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unlimited  作者: 轟号剛


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感謝と謝罪

ブレイクとサイコの戦いは、一方的な展開になりつつあった。


サイコが木や岩を念力で操り攻撃し、それをブレイクが右手で消し去る。


ただそれだけの攻防が延々と続いている。


「うふふ、守っているだけでは勝てませんわよ」


サイコは指揮者のように腕を振る。


その動きに合わせ、木々や岩石が生き物のように空を舞った。


「ここら一帯の木や岩を全部消しちまえば、お前は攻撃できなくなるだろ」


ブレイクは飛来する物体へ次々と右手を触れさせ、消滅させていく。


気が付けば、ブレイクを中心とした半径十メートルには石ころ一つ残っていなかった。


「勘違いしないでください」


サイコは微笑む。


「私とあなたでは目的が違うんですよ」


彼女が指を動かす。


すると地面に残っていた細かな石粒が浮き上がり、ブレイクの周囲を取り囲んだ。


「っ!」


石粒が一斉に襲いかかる。


ブレイクは真正面へ突っ込むと、右腕を大きく振り抜いた。


触れた石粒は次々と消滅していき、そのまま開いた隙間から脱出する。


「あなたは私をここで止めるのが目的」


サイコは静かに告げる。


「ですが私は、あなたを振り切って帝国へ向かうことが目的なのです」


ブレイクが包囲を突破した瞬間。


ガッ!!


突然、顎へ強烈な衝撃が走った。


「ぐっ……!」


ブレイクは吹き飛ばされる。


どうやら地面に残っていた小石を見落としていたらしい。


その石が高速で撃ち出され、顎へ直撃したのだ。


「操作できる物が無くなったら、私はそのまま帝国へ向かうだけですよ」


追撃のように石ころが再び飛んでくる。


だがブレイクは冷静に右手で触れ、それを消滅させた。


その時。


サイコが両手を大きく掲げる。


ゴゴゴゴ……


地面が震え、大量の岩石が宙へ浮かび上がった。


サイコと同じ高度まで岩が上昇していく。


流星群リュウセイグン


次の瞬間。


無数の岩が地上のブレイクへ向かって降り注いだ。


――だが。


「きゃっ!?」


突然、サイコの体が吹き飛ぶ。


足場にしていた地面から引き離され、そのまま空中へ投げ出された。


「お前がデカい物体を持ち上げる、この瞬間を待ってたぞ!」


ブレイクの声が響く。


見れば、浮かび上がった大岩の一つにブレイクがしがみついていた。


そしてサイコと同じ高さまで来た瞬間、拾っていた石ころを左手で投げつけていたのだ。


「なっ、なんで!?」


サイコは慌てて木を操作し、落下中に足場を作る。


そのまま地上を確認する。


だがそこには――


ブレイクが脱ぎ捨てた服だけが立っていた。


「これで勝負ありだ!」


真上から声がする。


サイコが見上げると、ブレイクが右手を伸ばしたまま落下してきていた。


(気づくのが遅れましたわ……! これじゃ避けられない……!)


サイコは焦りながらも、落下している岩石を次々とブレイクへぶつけていく。


しかし。


ブレイクは空中で器用に姿勢を変えながら、飛来する岩へ右手を触れさせ消し去っていった。


「ダメよ……!」


サイコは叫ぶ。


「こんなところで負けられない! 私はボルトさんと――!」


岩をぶつけ続ける。


だがブレイクは全てを突破し、ついにサイコへ手が届く距離まで迫った。


落下しながら、右手をサイコの頭へ伸ばす。


「いっ……いや!! 消えたくない!!」


サイコは恐怖で顔を歪め、必死にのけぞって右手を避ける。


その瞬間。


「冗談だ」


ブレイクが静かに言った。


「お前を捕縛する」


ブレイクの左手には、いつの間にかスタンガンが握られていた。


バチッ!!


