開幕
—北門
北門の前にはチーム・カインズのアブ、オーラ、ウェンの三人が並んで立っていた。
「本当に来るのかな〜。むしろ来ないで欲しいよね〜」
ウェンは門にもたれかかるように座り込み、やる気のない声を漏らす。
「何言ってんだ。この前の借りを返さねぇと気が済まねぇよ」
オーラは拳を打ち合わせながら不敵に笑う。
「コピ本人が来るかは分からないけどね。でも予告が本当なら、もうすぐ正午。相手も動くはずよ」
アブはそう言うと、座り込んでいるウェンの肩を掴み無理やり立たせた。
「ウェンもちゃんと準備しなさい」
「何でこういう時に僕の担当なんだろうな〜。こういう戦闘はチューズとかマンの役目でしょ〜」
「そんな都合よく襲撃日が決まるわけないでしょ」
アブは呆れたようにため息をつく。
「お前も毎日人格が変わるなんて不便な身体だよな」
オーラはそう言うと地面に手をつき、待ち時間を潰すように腕立て伏せを始めた。
しかし数回身体を上下させたところで、その動きが止まる。
「……来たな」
オーラはゆっくりと立ち上がった。
その視線の先。
森の奥から人影が次々と姿を現していた。
「何で門が閉まっているんだい? それに、あれは超能隊か?」
集団の先頭を歩く紫髪の女――ポイン・エルセムが隣の部下へ問いかける。
「どうやら襲撃の情報が漏れていたようですね」
ふくよかな体型の女、イーツ・カルメンが静かに答えた。
「まぁ関係ないね」
ポインは不気味な笑みを浮かべる。
「報酬はもう受け取っている。超国を潰す良い機会だ。このまま攻め込むよ」
ポインが手を振り下ろした瞬間、配下の盗賊達が一斉に駆け出した。
「いきなり来やがったか! 俺達も行くぞ!」
オーラは拳を握りしめながら前へ出る。
「あ〜あ、本当に来ちゃったよ〜」
ウェンは迫ってくる盗賊達を見ながら、心底嫌そうな声を漏らした。
だがその目は既に敵を捉えている。
北門の戦いが、今始まろうとしていた。
—南門
南門を守っているのは、チーム・ブルームのバン、ビース、イスの三人である。
北門で盗賊達が襲来したのとほぼ同時刻。
突如として巨大な岩が空から降ってきた。
ドゴォン!!
岩は門の手前に激突し、砕け散る。
大量の砂埃が舞い上がり、周囲の視界を覆った。
「ロックの兄貴……毎回思うんでヤンスけど、この移動方法やめた方が良くないでヤンスか……」
砂埃の中から聞こえてきたのは情けない声だった。
やがて煙が晴れると、そこにはセージ三兄弟の姿があった。
末弟のヘアはうつ伏せに倒れたまま文句を漏らしている。
「そう言うなよヘア。俺はこの移動方法、楽だしスリリングで好きザンスよ」
次男のスードは笑いながら立ち上がる。
「門に直撃させるつもりだったが、少々外したガンス」
長男のロックは衝撃など感じさせない様子で仁王立ちしていた。
「やっと来やがったな」
地面に胡座をかいていたビースが立ち上がる。
「待ちくたびれたぞ」
鋭い視線が三兄弟へ向けられる。
「あっ、兄貴達! あれ超能隊でヤンスよね!? 何でここにいるんでヤンスか!? 計画が漏れてたってことヤンスか!?」
ヘアは門の前に立つ三人を見て慌てふためく。
「何だ。あいつら、こっちに宣戦布告したことを知らないのか?」
バンは首を傾げた。
昨日、コピが超能隊本部へ現れたことを三兄弟は知らないらしい。
「落ち着けヘア」
スードはヘアの肩を叩く。
「あっちには千里眼の能力者がいたはずザンス。俺達の動きを見られていたのかもしれないザンスよ」
「な、なるほどでヤンス……」
ヘアは少しだけ落ち着きを取り戻した。
「私、あの人達の顔知ってますよ!」
イスが手を挙げながら声を上げる。
「確か殺し屋のセージ三兄弟です!」
「へぇ……」
ビースの口元が僅かに吊り上がる。
「少しは楽しめそうじゃねぇか」
「俺達は依頼された仕事をこなすだけガンス」
ロックは淡々と言うと、そのまま門へ向かって歩き出した。
スードとヘアも後に続く。
「こちらも行くぞ」
バンが短く告げる。
その言葉を合図に、ビースとイスも前へ出た。
互いの距離が徐々に縮まっていく。
南門の戦いが、静かに幕を開けようとしていた。
—西門
西門では既に戦いが始まっていた。
団員数千人を誇るダチュラ盗賊団。
その盗賊達が三人を取り囲み、次々と武器や能力で襲い掛かる。
しかし――。
チーム・ファビュラスの三人は涼しい顔でそれらを捌いていた。
「そこだ!」
盗賊の一人が剣を振り下ろす。
だが、その瞬間にはポートの姿は消えていた。
「遅い」
背後から声が響く。
