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unlimited  作者: 轟号剛


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15/22

茶色

「避けているだけじゃ私には勝てないよ!」


イーツは地面の土や砂を次々と吸い込み、ウェンへ向けて発射し続けている。


ウェンは水の壁を作り続けて防御しているが、反撃に転じる余裕はないようだった。


だが、土砂の勢いは凄まじく、水の壁を貫通した破片が少しずつウェンの体に傷をつけていく。


「はぁ〜。そろそろ疲れてきたから終わらせるよ」


ウェンは面倒臭そうな表情を浮かべながら、水の壁を消した。


「笑わせてくれるね! 私に攻撃が通らないのに勝てるつもりかい?」


イーツは鼻で笑う。


ウェンの言葉が負け惜しみにしか聞こえなかったのだろう。


「うるさいな〜。さっさと黙ってもらうよ」


雨降(レインシャワー)


ウェンが上空へ水の塊を放つ。


塊は空中で弾け、細かな雨となって周囲一帯へ降り注いだ。


「これが秘策かい? 全然痛くも痒くもないよ!」


イーツは気にも留めず、再び地面の土砂を吸い込み始める。


砂土出吸(サドンデス)!」


吐き出された土砂がウェンへ襲いかかる。


ウェンは再び水の壁を展開して防ぎながら、水の槍を生成した。


水槍(スイソウ)


鋭い水の槍がイーツへ飛ぶ。


「何回やっても無駄だって分からないのかい!」


イーツは大きく口を開く。


迫る水の槍を吸い込み、そのまま消滅させた。


――だが次の瞬間。


ドシュッ!


「がっ……!?」


イーツの腹部を水の槍が背後から貫いた。


「なっ……なんで……!?」


イーツは目を見開き、その場に膝をつく。


「君の能力って前から来たものしか吸収できないでしょ?」


ウェンはゆっくりと歩み寄る。


「口は前にしか付いてないんだから当たり前だよね〜」


イーツは苦痛に顔を歪める。


ウェンは続けた。


「だから背後から攻撃することにしたんだ」


「まさか……あの雨……!」


「正解〜」


ウェンは指を立てる。


「さっき降らせた雨で、君の周囲に水をばら撒いておいたんだよ。前から飛ばした水槍に気を取られてる間に、後ろの水を槍に変えただけ」


ウェンは肩をすくめた。


「簡単でしょ〜?」


イーツは悔しそうに歯を食いしばるが、既に立ち上がる力は残っていない。


ウェンは片手を上げた。


水牢(スイロウ)


大量の水がイーツを包み込み、球体となって拘束する。


「安心してよ〜。窒息はしないから」


ウェンは欠伸をしながら続ける。


「でも傷口が開くから暴れない方がいいと思うよ〜」


イーツは水の中で睨みつけるが、やがて観念したように動きを止めた。


「はぁ〜……疲れた」


ウェンはその場に座り込む。


そして自分の体も水で覆った。


水が傷口に触れ、出血をゆっくりと止めていく。


「ちょっとだけ休憩……」


そう呟くと、ウェンはその場で横になった。


数秒後には小さな寝息が聞こえ始めていた。


-


「避けているだけじゃ私には勝てないわよ!」


イーツとの戦いとは対照的に、オーラは徐々に追い詰められていた。


体を覆っていたオレンジ色のモヤは、既にかなり薄くなっている。


「毒が効かないのは驚いたけど、あなたの能力も限界みたいね」


ポインの周囲には、毒で作られた犬が五匹待機していた。


「はぁ……はぁ……」


オーラは肩で荒く息をしながら呼吸を整える。


「あはは! いい気味だわ! もうすぐ苦痛に満ちた顔に変わるわよ!」


ポインが手を振る。


五匹の毒犬が一斉に襲いかかった。


橙拳爆散(トウケンバクサン)!」


オーラは先頭の毒犬へ拳を叩き込む。


吹き飛ばされた毒犬は後続に激突し、その瞬間――爆発した。


ドォン!!


