号令
超国に建つ家としては珍しく、庭には鯉の泳ぐ池があり、内装も和室で統一された一軒家があった。
そこへ、一人の訪問者が現れる。
紫色の長髪に無造作な口髭と顎髭。
野性味あふれる風貌の男――ドラゴ・ハスケンだ。
彼は以前、カインズの三人が勧誘しようとした人物である。
だが、その時はコピの妨害によって勧誘は失敗に終わっていた。
「ここが元老院の一人、ヒロ・ベリーの家か。中々趣味がいいな」
ドラゴは初めて見る和風の家を興味深そうに眺める。
「何の用だ?」
その時、玄関の扉が開き、ヒロ本人が姿を現した。
「出てきてもらえて助かる」
ドラゴはそう言うと、一度言葉を切る。
そして真剣な表情で告げた。
「アンタが持つ封印の宝玉を貰いに来た」
「私はそんなものは持っておらん。帰るんだな」
ヒロは表情一つ変えずに答えると、そのまま家の中へ戻ろうとする。
「残念だが帰るわけにはいかないんだ」
ドラゴの目が鋭くなる。
「アンタが宝玉を持っていることは、もう調べがついている」
言い終わると同時に、ドラゴは一瞬で距離を詰めた。
その拳がヒロの鳩尾へ突き刺さろうとする。
しかし寸前でヒロが反応し、杖を間に差し込んで防御した。
ガキィッ!!
鈍い音が響く。
「持っておらんと言っておるだろうが!」
ヒロは怒鳴り声を上げる。
「悪いな、じいさん」
ドラゴは空いている左腕を巨大な竜の腕へと変化させた。
そのままヒロの体を掴み上げる。
「ぐぁぁっ!」
竜の腕による圧力に耐えきれず、ヒロは短い悲鳴を上げる。
そしてそのまま意識を失った。
「少しの間、寝ててくれよ」
ドラゴは気絶したヒロを丁寧に地面へ寝かせる。
その後、竜化した腕を元の姿へ戻した。
「確か封印の宝玉は、ヒロが常に身につけているって話だったな」
ドラゴはヒロの体を調べ始める。
すると首から下がる一本の紐を見つけた。
その先には、拳ほどの大きさを持つ透き通った青色の宝玉が吊り下げられている。
「これだな」
ドラゴは宝玉を見つめながら呟く。
「任務完了だ」
ヒロの首から紐を外すと、自分の首へ掛け直す。
そして背中から巨大な竜の翼を生やした。
バサァッ!!
翼を大きく羽ばたかせる。
ドラゴの体は一気に空へ舞い上がった。
その姿は青空の彼方へ消えていく。
-
西門の前では、ファビュラスの三人によって既に過半数の団員が倒されていた。
「はぁ、はぁ……最近疲れることが多いなも〜!」
ポートは瞬間移動を繰り返しながら、次々と団員たちを切りつけていく。
その合間にも愚痴をこぼしていた。
「ここまで数が多いと流石に面倒くさいな」
カードも手に持つ棍棒を振るい、敵を切り伏せながら同意する。
「何で僕たちには広範囲攻撃ができる人がいないんだよ……」
レイが小さく呟く。
その言葉通り、ファビュラスの三人は対個人戦に特化したチームである。
本来、多数の敵を相手取ることは得意ではない。
「よし、あっちの疲労も溜まってきたな。号令を出すぞ!」
サムは近くにいた部下から拡声器を受け取った。
そして大きく息を吸い込む。
「ダチュラ団団員に告げる!」
戦場全体に響き渡るほどの大声だった。
「お前らは強い! お前らは何度でも立ち上がる! 敵を蹂躙しろ!!」
サムの声が響き渡った瞬間――
地面に倒れていた団員たちが次々と立ち上がり始める。
「さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか」
サムは口髭をつまみながら余裕たっぷりに笑った。
「おいおい、倒した奴らが起き上がってきたぞ!」
カードは復活した兵士を再び叩き伏せながら声を上げる。
「落ち着いて、カード……」
レイは慌てながらも周囲を観察していた。
「僕が首を刈り取った敵は復活してないし、完全に気絶してた敵も起き上がってないよ」
「確かに起き上がってる兵士は全体の三分の一程度だね〜」
ポートも周囲を見回す。
レイが倒した死体や、深く気絶している敵はそのままだった。
「恐らく意識を保っていた人にしか効果がないのかな〜」
「なるほどな!」
カードは大きく頷く。
「中途半端なダメージだと起き上がっちまうってことか!」
そう言うと、今度は確実に意識を刈り取るように敵を一人ずつ叩き伏せていく。
サムの号令を受けた団員たちは、先ほどまでとは比べものにならないほどの力を発揮していた。
一人ひとりの強さは数段上がっている。
それでもファビュラスの三人へ致命傷を与えるには至らない。
だが――
確実に体力を削っていた。
終わりの見えていた戦いは、再び長期戦へと変わり始めていた。
-
やがて三人を取り囲んでいた団員たちは全員倒れた。
戦場に残っているのは、サムと、その傍らに立つ三人の人物だけである。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ポートは肩で荒く息をしていた。
もはや会話をする余裕すら残っていないようだ。
「ふぅ……これで残ってるのは親玉だけか?」
カードは大量の汗を流しているものの、まだ戦う余力は残っている。
「頭目には戦闘能力はないと思うよ……」
レイは静かにサムを見つめる。
「多分、あの三人を戦わせるために僕たちを疲れさせたんだと思う……」
レイだけは汗一つかいておらず、疲労している様子も見られない。
「とうとう、お前たちの番だ」
サムが後ろを振り返る。
「とっておきの暗示をかけてやる」
サムの背後に立つ三人は、ダチュラ団幹部である。
左に立つのはウォー・ハード。
屈強な肉体を持つ黒人の男で、その姿だけで周囲へ威圧感を与えていた。
中央にいるのはクッパ・サランド。
黄色いマッシュヘアに、狂気的な笑みを常に浮かべている男だ。
そして右に立つのはボーン・ボンボン。
目の下に濃い隈が浮かび、今にも眠ってしまいそうな表情をしている。
「お前たちは最強だ」
サムは三人を見渡しながら語りかける。
「お前たちの能力は数段強くなる」
さらに言葉を重ねる。
「お前たちは負けない」
その瞬間――
三人の体から青い光が溢れ出した。
「ありがとうございます」
ウォーが静かに頭を下げる。
「ヒッヒッヒッ! 来た来たァ!」
クッパは嬉しそうに肩を震わせる。
「……」
ボーンは相変わらず眠そうな顔のままだった。
三人はそれぞれ異なる反応を見せる。
「さぁ、最終ラウンドだ」
サムはちょび髭を撫でながら不敵に笑った。
その言葉を合図に――
ダチュラ団幹部三人が、ファビュラスへ向かって一斉に駆け出す。