ポートは瞬間移動で相手の懐へ入り込み、手に持ったナイフを一閃。
盗賊は何が起きたか理解する間もなく倒れていった。
「ぐあぁ!」
「ば、化け物か!」
別の盗賊達が一斉に飛びかかる。
しかし今度はカードが前へ出る。
左手に持つクラブ型の盾で攻撃を弾き返し、右手に握る奇妙な形状の棍棒を振るう。
棍棒にあたる盗賊達の身体に深い裂傷が走った。
「雑魚が多すぎるな」
カード・レッドミル。
金髪のモヒカン。
左頬にはクラブマーク、右頬には数字の9。
不敵な笑みを浮かべながら敵陣を蹂躙していく。
そして最も恐ろしいのは三人目だった。
超能隊最強。
レイ・クアンタ。
目元を隠す黒髪と常に自信なさげな表情をした小柄な男。
盗賊達の攻撃は全てレイの身体をすり抜ける。
剣も。
槍も。
能力による攻撃すら。
まるでそこに存在していないかのように通過していく。
「ひっ……」
盗賊の一人が恐怖で後退る。
だがレイは無表情のまま鎌を振るった。
次の瞬間、その盗賊の首が宙を舞う。
血飛沫が上がる。
さらにもう一振り。
また一人。
また一人。
まるで草刈りでもするかのように首が飛んでいった。
「ば、化け物だ!」
盗賊達の士気は目に見えて下がり始めていた。
それでも数だけは多い。
倒れても倒れても盗賊達は押し寄せてくる。
少し離れた場所から、その光景を見ている男がいた。
ダチュラ盗賊団頭目。
サム・コルダン。
ちょび髭を撫でながら、面倒そうに戦況を眺めている。
「超国最強チームのファビュラスが相手か。貧乏くじを引いちまったな」
「こちらの兵がどんどん減っています。俺達も出ますか?」
隣に立つ肌の黒い大柄な男が尋ねる。
「いや、まだ待て」
サムは首を横に振った。
「兵なんてまた集めりゃいい」
そして細い目をさらに細める。
「今はあいつらを少しでも疲弊させる方が大事だ」
サムの口元がゆっくりと吊り上がった。
「それに――そろそろ号令を出す頃合いだ」
その表情にはまだまだ余裕の笑みが張り付いていた。
—東門
東門の前では、イゾウ・オカが一人立っていた。
その正面にはチーム・サイユウの三人がいる。
「おう、イゾウ。久しぶりじゃねーか」
ゴクウは雲の上で胡座をかきながら気軽な口調で話しかける。
「よっ、ゴクウ。元気そうで何よりだ!」
イゾウも笑顔で手を挙げて返事をした。
まるで旧友同士の再会のような空気だった。
「まさかお前が超国を潰しに来るとは思わなかったぞ」
長身のスキンヘッドの男――ゴジョウが杖を肩に担ぎながら口を開く。
「いやいや、俺は別に超国を潰す気なんてねぇよ」
イゾウは両手を上げて肩を竦める。
「俺の役目はここに来た奴らの足止めだけだ。それさえやれば大金が手に入るんだよ」
そう言うと、その場に胡座をかいて座り込んだ。
「じゃあ戦わなくていいんだね」
ゴジョウの隣に立つハッカイが穏やかな笑みを浮かべる。
巨大な体躯とは対照的に、その表情はどこまでも優しい。
「あぁ。昔話でもしながら時間を潰そうぜ」
イゾウはリュックから酒瓶を取り出し、一口飲む。
「なんだよ、つまんねぇな」
ゴクウは肩を落とした。
「じゃあ俺は別のところに行ってくるか」
雲を動かし、その場を離れようとする。
その瞬間だった。
キィィン――
甲高い金属音が響く。
イゾウが腰の刀を抜いていた。
振り抜かれた刀身は異様な速度で伸びていき、離れた位置にいるゴクウへ襲い掛かる。
だが。
ドン!!
ゴジョウが杖を地面に叩きつけた。
瞬時に結界が展開され、伸びた刀を弾き返す。
「だから言っただろ」
イゾウは刀をゆっくり元の長さへ戻していく。
「俺の役目はお前らの足止めだ。大人しくここにいてくれよ」
「ハッ!」
ゴクウの口元が吊り上がる。
「やっぱりやる気あるじゃねぇか!」
雲の上から飛び降りる。
「ゴジョウ! ハッカイ! やるぞ!」
「全く……」
ゴジョウは呆れたように息を吐く。
「結局こうなるんだね」
ハッカイも苦笑した。
「はぁ……」
イゾウは頭を掻く。
「やっぱりお前は黙っていられる男じゃねぇよな」
そう呟くと、再び刀の柄に手を添えた。
次の瞬間。
飛び込んでくるゴクウへ向けて居合斬りを放つ。
対するゴクウも長い棒を回転させる。
回転は加速し、遠心力を乗せた一撃へ変わる。
刀と棒が激突する。
ガァン!!
凄まじい衝撃が周囲へ広がった。
地面が揺れ、砂埃が舞い上がる。
競り合う二人。
だが互いの顔には恐怖ではなく笑みが浮かんでいた。
「相変わらずだな!」
「お前もな!」
二人の力がぶつかり合い、東門一帯に強風が吹き荒れた。




