三兄弟 後編
先ほどまで二人は猛スピードで動き回りながら激しい攻防を繰り広げていた。
だが現在は、お互い距離を取ったまま動きを止めている。
原因はビースが背中に生えた翼で空を飛んでおり、スードが攻撃を仕掛けられないからだ。
「おい! それは反則ザンスよ! さっきみたいにスピード勝負で決着をつけるザンス!」
スードは空を飛ぶビースへ向けて大声で抗議する。
「もう十分付き合ってやっただろ。イスももう終わらせたみたいだからな。遊びの時間は終わりだ」
ビースはスードの苦情を冷たくあしらった。
「降りてこないなら、下ろすまでザンス」
「蹴球」
スードは近くに転がる石を次々と蹴り上げる。
強力な脚力によって撃ち出された石は弾丸のような速度でビースへ迫る。
だがビースは空中を縦横無尽に飛び回り、すべて回避しながらスードとの距離を詰めていく。
「大猩猩槌」
ビースはスードの真上まで接近すると、両腕をゴリラの腕へ変化させる。
そして両拳を握り合わせ、そのままスードめがけて振り下ろした。
「旋風高蹴」
スードはその場で高速回転しながら勢いをつけ、上空へ向かって蹴りを放つ。
拳と蹴りが正面から激突する。
だが純粋な腕力ではビースが上だった。
スードの蹴り足は徐々に押し込まれ、膝が曲がっていく。
「旋風反撃」
スードは軸足を回転させ、ビースの力を受け流す。
そして流した勢いをそのまま利用し、鋭い回し蹴りをビースへ叩き込んだ。
ビースの両腕は地面へ振り下ろされた直後だった。
気づけばスードの蹴りが顔面目前まで迫っている。
「一角」
ビースの額から鋭く長い角が生える。
歯を食いしばりながら、その角をスードの蹴りへぶつけた。
ガキィン!!
激しい衝突音が響く。
ビースの角にはひびが入り砕け散る。
だが予想外の反撃にスードも体勢を崩してしまった。
「中々楽しかったぞ。終わりだ」
「大猩猩拳」
ビースは角が砕けても気にした様子はない。
怯んだスードの隙を逃さず、ゴリラの腕へ変化させた右拳を叩き込む。
ドゴォッ!!
強烈な一撃がスードの胴体へ直撃した。
スードは反応することもできず、そのまま吹き飛ばされる。
「ぐっ……ロックの兄貴、すまねぇでザンス。後は頼むザンス……」
遠くで戦うロックへ視線を向けながらそう呟くと、スードは意識を失った。
「はぁ、こっちも終わったか」
ビースは倒れたスードを見下ろしながら息を吐く。
「残るはバンさんのところだけだな。イスも向かってるみたいだし、俺は少し休憩させてもらうか」
先ほどまで猛スピードで走り回っていた反動は大きかったらしい。
ビースも限界が近かったようで、その場に仰向けに倒れ込む。
「少しだけ寝るか……」
そう呟くと、ビースはハイエナへと姿を変え眠りについた。
ハイエナは動物の中でもトップクラスの疲労回復力を誇るため、数分寝るだけで全開となるのだ。
-
「弟たちはやられてしまったようね」
バンはビースとイスが勝利した様子を見て、妖艶に微笑む。
「そうみたいだな。だが弟たちはしっかり任務を果たした。俺も任務を遂行するまでだ」
ロックも弟たちの敗北を確認するが、その表情に変化はない。
意識は既に目の前の戦いへ向いていた。
「岩岩魂丸」
ロックの全身を覆う岩がさらに巨大化し、やがて一つの巨大な岩球となる。
そのまま勢いよく転がりながらバンへ突撃した。
「血操・破魔矢」
バンは自身の血液から弓矢を作り出す。
弦を限界まで引き絞ると、迫る大岩へ向けて放った。
血の矢が大岩へ命中した瞬間、激しい爆発が起こる。
大岩は砕け散り、大量の煙が周囲を包み込んだ。
その煙の中からロックが飛び出してくる。
全身を覆っていた岩は剥がれ落ちており、右拳だけを岩で覆いながらバンへ突進していた。
「岩岩拳点」
「血操・分裂」
ロックの拳が届く寸前。
バンの体は十匹の赤い蝙蝠へと分裂した。
拳は空を切る。
蝙蝠たちはロックの背後へ回り込むと再び集合し、元の姿へ戻った。
「なに!?」
ロックは初めて驚きの声を上げる。
急いで振り返ろうとするが間に合わない。
バンの鋭い蹴りが背中へ直撃した。
ドゴォッ!!
