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unlimited  作者: 轟号剛


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30/51

炎魔

「俺も数分だけ、ウィンドの風神と同じ領域の力を使うことができるんだ」


フレイはアクアに自身の秘策を明かす。


「なるほどな。その数分だけ、お前はウィンドと互角になれるということか」


アクアはすぐに意図を理解した。


「ああ。俺が隙を作る。その間にお前が仕留めてくれ」


フレイが説明を終えた頃には、ウィンドの周囲に再び風が集まり始めていた。


暴嵐ボウラン怪鳥カイチョウ


風が渦を巻き、巨大な怪鳥となって空を舞う。


「来たか。アクア、準備しろ!」


フレイはアクアから離れると怪鳥へ向かって飛び出した。


その全身から炎が噴き上がる。


炎は膨れ上がり、やがて巨大な人型を形成した。


炎魔エンマ


五メートルほどの炎の魔人。


その中心にはフレイが立っている。


獄炎ゴクエン狂虎キョウコ


魔人の背後から炎の虎が現れる。


巨大な虎は怪鳥へと飛びかかり、二体は空中で激突した。


轟音。


凄まじい衝撃波が周囲へ広がる。


怪鳥と狂虎は互いを喰らい合い、そのまま消滅した。


「なに……? お前も使えたのか……」


ウィンドは初めて驚愕の表情を浮かべる。


そのまま鎌鼬を放った。


「お前やボルトさんを驚かせたくて黙ってたんだがな」


フレイは魔人の拳で鎌鼬を叩き消す。


「まさか、こんな形で披露することになるとは思わなかったぜ」


苦笑しながら炎の玉を生み出し、ウィンドへ放つ。


ウィンドは白い手拭いを振るい、炎の玉を弾き飛ばした。


「面白ぇじゃねぇか!!」


ウィンドは口元を吊り上げる。


「前からお前とは決着をつけたかったんだ!」


「暴嵐・乱風ランプ


手拭いを激しく振る。


無数の鎌鼬がフレイへ襲いかかった。


「獄炎・魔人デーモンの怒り(アンガー)」


炎の魔人が両腕を重ねる。


掌に集まった灼熱の炎が一気に解き放たれた。


鎌鼬と炎が正面から衝突する。


空中に爆発のような衝撃が広がり、双方の攻撃は相殺された。


「まだまだいくぞ!」


ウィンドが再び手拭いを掲げる。


「暴――」


その瞬間。


パシャッ!


