20年前
襲撃のあった翌日
超能隊本部には全隊員が集められていた。
壇上に立つナーブは黒板の前に立ち、チョークを手に取る。
「では、昨日の襲撃による被害状況を報告します」
黒板に文字を書きながら説明を始めた。
「東門、西門、南門、北門――全ての防衛に成功しました。皆さん、本当にお疲れ様です」
隊員達の表情が少し緩む。
「また、防衛にあたった超能隊員は全員軽傷で済んでおり、治療も完了しています」
ナーブは全員を見渡しながら続けた。
「今回捕らえた襲撃犯達から事情を聴取しました。全員、雇い主はコピだと証言しています。また、本来は奇襲作戦だったとも話しています」
「奇襲も何も、コピの野郎がわざわざ宣戦布告しに来たじゃねぇか」
ビースが腕を組みながら口を挟む。
「その通りです」
ナーブは頷く。
「つまり、コピには別の目的があったということです」
空気が少し張り詰める。
「今回の襲撃では、各門以外にも二つの被害が発生しています」
ナーブは指を二本立てた。
「まず一つ目」
一本指を折る。
「地下牢獄に収容されていたウィンド・エリファーが脱走していました」
周囲がざわつく。
「恐らくコピが、本部の警備が手薄になった隙を狙ったのでしょう」
さらにもう一本の指を折る。
「二つ目」
ナーブの表情が険しくなる。
「元老院の一人、ヒロ・ベリーさんが何者かに襲撃されていました」
隊員達の顔色が変わる。
「外傷はストロングさんによって治療されています。しかし現在も意識不明の状態で、何が起きたのか確認できていません」
ナーブは一度言葉を切る。
そして鋭い目で全員を見回した。
「ですが、一つだけ確かなことがあります」
静寂が訪れる。
「ヒロさんが常に肌身離さず持ち歩いていた――封印の宝玉が消えていました」
ドゴォン!!
突然、轟音が響く。
「何だと!!」
ゴクウだった。
怒りのまま近くの柱を殴りつけ、粉々に砕いている。
「落ち着けい、ゴクウ」
ブレイクが声をかける。
だがゴクウは振り返りもしない。
「これが落ち着いてられるかよ!!」
怒鳴ると、そのまま本部の扉へ向かう。
勢いよく扉を開け放った。
そして雲に飛び乗る。
「ゴクウ!」
誰かが呼び止める。
だがゴクウは止まらない。
そのまま空へ飛び去ってしまった。
本部には重い沈黙だけが残る。
「……はぁ」
ブレイクは小さくため息を吐いた。
「ゴクウが怒るのも無理はない」
そう言って壇上へ歩み出る。
「良い機会だ。皆、少し昔話に付き合ってくれ」
隊員達の視線がブレイクへ集まる。
「今から二十年前の話だ」
ブレイクは静かに語り始めた。
「二十年前にも――今回と同じように封印の宝玉が盗まれたことがあったのだ」
--20年前
「おいゴクウ、待てよ!」
ゴクウの名を呼ぶのは、ガタイが良く茶髪のウルフカットが特徴の男性だ。
男性はかなりの速度で森の上空を飛ぶ雲に乗ったゴクウの後ろを走っている。
「へっ、そんなに遅ぇと俺とメタで任務を終わらせちまうぞ」
ゴクウの乗る雲には、ゴクウの他に女性が一人乗っている。
その女性の名はメタ・ホープアイ。
二十代半ばほどで、茶髪の長い髪を腰まで伸ばしており、前髪は分けて額を出している。
「ゴクウ、意地悪しないの! マッスの速度に合わせて飛んであげなよ」
メタはゴクウに軽くチョップを入れると、後ろを走るマッスへ目を向ける。
「あいつだって身体能力を強化して走る速さが上がってるんだから、構わなくていいってのに」
ゴクウの姿は二十年後とほとんど変わらない。歳を重ねたようには到底見えなかった。
「マッスも雲に乗せてあげればいいでしょ? まったく、何であんた達は仲良くできないわけ?」
メタは呆れたようにため息をつく。
「おっ、目的の場所に着いたようだ」
森を抜けると、小さな村が見えてきた。
「はぁ、はぁ……やっと着いたか」
少し遅れてマッスも後ろから走ってくる。
「すいませーん! 超能隊のチーム・ホープです! 依頼された任務を遂行しに来ました!」
メタがハキハキとした声で村へ呼びかける。
しかし村の中は静まり返っており、外を出歩く者の姿は一人も見当たらない。
「遠くからご苦労様です」
やがて村の中でも一際立派な建物から、一人の老婆が姿を現した。
「あなたがこの村の村長ですか?」
マッスが老婆に問いかける。
「さようでございます。わしがこの村の村長を務めるアインです」
老婆は軽く頭を下げる。
「今回超能隊に依頼したい任務なのですが、この村をたびたび襲ってくる者の退治をお願いしたいのです」
老婆は咳き込みながらも、しっかりと任務内容を説明する。
「襲ってくる者? 盗賊のことか?」
ゴクウは老婆へ問いかける。
「うむ。まぁ盗賊と言っても差し支えないでしょう」
老婆は頷く。
「この村を襲ってくる者は二人の兄弟。狼男のウルと猫女のキャッツです」
「二人はたびたび村へ現れては、畑の食料を奪って帰っていくのです」
「なるほど、分かりました」
老婆の話を聞いたメタが質問する。
「その二人が現れるタイミングに何か規則性はあるんですか?」
「いや、不規則なのじゃ」
老婆は悲しそうに俯いた。
「二人が現れるタイミングは不規則なので、わし達も必要以上に外へ出ることができないのじゃ」
老婆は悲しそうに俯く。
「ん? その兄弟ってのはあれのことじゃねーか」
