表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
unlimited  作者: 轟号剛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/21

月曜日

チリチリチリチリ――


部屋の中にアラームの音が鳴り響く。


「ふぅ、よく寝た」


本日も、この部屋でこれまで寝ていた人物とは別の人物が目を覚ましたようだ。


男はベッドから起き上がると真っ先に全身鏡の前へ向かう。


首元まで伸びた金髪を櫛で丁寧に整え、様々な角度から自分の顔を確認する。


「よし」


満足そうに頷いた。


「今日も僕はイケてるな!」


男は自信満々に笑う。


その後、目立つ黄色の服に着替えると颯爽と家を出た。


「今日も街の平和を守るためにパトロールだ!」


元気よく宣言しながら街を歩き始める。


しかし――


「お嬢さん、朝食中ですか? もしよろしければ私もご一緒しても?」


外に出て五分もしないうちに女性へ声をかけ始めた。


「マンさん。また仕事をサボって女性を口説いてるんですか?」


女性は苦笑しながら言う。


「サボっているわけではありませんよ。街の方々との交流も大切な仕事です」


マンは爽やかな笑顔で返した。


「はいはい。だからってナンパしていい理由にはなりません」


「おや、ダメでしたか」


マンは肩をすくめる。


「ではまた今度、お茶でもご一緒しましょう!」


「その前に仕事をしてください」


女性は片手をひらひらと振り、追い払うような仕草をした。


マンは残念そうな顔をしながらもすぐに笑顔を取り戻す。


その後も彼は街を歩きながら、女性を見かけるたびに声をかけては断られるという行動を繰り返していた。


パトロール開始から三十分ほど経過した頃だった。


突然、頭の中に聞き慣れた声が響く。


『マンくん。どうせパトロールもしないで女性を口説いているんでしょ!』


「おっと」


マンは思わず立ち止まる。


『マンくんに仕事があります。超能隊本部まで来てください。寄り道はダメですよ!』


まるで見ていたかのような言葉だった。


「流石はパシーさんですね。全部お見通しですか」


マンは苦笑する。


「私に何の用でしょう。怒られるのも嫌ですし、大人しく本部へ向かうとしましょう」


そう言って歩き出す。


――その三十秒後。


「おや、そこのお嬢さん。こんな朝からお綺麗ですね」


マンは再び女性へ声をかけていた。


当然ながら、全く反省していなかった。


――五分前。


超能隊本部は今日も賑わっていた。


隊員たちは酒を飲んだり、雑談をしたり、それぞれ自由な時間を過ごしている。


そんな中――


コンコン。


突然、扉をノックする音が響いた。


その瞬間、部屋の空気が変わる。


普段この建物を訪れる者は、ほとんどが勝手に入ってくる。わざわざノックをする者など滅多にいない。


隊員たちは自然と視線を入口へ向けた。


「失礼します!」


扉が開く。


「道場破りにもう一度来させていただきました!」


現れたのは茶髪のツンツン頭。


以前ブレイクへ挑戦した男――バルだった。


「おうおう、性懲りもなくまた来やがったか」


カウンター席に座っていたビートが立ち上がる。


「今度こそ俺が相手してやるよ!」


そう言いながらバルへ近づいていく。


今回は流石に飛びかかろうとはしなかった。


「やめぇぇぇい!!!」


二階から轟くような怒声が響いた。


「うおっ!?」


ビートは肩を跳ねさせる。


二階の扉が開き、ブレイクが姿を現した。


「まだ何もしてねぇよ!」


ビートは慌てて反論する。


「そうか、それは悪かったな」


ブレイクは頷く。


「お主のことだから、また喧嘩を売りに行ったのかと思ったぞ」


「信用ねぇな俺!」


部屋のあちこちから笑い声が上がった。


ブレイクはそのままバルへ視線を向ける。


「また来たか、バルよ」


「約束だからな」


バルは腕を組みながら答える。


「一度負けたままじゃ終われねぇ」


その言葉にブレイクは満足そうに頷いた。


「だが今日は少々忙しくての」


「ん?」


「今回は他の者と戦ってくれんか?」


ブレイクは顎髭を撫でながら続ける。


「そやつに勝てたら、次はワシが相手をしてやろう」


「あぁ」


バルは即答した。


「負けた俺に拒否権はねぇからな」


「よし」


するとビートが勢いよく前へ出る。


「じゃあ今度こそ俺で決まりだな!」


しかし――


「ビートよ」


ブレイクが即座に口を開く。


「お主、この後ブルームでの任務があったじゃろう」


「……あ」


ビートの顔から笑顔が消えた。


「げっ」


さらに青ざめる。


「バンさんを待たせるのは流石にマズいな……」


肩を落とす。


「今回もお預けかよ……」


その場に膝をついて崩れ落ちた。


「私、ちょうど今日暇な人を知ってますよ!」


元気よく手を挙げたのはパシーだった。


「今から連絡しますね!」


「うむ、頼んだぞ」


ブレイクは頷く。


「ではワシは書斎へ戻る」


そう言い残し、再び二階へと戻っていった。