右手に水の球が直撃した。


手拭いが宙へ舞う。


「なっ!?」


ウィンドが目を見開く。


「楽しそうなところ悪いが」


背後からアクアの声が響く。


「私を忘れないでもらいたいな」


アクアは指先から次々と水弾を放っていた。


ウィンドは咄嗟に手拭いを取り戻そうとする。


しかし。


その進路を炎の壁が塞ぐ。


「獄炎・魔人デーモン燃拳ホットフィスト


巨大な炎の拳が迫る。


手拭いを失った今、避ける時間はない。


「舐めんな!!」


ウィンドは両腕を交差させる。


「風の加護!」


全身に暴風を纏う。


だが――


炎の拳は風を突き破った。


「がぁぁぁぁぁ!!」


炎がウィンドの全身を包み込む。


空中で焼かれながらも、ウィンドは最後の力を振り絞った。


「うぉぉぉぉ!!」


暴風が巻き起こる。


自身を包む炎を無理やり吹き飛ばした。


しかし。


体に刻まれていた黒と白の刺青は消え去っている。


風神は解除されていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……。かなり今のは……効いたぜ……」


ウィンドは肩で荒く息をしていた。


全身は焼け爛れ、ところどころ皮膚が焦げている。


それでもなお、空中に留まり続けていた。


ウィンドは自分をここまで追い詰めたフレイへと視線を向ける。


すると――


先ほどまで空を覆っていた炎の魔人は消え去っていた。


その中心にいたフレイもまた、白目を剥きながら地面へ落下している。


「ハッハッハ!!」


ウィンドは大きく笑った。


「時間切れか!? 俺の勝ちだ!!」


フレイが気絶したことを確認し、勝利を確信する。


その瞬間だった。


「だから私がいることを忘れすぎなんだよ!」


背後からアクアの声が響く。


「なっ――」


ウィンドが振り返るより早く。


水で作られた剣が腹部を貫いていた。


「がふっ……!」


ウィンドの口から血が溢れる。


「チッ……やっぱり強ぇなお前ら」


苦しそうに顔を歪めながらも笑みを浮かべる。


「だが……ボルトさんのところには行かせねぇぞ!」


ウィンドは最後の力を振り絞り、背後のアクアへ振り向く。


そしてその口元へ手を伸ばした。


「風の恐怖」


アクアは気づけなかった。


ここまで追い詰められたウィンドに、まだ反撃する力が残っていたことを。


しかし。


アクアも攻撃の手を止めない。


「終わりだ」


水の剣をさらに振り抜く。


鋭い斬撃がウィンドの体を切り裂いた。


「ぐっ……」


ウィンドの瞳から力が抜けていく。


限界だった。


そのまま重力に従い地面へ落下していく。


だが。


「うっ……あ……」


今度はアクアの様子がおかしくなる。


突然呼吸ができなくなった。


首元を押さえる。


肺に空気が入らない。


能力の制御も失われる。


支えていた水が霧散した。


「しまっ……」


アクアの体もまた空中から落下していく。


そして――


地面へ。


フレイ。


アクア。


ウィンド。


三人全員が戦闘不能となった。


こうして、この戦場での戦いは幕を閉じた。


---


「お帰りなさい。ヒロさんとの将棋はどうだった?」


家の玄関を開けると、リルが笑顔で出迎えてくれた。


二人ともまだ二十代ほどの若さである。


「一勝三敗だったよ。あいつは考える時間が無限にあるから強い」


チェスは肩をすくめながら答える。


「そう。でもヒロさん相手に一勝できるチェスも十分すごいわ」


リルは嬉しそうに微笑むと、用意していた着替えを差し出した。


「ありがとう」


チェスは靴を脱ぎながら着替えを受け取る。


だが、リルはそのまま話を続けた。


「帰ってきたばかりで悪いんだけど、今度は私に付き合ってもらうわよ」


「頭を使った後に今度は体も動かすのか……」


チェスはげんなりした表情を浮かべる。


リルはそんな様子を見てクスリと笑った。


「もちろんよ」


その手には巨大なハンマーが握られている。


「言っておくけど、今回もあなた自身が戦うのよ」


「私よりクイーンやナイトと戦った方が練習になると思うぞ」


チェスは最後の抵抗を試みる。


だがリルは即座に首を横に振った。


「毎回あの子たちに助けてもらえると思わない方がいいわ」


その表情から笑みが消える。


「いつかあなた自身が戦わなきゃいけない時が来る。その時のためにも練習しておかないと」


真剣な眼差しだった。


チェスはしばらくその顔を見つめる。


そして小さくため息を吐いた。


「分かったよ」


観念したように答える。


するとリルは満足そうに微笑んだ。


「それでこそ私の旦那様ね」


-


二人は庭へ出ると、それぞれ武器を手に取り戦闘の準備を整える。


「じゃあ、いくわよ!」


リルは体を回転させながらハンマーを振り回し、一気にチェスへと距離を詰める。


対するチェスは槍を地面へ突き立て、その反動で体を宙へ浮かせた。


迫るハンマーを紙一重で回避すると、そのまま上空から槍をリル目掛けて突き下ろす。


槌地割ハンマーバースト


リルは振り回していたハンマーを勢いよく地面へ叩きつけた。


轟音と共に地面が割れる。


砕けた岩や土塊が吹き上がり、空中にいたチェスへと襲いかかった。


「くっ!」


チェスは防御するが勢いを殺しきれず後方へ弾き飛ばされる。


「はぁぁっ!」


その隙を逃さずリルが追撃する。


ハンマーを大きく振り抜くと、チェスは咄嗟に槍を盾代わりにして受け止めた。


しかし――


能力で強化されたリルの腕力には敵わない。


チェスは数歩後退しながら吹き飛ばされる。


「まだだ!」


着地と同時に体勢を立て直し、鋭い突きを放つ。


だが。


「甘いわよ!」


リルは軽やかな動きで槍をかわした。


さらにハンマーを片手で持ち替えると、空いた左手でチェスの胸を押し飛ばす。


「しまっ――」


バランスを崩した瞬間。


リルはハンマーを振り上げていた。


チェスが態勢を立て直すよりも早く、巨大なハンマーが振り下ろされる。


そして――


ピタリと止まった。


ハンマーの先端はチェスの鼻先数センチの位置にある。


「今日も私の勝ちね」


リルは得意げな笑みを浮かべながら、地面に座り込むチェスを見下ろした。


「はぁ……参ったよ」


チェスは苦笑いを浮かべる。


「リルは本当に強いな」


リルは満足そうに頷くと、手を差し出した。


チェスはその手を握り、立ち上がる。


「ふふっ。流石にチェス自身には負けられないわよ」


リルはチェスの服についた砂を払いながら微笑む。


「でも、いつかは一勝してみせるさ」


チェスは口元を緩めながら宣言した。


その言葉を聞いたリルは少しだけ目を細める。


「その時を楽しみにしてるわ」


夕日に照らされた庭に、二人の穏やかな笑い声が響いた。


---


「お主が生きている間に、一勝もすることができなかったな」


チェスは小さく笑いながら呟く。


リルもまた、どこか懐かしそうな表情を浮かべていた。


二人とも、先ほどまで同じ思い出を振り返っていたようだ。


「今からでも遅くないわ」


リルは静かに口を開く。


「ビショップやルークを呼び戻しなさい」


その言葉には心配が滲んでいた。


「あなた一人で私と戦う必要はないでしょう?」


だがチェスは首を横に振る。


「あやつらには骨どもを足止めしてもらわねばならんからな」


視線だけを周囲へ向ける。


遠くでは騎士たちが骨の軍勢と激しく戦っていた。


「あやつらの役目も大事なんじゃ」


リルは数秒だけ黙り込む。


そして小さくため息を吐いた。


「本当に昔から頑固ね、あなたは」


呆れたように言うが、その表情はどこか嬉しそうでもあった。


「今さらじゃろう」


チェスは苦笑する。


リルも思わず笑みを零した。


「そうね」


短く答える。


そして表情を引き締めた。


「それなら、もう止めないわ」


巨大なハンマーを肩に担ぐ。


「私に殺されないでね」


その言葉は冗談のようでいて、本気だった。


チェスも槍を握り直す。


「当たり前だ」


二人の視線が交差する。


夫婦としてではない。


敵としてでもない。


互いを誰よりも知る戦士同士として。


リルが地面を蹴った。


轟音と共にチェスへ駆け出す。


チェスも槍を構え、一歩前へ踏み出した。


今度こそ一勝を得るために。

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