宝玉奪還戦
ヒエンが現れてから半日後――。
深夜。
皆が寝静まった頃、ボルト達四人は超能隊本部の前へ姿を現していた。
「ボルト兄さん、本当にやるのね」
ボニーが珍しく真剣な表情で問いかける。
「あぁ。俺には超国より、帝国の方が性に合ってるみてぇだ」
ボルトは短く答えると、後ろに立つ三人を振り返った。
「お前らは別に付いてこなくても良かったんだぞ」
「師匠が行く場所なら、俺はどこでもついて行きますよ!」
ウィンドは迷いのない真っ直ぐな目でボルトを見返す。
「私の心は、既にボルトさんと共にあります」
サイコも、とろけるような視線をボルトへ向けていた。
その声には狂気にも似た強い意志が宿っている。
「まぁ、たった一人の兄弟だからね。放っておけないってのもあるし」
ボニーは肩をすくめる。
「それに、私達が帝国側に行けば、超国と同盟を組める可能性だってあるかもしれないでしょ?」
呆れたような口調ではあるが、その瞳には兄を想う優しさが滲んでいた。
「……そうか」
ボルトは短く呟く。
だが、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。
「封印の宝玉は地下三階の最奥に保管されている。今日はちょうど俺とボニーが見張り担当だったから、地下に見張りはいない」
ボルトは本部へ入る前に三人へ確認するように告げる。
「宝玉を取ったら、そのまま帝国へ向かうぞ」
「「「了解!」」」
三人は同時に返事を返した。
四人は気配を消しながら、静かに超能隊本部へ侵入していく。
本部内に人影はない。
だが、二階奥の部屋には超能隊の長が眠っている。
四人は物音一つ立てず、地下への階段へ辿り着くと、そのまま地下三階まで降りていった。
地下最奥。
そこには淡い青い光を放つ宝玉が安置されていた。
封印の宝玉――。
拳ほどの大きさをした、透き通る青色の玉。
強固な鉄格子に守られている。
ウィンドが静かに手を向ける。
次の瞬間。
鋭利な刃物で切断されたかのように、牢が斬り裂かれた。
「よし、すぐ引き上げるぞ」
ボルトが宝玉を掴み取る。
四人は即座に階段を駆け上がった。
「……なんか嫌な予感するわ」
ボニーが冷や汗を流しながら呟く。
地下を抜け、本部入口へ続く部屋へ辿り着いた瞬間――。
「まさか、本当にお前達が裏切るとはな」
低い声が響く。
四人が外へ飛び出すと、そこには超能隊の面々が集結していた。
先頭にはチェスが立っている。
「なっ……どうして!?」
ウィンドが目を見開く。
「お前達が海岸で帝国の王と接触していたのを、スーザンさんが見ていた」
ブレイクが静かに答えた。
「大人しく宝玉を渡しなさい。そうすれば、まだ罪にはならないわ」
メタが悲しげな表情で四人へ呼びかける。
その言葉に、ボルトは目を細めた。
「……三人とも、合図と同時に散れ」
ボルトが小声で囁く。
「あいつらを撒いて帝国で合流するぞ」
「おい! あいつら逃げる気だ!」
マッスが叫びながら突進してくる。
「行くぞ!!」
ボルトの声と同時に、四人は別々の方向へ散開した。
「チッ……誰が宝玉を持ってるかわからねぇ以上、全員追うしかねぇ!」
ゴクウが舌打ちする。
「俺達はボルトを追うぞ!」
ゴクウは白い煙を生み出すと、メタとマッスを乗せて空へ飛び上がる。
雷を纏いながら逃走するボルトの後を追っていった。
「私達はウィンドを追うわ。同じチームとして、ここで止めないと」
アクアは決意を込めて言う。
足元に大量の水を集めると、ジェット噴射のような勢いで加速した。
「行くわよ、フレイ!」
「……あぁ」
フレイは終始苦い顔をしていた。
まだ迷いが残っているのだろう。
それでも足に炎を灯し、アクアの後を追って飛び出していく。
「私はボニーを追うとしよう」
チェスが静かに前へ出る。
「あやつの元には、恐らく私の妻がおるからな」
チェスが片手を前へ掲げる。
「――ビショップ」
地面から赤い鎧を纏う騎士が現れる。
翼を持つ女性型の騎士。