連鎖するように他の毒犬達も次々と爆発していく。


爆風を突き抜けたオーラは、そのままポインへ肉薄した。


「おらぁ!」


拳がポインの腹に突き刺さる。


「ぐっ……!」


ポインは咄嗟に全身を毒で覆い硬化させる。


直撃は避けたが、衝撃までは消し切れない。


吹き飛ばされたポインは地面を転がり、口元から血を吐いた。


「よくも……私に傷を付けたわね!」


ポインの目が大きく見開かれる。


「私はもう傷付けられる側じゃないのよ!」


毒流狼(ポイズンウルフ)!」


地面から巨大な毒の狼が姿を現した。


「橙拳爆散!」


オーラは地面を殴りつける。


爆発が起き、毒狼の勢いを削ぐ。


だが止まらない。


毒狼はそのまま牙を剥き、オーラへ噛み付いた。


「ぐぅぅっ!!」


オーラは両腕へモヤを集中させて受け止める。


しかし牙は少しずつモヤを突き破り、皮膚へ届こうとしていた。


「おらぁぁぁ!!」


モヤを爆発的に放出する。


毒狼は大きく吹き飛ばされた。


「私はアンタみたいなキラキラした奴が大嫌いなのよ!」


ポインは叫ぶ。


「周りに恵まれて! 親にも愛されて! 何不自由なく生きてきたような奴が!」


毒狼が再び飛びかかる。


巨大な爪がオーラを切り裂こうと振り下ろされた。


「過去に何があったかなんて知らねぇ!」


オーラは拳を振るう。


拳と爪が激突した。


凄まじい衝撃で両者が吹き飛ぶ。


毒狼の片腕は消し飛び、オーラの体には無数の裂傷が刻まれた。


「うるさい!」


ポインは叫び返す。


「毒がうつるって言われて避けられたことがある!?石を投げられたこともある!?」


声が震える。


「親にさえ避けられて生きてきた苦しみがアンタに分かるの!?」


失われた毒狼の腕が再生していく。


オーラは立ち上がった。


「確かに人は勝手だ」


消えかけていたモヤが少しだけ濃くなる。


「自分が傷付くのは嫌なのに、人を傷付けることには平気な奴がいる」


オーラは拳を握る。


「でもな!」


声を張り上げた。


「だからってお前が傷付ける側になっちまったら意味ねぇだろ!」


ポインの瞳が揺れる。


「復讐してやったわ!」


ポインは涙を滲ませながら叫ぶ。


「そしたら同じように苦しんだ人達が集まってきた! 私はその人達も助けてきたの!」


毒狼が猛スピードで突進する。


「お前が傷付いてきたことは分かった!」


オーラは毒狼を飛び越える。


「国を恨む理由もな!」


ポインとの距離が一気に縮まる。


「でも俺が守りたい人達まで傷付けさせるわけにはいかねぇ!」


「私はこの国を滅ぼす!」


ポインは毒弾を五発放つ。


「苦しんでる奴を救いたいなら!」


オーラは全てを受けながら突っ込む。


「こんなやり方じゃダメだろ!」


一気に距離を詰める。


「それに――」


オーラは静かに言った。


「お前が本当に欲しかったものは復讐じゃねぇ」


ポインの拳が止まる。


「なに……?」


「理解者だろ」


ポインの目が揺れる。


「自分を分かってくれる奴」


オーラはさらに続けた。


「守ってくれる仲間だ」


ポインの拳が完全に止まった。


その隙にオーラは懐へ潜り込む。


だが拳は振るわない。


代わりに――。


ポインの手を握った。


「なっ……!?」


オレンジのモヤは消えている。


毒は容赦なくオーラの腕を侵食していった。


それでも離さない。


「俺には全部は分からねぇ」


毒が肩まで到達する。


「でも苦しんでる奴を見捨てたくねぇんだ」


ポインの目から涙が零れ落ちる。


「俺がお前の仲間になってやる」


オーラは笑った。


「だからここで止まってくれ」


ポインは泣いていた。


今まで誰にも触れられなかった手。


その手を握ってくれている人間がいる。


「なんで……」


声が震える。


「なんで離さないのよ……」


「だって仲間になるんだろ?」


オーラは笑ったまま答えた。


そして――


ポインの能力が発動する。


「解毒」


紫色に染まっていた腕が元へ戻っていく。


「アンタが私のそばにいてくれたら……」


ポインは涙を拭った。


「私も国を守る側になれたかもしれないわね」


「まだ遅くねぇよ」


オーラが答える。


ポインは小さく笑った。


「ありがとう」


次の瞬間。


緊張の糸が切れたオーラは、そのまま前へ倒れ込む。


「あっ……」


ポインは慌てて抱き留めた。


そして優しく地面へ寝かせる。


「毒が回ってるのに無茶するからよ」


そう呟きながら、ポインはオーラの手を握り続けていた。


-


北門の前では、盗賊達が全員地面に倒れていた。


立っているのはアブただ一人である。


「オーラは相変わらずの人たらしだね」


アブは腕を組みながらため息をつく。


「まさか盗賊団の頭まで懐柔しちゃうなんて」


視線の先では、ポインが気絶したオーラの側に座っている。


完全に戦意は失っているようだ。


「まぁ、無事に終わったなら何よりかな」


アブは肩の力を抜きながら周囲を見渡す。


そこで、ふとあることに気付いた。


「ん?」


まずウェンを見る。


ウェンは水の球体に包まれたまま気持ち良さそうに眠っている。


次にオーラを見る。


毒の影響で完全に気絶している。


さらに周囲を見る。


地面には百人近い盗賊達が転がっている。


「……」


アブは数秒間固まった。


「ちょっと待って」


嫌な予感がした。


「ウェンは寝てる」


指を一本立てる。


「オーラは気絶してる」


二本目を立てる。


そして自分を指差した。


「つまり今動けるの――」


沈黙。


「私だけ!?」


アブの叫び声が森中に響き渡った。


「えっ!? 嘘でしょ!?」


盗賊達を見回す。


「この人数を!?」


オーラを見る。


「気絶してる脳筋と!」


ウェンを見る。


「寝てる怠け者と!」


再び盗賊達を見る。


「百人以上の盗賊を!!」


頭を抱える。


「本部まで運べってこと〜〜〜!?」


アブはその場に膝をついた。


「無理無理無理無理!!」


「分身が使えるようになるまで私も寝る!」


そう言ってアブも地面に寝転んだのだった。

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