マッスが畑の方へ目を向ける。
そこには狼と猫の姿をした二人の人物が、畑の作物を袋へ詰め込んでいる姿が見えた。
「あっ、あいつらです!」
村長も畑の方を見ると、話に出ていた兄弟が既に食料を奪いに来ていたようだ。
「兄さん、何かあいつらこっち見てるよ。村長と見慣れない奴らだ」
猫の姿をした女性がこちらに気付き、警戒するように目を細める。
「あーん? 何だ、村長のやつが救援でも呼んできたか?」
狼の姿をした男も同様にこちらを睨みつけてくる。
「ちょうどいいな。あいつらをぶっ飛ばせば任務完了ってことだな?」
ゴクウは指をポキポキと鳴らしながら村長に確認する。
「はい、お願いしますじゃ」
村長が頷くと、ゴクウ、メタ、マッスの三人は兄弟の元へ走り出した。
「何だ何だ、俺らを退治しに来たのか? 上等だ。やるぞキャッツ!」
狼男は両手の爪を伸ばしながらゴクウへ突撃する。
「りょーかいよ、兄さん!」
猫女も同様に爪を伸ばし、マッスへ向かって駆け出した。
「メタ、お前はマッスの援護に回ってくれ」
ゴクウは狼男との一対一を望んでいるようだ。
「はいはい。気を付けなさいよ!」
メタは一言だけ返すとマッスの方へ向かった。
「ハッハー!」
狼男は素早い動きでゴクウの背後を取ると、鋭い爪を振り上げる。
しかし、その腕は白い煙に覆われ、ゴクウへ届く寸前で止まった。
「あめーよ」
ゴクウは動きの止まった狼男の顔面を棒で思い切り殴り飛ばす。
「いてーな!」
狼男は鼻を押さえながら後退する。
そして腕を覆う煙へ向かって強く息を吹きかけた。
狼男の吐き出した風によって煙は吹き飛ばされる。
「この煙を操る力がお前の能力だな?」
狼男は大きく息を吸い込む。
「息風動道!」
次の瞬間、口から放たれた暴風がゴクウへ襲いかかった。
ゴクウは棒を盾代わりに構えるが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。
「やるじゃねーか!」
ゴクウは煙を生み出してその上へ飛び乗る。
そしてそのまま狼男へ向かって飛翔した。
「何度やっても同じだ!」
「息風動道!」
狼男は再び暴風を放つ。
だがゴクウは足場の煙を蹴って高く跳躍し、風を回避した。
そのまま上空から棒を振り下ろす。
「哀安黒!」
狼男は鋭く伸ばした爪を突き上げる。
棒と爪が激突する。
力比べでは狼男が勝った。
ゴクウの棒は空高く弾き飛ばされる。
「はっ、おしめーだ!」
狼男は心臓目掛けて爪を突き出した。
「煙煙包獄」
ゴクウが片手を向ける。
すると大量の煙が狼男を包み込み、その姿を覆い隠した。
「息風動道!」
狼男は再び風を放つ。
煙は吹き飛ばされた。
しかし次の瞬間。
上空から棒が勢いよく振り下ろされる。
「いてっ!」
狼男は頭を押さえる。
棒の先には細い煙が繋がっており、その先はゴクウの手元まで伸びていた。
「おらららら!」
気付けばゴクウは目の前にいる。
狼男の顔面へ棒を連続で叩き込んでいく。
狼男は殴られるたびに血を吐き出した。
最後にゴクウが心臓目掛けて鋭い突きを放つ。
狼男は白目を剥いて倒れた。
能力が解除され、狼男の姿は人間へと戻っていく。
「楽しかったぜ」
ゴクウは満足そうに笑うと、煙で狼男を拘束した。
「兄さん!」
狼男が倒れたことで猫女は動揺する。
その隙をマッスは見逃さなかった。
強烈な拳が猫女の腹へ突き刺さる。
猫女は吹き飛び、地面を三度ほど跳ねながら転がった。
「転移」
メタが能力を発動する。
彼女が触れていた地面に大穴が開いた。
次の瞬間。
猫女の真上に巨大な土塊が現れ、落下してくる。
猫女は土塊へ飛び乗ると、そのまま頂上まで駆け上がった。
そして上空からマッスへ飛び掛かる。
だがマッスは冷静だった。
猫女の動きを見切り、躱しながら腹へカウンターを叩き込む。
「ぐふっ……」
猫女が悶えた瞬間。
今度は頭に強い衝撃が走る。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
原因はメタが転移させたトンカチだった。
上空から落下した勢いをそのまま乗せて命中したのである。
「ふぅ、こっちもいっちょ上がりね!」
トンカチは消え、一瞬でメタの手元へ戻る。
メタはそれを何事もなかったかのようにポケットへ収納した。
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「ありがとうございました。何とお礼を申し上げればよいか……」
村長は深々と頭を下げ、感謝の言葉を伝える。
「いえいえ、任務をこなしただけなので!」
メタは慌てて両手を振り、村長に顔を上げるよう促した。
「じゃあ、この二人は俺達の方で取り締まっておくぞ」
ゴクウは能力の解除された狼男と猫女を煙で拘束する。
そのまま二人を自身の乗る雲へ放り投げるように乗せた。
「じゃあな!」
一言だけ残すと、ゴクウは雲を走らせて街へ向かって飛び去っていく。
「相変わらずせっかちね……」
メタは呆れたようにため息を吐く。
「まったくだ」
マッスも苦笑しながら同意した。
「私達も帰りましょ、マッス」
「ああ」
二人は村長へ軽く会釈をすると、ゆっくりと街への帰路についた。
村長はそんな二人の背中を見送りながら、何度も頭を下げ続けていた。