ロックの巨体が吹き飛ぶ。
ロックは両手を岩で覆い、そのまま地面へ叩きつけることで勢いを殺した。
口元からは血が流れている。
ロックはそれを手の甲で拭った。
「そんなこともできたのか」
感心したように呟く。
「ふふ、切り札は肝心な場面で切るものよ」
バンは余裕たっぷりの笑みを浮かべた。
「そうか。それなら俺も切り札を切ろう」
ロックは静かに目を閉じる。
「岩巨兵」
再び全身が岩に覆われる。
先ほどのような球体へ変化すると、その球体を核として巨大な頭部、両腕、両脚が形成されていく。
やがて全長十メートルを超える巨大な岩の兵士が姿を現した。
「大きいわね」
バンは見上げながら呟く。
「でも、こちらには増援が来たみたいよ」
近づいてくる気配に気づき、視線を向ける。
「バンさん! 加勢に来ましたよ!」
そこにはイスの姿があった。
イスはバンの隣へ立つと、左手の小指から赤い糸を伸ばし、バンの左手の小指へ繋げる。
するとバンの体が赤い光に包まれた。
「ちょうどいいタイミングだよ、イス」
バンは口元を吊り上げる。
「すぐ終わらせるからね」
二人が会話している間にも、ゴーレムは巨大な右腕を振り上げていた。
「血操・極・破魔矢」
バンの作り出した弓矢は、先ほどとは比べものにならないほど赤い光を放っている。
イスの能力によって強化されているのだろう。
放たれた矢は一直線に飛び、ゴーレムの右腕を吹き飛ばした。
だが――
ゴーレムは残った左腕を振り上げ、そのまま殴りかかってくる。
「離れなさい!」
バンは矢を放った直後で回避が間に合わないと判断する。
隣にいたイスを突き飛ばし、自分だけが拳の射程に残った。
「バンさん!」
ドゴォォン!!
巨大な拳がバンを吹き飛ばす。
だがバンは空中で体勢を整える。
「血操・極・破魔矢」
再び矢を生成し、今度は残された左腕へ放った。
矢は正確に命中し、左腕も粉々に砕け散る。
両腕を失ったゴーレム。
だが今度は巨大な足を持ち上げ、イスを踏み潰そうとする。
その瞬間。
イスの小指から伸びる赤い糸が強く引かれた。
イスの体が一気にバンの元へ引き寄せられ、踏み潰される寸前で回避に成功する。
「助かりました!」
イスは満面の笑みを浮かべる。
バンも軽く微笑み返した。
「これで終わりよ」
「血操・極・破魔矢」
三本目の矢が放たれる。
矢はゴーレムの胴体中央へ命中した。
轟音とともに胴体が崩壊する。
核を失ったゴーレムは頭部も脚も維持できなくなり、そのまま崩れ落ちていった。
砕けた胴体の中からロックの姿が現れる。
そのまま地面へ落下し、鈍い音が響いた。
「大したものだよ」
バンは倒れたロックへ歩み寄る。
「私の攻撃を受けてなお意識が残っていて、落下の瞬間に岩で体を守る余力まであったんだからね」
ロックは地面に横たわりながら苦笑した。
「流石は超能隊だな。俺たち三兄弟が全員やられるとは……」
そして小さく笑う。
「だが、任務は果たした」
「あなたたちの任務って、殺しじゃなかったんですかー?」
バンの隣まで来たイスが首を傾げながら尋ねる。
ロックは薄く目を開いた。
「別に話しても構わないことだ」
そして静かに答える。
「俺たち三兄弟に依頼された任務は――ここにいる超能隊の足止めだ」




