぐ仲直りできるよ?」


「何で国同士は仲直りできないの?」


真っ直ぐな瞳がボルトを見上げる。


ボルトは空を見る。


遠くの煙を見つめながら答えた。


「俺たちは相手を大事だと思ってるからな」


「仲直りしたいと思える」


「でも国は違う」


「相手の国を大事だと思っていないことも多い」


ボニーは腕を組んで唸る。


「変だよね」


「国だって人が集まってできてるのに」


「何で人だと大事にできて、国になるとできなくなるんだろう」


ボルトは妹の横顔を見る。


そして少しだけ優しく笑った。


「俺たちはまだ子供だからな」


「知らないことが多すぎる」


「これからたくさん勉強して、たくさんの人と会えば答えが見つかるかもしれないぞ」


ボニーの顔がぱっと明るくなる。


「分かった!」


彼女は勢いよく立ち上がった。


「私、大きくなったら世界中を回りたい!」


「いろんな国を見て、いろんな人と話して――」


ボニーは拳を握る。


「戦争を無くす方法を見つける!」


山頂に元気な声が響いた。


ボルトはそんな妹を見て小さく頷く。


「あぁ」


「応援しているぞ」


その言葉だけ残し、ボルトは山を下り始めた。


「あっ!」


ボニーは慌てる。


「ちょっと待ってよ!」


そして笑いながら兄の後を追いかけていった。


---


(兄さんは、あんな小さかった頃に話した私の夢を覚えていてくれたのかな……)


いつの間にかボニーの瞳は涙で潤んでいた。


飛んでくるビショップよりも早く、赤い蒸気を纏ったメテオが勢いよくボニーの元へ降り立つ。


「よくやってくれたな、チェス。後は任せろ」


短く言葉を残すと、チェスが何か言うよりも早く動いた。


「お父――」


ボニーが言葉を発するより先に、メテオの腕がボニーの胸を貫いた。


「お……と……さ……」


ボニーは自分の胸から突き出た父の腕を見つめる。


何が起きたのか理解した時には、既に膝から崩れ落ちていた。


「何をしているんだ、お前は!!」


チェスは怒りの表情で叫ぶ。


すぐさま槍を突き出し、メテオの体を貫いてボニーから引き離した。


「私の子供達がどれほど頑固か、一番知っているのは私だ」


メテオは胸を貫く槍を自ら引き抜く。


「こ奴らは一度決めたことを最後までやり遂げる」


纏っていた赤い蒸気が少しずつ消えていく。


「チェス、お前のやり方は甘い」


メテオは真っ直ぐチェスを見つめた。


「将来、国の脅威になる可能性があるなら潰さねばならん」


「それがどれほど辛いことであってもだ」


チェスは何も言えなかった。


メテオはゆっくりとボニーへ歩み寄る。


「ボニー」


地面に倒れた娘を優しく抱き起こす。


「お前達には寂しい思いをさせたな」


その声は父親そのものだった。


「幼い頃に両親を失わせてしまった」


「苦労も沢山かけただろう」


ボニーは涙を流しながら首を横に振る。


「子供の命よりも国の未来を選んだ」


メテオは自嘲気味に笑う。


「本当に馬鹿な父親だ」


優しくボニーの頭を撫でた。


「そんな父親の元に生まれさせてしまって、すまんな」


ボニーは声にならない声を漏らす。


メテオは静かに微笑んだ。


「あっちではどんな生活を送っていたのか、今度ゆっくり聞かせてくれ」


その言葉を最後に。


メテオの身体は塵となり、風に乗って消えていった。


「馬鹿ね……」


シルブの瞳から涙が零れる。


「これじゃ誰も報われないじゃない」


シルブは目の前に立つナイトを見る。


「アンタ」


ナイトは静かに視線を向けた。


「キングをしっかり支えてあげるのよ」


しばらく見つめた後、ナイトは小さく頷く。


それを見てシルブは満足そうに微笑んだ。


「お願いね」


そう言い残し、シルブもまた塵となって消えていく。


そこへビショップが舞い降りた。


「ボニー様!」


両手から緑色の光を放ち、胸と腹の傷へ当てる。


懸命に治療を続ける。


「どうだ!」


チェスが駆け寄る。


「治るのか!?」


だが。


ビショップは首を横に振った。


「無理……です」


声が震える。


「傷が……大きすぎます……」


ボニーはそれを聞いても驚かなかった。


むしろ分かっていたように小さく笑う。


「チェス……さん」


震える手でチェスの手を握る。


「ごめん……ね」


「喋るな!」


チェスは必死に声を上げる。


「まだ助かる方法が――」


「ありがとう……」


それが最後だった。


ボニーの瞳から光が消える。


握っていた手から力が抜け、静かに落ちた。


「何てことだ……」


チェスの身体から力が抜ける。


足元が揺らぎ、今にも倒れそうになる。


その身体をクイーンが支えた。


真冬マフユネムリ


クイーンが静かに呟く。


チェスの体温が急激に下がっていく。


そして。


チェスは一瞬で深い眠りへ落ちた。


クイーンは眠るチェスを優しく地面へ寝かせる。


「お許しください」


静かに頭を下げる。


「今のキングは心労が大きすぎます」


ビショップ、ナイト、ルーク、ポーン。


全ての騎士達が主の周囲へ集まる。


そして淡い光に包まれながら、一人、また一人と姿を消していった。

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