胸部の装甲が僅かに膨らんでいることから、女性であることがわかる。
「ボニーの元へ向かえ」
チェスが命じると、ビショップはチェスを背へ乗せ、空へ羽ばたいた。
「じゃあ、私はサイコを追うとしよう」
最後に残ったブレイクが肩を鳴らす。
「相性は最悪だが……仕方ないな」
そう呟くと、サイコが逃げた方向へ全速力で駆け出していった。
-
雷を纏いながら空を飛ぶボルトの後方を、白い煙に乗ったチーム・ホープの三人が追いかけていた。
「三人乗せてると追いつけねぇ! マッスとメタは地上から追いかけてくれ!」
「いや、待ってゴク――うぁっ!?」
ゴクウはボルトとの距離が徐々に離れていく状況を打破するため、マッスとメタが乗っている煙の一部に穴を開ける。
二人はそのまま地上へ落下していった。
「転移」
メタは即座に能力を発動する。
周囲の草木を落下地点へ転移させ、クッション代わりにすることで衝撃を和らげた。
「まったく……あいつはいつも急なんだから」
メタは乱れた髪を整えながら深いため息を吐く。
「しょうがねぇ。俺達も急いで追うぞ!」
マッスはメタを背負うと、ボルトとゴクウが飛んでいった方向へ全力で走り出した。
一方――。
「待ちやがれ!」
ゴクウは煙の人数が減ったことで速度を取り戻していた。
しかし、依然としてボルトとの距離を詰め切れずにいる。
(このまま海まで出られたら厄介だな……)
ボルトは飛行しながら状況を整理する。
(海上でゴクウと戦うより、地上で三人まとめて相手した方がまだマシか)
そう判断すると、飛行速度を落として地上へ降り立った。
「しょうがない、相手してやる」
ボルトは全身の雷を強め、拳を構える。
「宝玉を渡す気はねぇんだな?」
ゴクウも煙の高度を下げて地上へ降りる。
足元の煙はふわりと散開した。
「悪いな。俺は帝国の方が性に合ってる」
ボルトは低い声で答える。
「それに宝玉は、俺達が向こうで地位を得るために必要なんだ」
「お前らを殺してでも、俺達は宝玉を持って行く」
その瞬間、ボルトから凄まじい殺気が放たれる。
右手へ雷が集中していく。
「雷線」
ボルトが腕を振るう。
一直線に放たれた雷撃がゴクウへ襲いかかった。
「全力でいくぞ」
「黒煙・壁」
ゴクウは腰のベルトから黒玉を取り出して前方へ投げる。
黒玉から大量の黒煙が噴き出し、巨大な壁を形成した。
雷撃が壁へ衝突し、激しい火花を散らす。
だが、黒煙の壁は崩れない。
「頑丈だな」
ボルトは素直に感心したように呟く。
「この黒煙は、有害物質から作られた密度の高い煙だからな。数に限りがある分、強度は高ぇんだよ」
ゴクウの腰のベルトには、同じ黒玉が二十個ほど装着されていた。
「黒煙・針」
ゴクウは壁を構成していた黒煙を操作し、無数の針へ変化させる。
黒い針が一斉にボルトへ放たれた。
「雷放」
ボルトは全身の雷を増幅し、前方へ放電する。
黒煙の針は雷に触れた瞬間、チリチリと音を立てて消滅していった。
攻撃を防ぎ終えると、ボルトの雷出力が僅かに低下する。
――その瞬間。
ボルトの頭上へ巨大なハンマーが突如転移してきた。
勢いよく振り下ろされる。
「甘い」
ボルトは即座に後方へ飛び退き、難なく回避した。
「やっと追いついた」
「さすがに今ので当たるとは思ってないわよ」
いつの間にか、ゴクウの後方へマッスとメタが到着していた。
先ほどのハンマーはメタによる転移攻撃だったらしい。
「俺の周囲三メートルには常に微弱電流が流れてる。近づく物は全部感知できるんだよ」
ボルトはそう言うと、現れた二人へ挨拶代わりに雷を放つ。
「転移」
メタはポーチからナイフを二本取り出すと、雷の軌道上へ転移させる。
雷はナイフへ直撃し、ナイフは破壊される。
だが、その代わり雷も拡散して消えた。
「さぁ、あの馬鹿野郎を止めないとな」
マッスは拳を打ち合わせながら、真っ直ぐな目でボルトを見据える。
「やってみろ」
ボルトが雷の出力をさらに引き上げる。
パチパチという音は、次第に空を震わせるゴロゴロという轟音へ変わっていった。