電流がサイコの足へ流れ込む。


「ボル……ト……さ……」


サイコの意識は途切れ、そのまま力なく落下していった。


-


サイコの目の前には、ベッドに横たわる女性の姿があった。


幼いサイコはその手を握りながら、涙を流している。


「ごめんね、サイコ。あなたを一人にさせてしまって……」


女性は瞳から涙を溢しながら、サイコの手を弱々しく握る。


「ううん、私は大丈夫よ、お母さん。今まで一人で私を育ててくれてありがとね」


サイコは涙をぐっと堪えた笑顔を浮かべながら、母親の手を強く握り返した。


「私の愛しい子……」


母親は最後にサイコの頭を優しく撫でる。


そして静かに目を閉じた。


「お母さん!!」


母親が息を引き取った瞬間、サイコの瞳から堪えていた涙が溢れ出す。


ぽたぽたと零れ落ちる涙は止まることなく、サイコは母親の手を握ったまま泣き続けた。


-


「おいサイコ、近づくんじゃねーよ! 貧乏が移るだろ!」


サイコは母親を失ってから施設で暮らしていた。


しかし施設には十分なお金がなく、服や小物は全てお下がりだったため、身に付けているものはどれもボロボロだった。


「ご、ごめんなさい……」


内気なサイコは言い返すこともできず、ただ謝ることしかできない。


「そうだ! お前を綺麗にする方法を思いついたぞ!」


少年はそう言うと、サイコへ手を伸ばした。


「やっ、やめてください!」


サイコは能力を使い、近くに落ちていた小石を浮かせて身を守ろうとする。


「こんなもので止められるわけねーだろ!」


少年は浮かぶ小石を払いのけると、サイコの服を掴み近くの水たまりへ放り投げた。


「きゃあっ!」


サイコは抵抗することもできず、水たまりへ倒れ込む。


全身が泥だらけになった。


「はっはっは! 綺麗になったじゃねーか、サイコ!」


少年が腹を抱えて笑うと、周囲の取り巻きたちも同じように笑い始める。


その時だった。


「おい、何やってんだ」


低い声が響く。


黄色い髪をドレッドヘアにした少年が歩いてきた。


「あー、ボルトか。今サイコを綺麗にしてやったところだ。なかなか笑えるだろ?」


現れたのは少年時代のボルトだった。


「あぁ、こいつが噂のサイコってやつか」


ボルトは泥だらけのサイコを見て納得したように頷く。


「おいボルト! お前の能力でサイコの髪を燃やしてやったらもっと傑作になるんじゃねーか!」


少年はボルトの肩を組みながら笑う。


「確かに良い表情が見られそうだな」


ボルトは無表情のまま頷くと、サイコへ向かって歩き出した。


「やめて! 近寄らないで!」


サイコは必死に石を浮かせて前方へ並べる。


だが、ボルトが腕を一振りすると石は簡単に弾き飛ばされた。


この頃のサイコはまだ能力を十分に扱えず、小さな物を浮かせるのが精一杯だった。


ボルトが目の前まで来る。


サイコは諦めたように目を閉じ、歯を食いしばった。


しかし――


「良く耐えたな」


聞こえてきたのは予想もしなかった優しい言葉だった。


サイコは思わず目を開く。


「おい、どうしたんだボルト! さっさとやれよ!」


少年は不思議そうに催促する。


だがボルトはサイコから視線を外し、少年たちの方を向いた。


「ボルト?」


少年たちは困惑している。


「今日からこいつは俺の家族だ」


ボルトは静かに言った。


「俺は家族を傷つける奴を許さない」


次の瞬間。


ボルトは地面を蹴り、サイコを水たまりへ投げ込んだ少年の顔面を殴り飛ばした。


「こいつやりやがったな! 全員でやるぞ!」


少年の号令で十人ほどが一斉に襲いかかる。


だがボルトは平然としていた。


飛んでくる拳を捌き、一人ずつ確実に殴り倒していく。


五分後。


立っていたのはボルトただ一人だった。


ボルトは再びサイコの前まで歩いてくる。


そして手を差し伸べた。


「俺と一緒にこい」


-


「ボルト兄、誰この子ー?」


ボルトと同じ黄色い髪をした少女――ボニーが、ボルトの後ろに隠れるように立つサイコを見て問いかける。


「こいつは親が亡くなって一人らしい。俺たちと一緒だ。だから見捨てられなかった」


ボルトは真剣な表情でボニーに答える。


「なるほどね……まぁ、そういうことならいいわ!」


ボニーは少しだけ驚いた表情を見せた後、すぐに明るい笑顔を浮かべた。


「ボルト兄の稼ぎは十分にあるし、一人増えたところで問題ないもんね!」


ボニーは気さくにサイコへ笑いかける。


だが、サイコはまだ状況を理解できていないようだった。


目を大きく見開いたまま、言葉が出てこない。


「俺はまだ子供だが、この能力のおかげでかなり金を貰えている」


ボルトは掌に雷を纏わせる。


青白い電流が指先を走り、部屋を淡く照らした。


「だから俺たちは子供二人だけでも暮らせている」


そう言うと、ボルトはサイコへ手を差し伸べる。


「お前もこの家で俺たちと一緒に暮らしてみないか?」


サイコの瞳から大粒の涙が溢れ出す。


震える両手でボルトの手を握り締めた。


「お願いします……」



サイコの意識はそこで途切れた。


木の上から落ちそうになった体を、いつの間にか近くまで来ていたブレイクが左腕で支える。


ブレイクはサイコを抱えたまま木から木へ飛び移り、ゆっくりと地面へ降り立った。


そしてサイコを優しく横たえる。


「全く、あいつは幸せ者だな」


気絶しているにもかかわらず涙を流し続けるサイコを見て、ブレイクは珍しく穏やかな表情を浮かべた。

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