「じゃあ俺は修練場で待たせてもらう」


バルも踵を返す。


そのまま奥にある修練場へ向かって歩き始めた。


そしてパシーはというと――


すでに人差し指を額に当て、誰を呼び出そうか楽しそうに考えていた。


――一時間後。


「やぁ、待たせたね!」


マンは扉を開けながら、満面の笑みで超能隊本部へ入ってきた。


「遅い!!」


パシーの怒声が飛ぶ。


「どれだけ連絡を入れれば気が済むのよ!」


眉を吊り上げ、今にも飛びかかりそうな勢いだ。


「いやぁ、お嬢さん達が僕を呼び止めるものだから、つい足が止まってしまってね」


マンは悪びれる様子もなく髪をかき上げる。


「アンタがお嬢さん達を呼び止めてたんでしょ!!」


パシーのツッコミが炸裂する。


「修練場で人を待たせてるんだから、さっさと行きなさい!」


「修練場?」


マンは首を傾げた。


「誰かと戦うのかい? 僕は危険なことは嫌いなんだ。帰らせてもらうよ」


そう言って踵を返そうとする。


「こんだけ人を待たせておいて帰らせるわけないでしょうが!!」


パシーは鬼の形相でマンの肩を掴んだ。


「わ、分かったよ……」


流石のマンも若干引いている。


「それで相手は誰なんだい?」


「この前ブレイクさんと戦った道場破りさんよ。話は聞いたでしょ?」


「あぁ」


マンは思い出したように頷く。


「懲りずにまた来たんだね」


そして肩をすくめる。


「じゃあ、もう一度追い返してあげよう」


そう言い残し、そのまま修練場へ向かった。



修練場の扉を開ける。


すると部屋の中央で、一人の男が正座したまま目を閉じていた。


「やぁ、君が例の道場破りさんだね」


マンは気軽に声をかける。


「今回の相手をさせてもらうマン・ウィークだ。よろしく」


その声で気付いたのか、男――バルは目を開く。


立ち上がろうとした瞬間。


ドサッ。


盛大に前へ倒れた。


「おっと」


マンが目を丸くする。


「大丈夫かい?」


「いっつつ……」


バルは顔をしかめながら起き上がる。


「足が痺れちまった」


どうやら長時間正座していたらしい。


「もう少し早く来ると思ってたんだがな……」


「それは申し訳ないね」


全く申し訳なさそうな顔ではなかった。


「まぁいい」


バルは何とか立ち上がる。


「バル・ジャックだ。よろしく頼む」


二人は軽く握手を交わした。


その時だった。


『マン!』


頭の中にパシーの声が響く。


『修練場をあんまり壊さないでよ! 今ゴジョウさんがいないから結界が張れてないんだからね!』


「はぁ……」


マンはため息を吐く。


「無茶な要求をしてくるね」


そして周囲を見渡した。


広い修練場。


だが観客は誰もいない。


「しかし不思議だね」


マンは首を傾げる。


「ブレイクさんの時は結構人が集まったと聞いていたんだけど」


誰も見に来ていない。


マンは少し考え込む。


そして勝手に結論を出した。


「まぁ仕方ないか」


髪をかき上げながら笑う。


「僕の戦いを見たら、皆僕に惚れちゃうからね」


「……」


バルは何とも言えない表情になる。


『ただ単に皆忙しいだけよ』


パシーの冷静なツッコミが飛んできた。


しかしマンは聞いていない。


「始めていいのか?」


バルが問いかける。


先ほどからマンが一人で空に向かって喋っているようにしか見えないのだ。


「あぁ!」


「いつでもいいよ!」


マンは満面の笑みを浮かべた。


「いくぞ!


反発泡(リバースバブル)


バルの足を覆うように泡が現れる。


次の瞬間、その足を思い切り踏み込んだ。


泡は破裂することなく圧縮され、小さく縮む。


だが直後――。


弾けるように元の大きさへ戻った。


その反動によって、バルの体は砲弾のような速度で前方へ飛び出す。


硬化泡(ハードバブル)


両拳を硬質な泡が包み込む。


加速した勢いそのままに、マンへ拳を振り下ろした。


ドゴォッ!!


拳は修練場の床を砕く。


だがマンの姿はない。


「そんなに遅い攻撃じゃ、僕には当たらないよ」


声が聞こえた。


振り向くと、マンは先ほどまでバルが立っていた場所にいた。


「瞬間移動の能力か?」


バルが眉をひそめる。


「いや」


マンは人差し指の先に小さな光を灯した。


「僕の能力は光さ。さっきは光の速さで動いただけだよ」


「なるほどな……」


バルは拳を覆う泡を消す。


「接近戦じゃ勝てそうにねぇな」


バルは手足を覆っていた泡を消すと、片手を天に掲げた。


巨大泡(ヒュージバブル)


掌の上に泡が現れ、徐々に巨大化していく。


「大きな的だね。狙ってくださいと言っているようなものだよ。


光線弾(レーザーバレット)


マンは人差し指と親指を立て、銃のような形を作る。


次の瞬間、指先から放たれた光線が巨大な泡へと一直線に飛んだ。


だが――。


光が泡に命中しても泡は破裂しない。


代わりに巨大な泡は一気に分裂を始めた。


「前の俺とは違うんだよ!


分裂泡(ディビジョンバブル)


巨大な泡は無数の泡へと分裂する。


さらに、それらが一斉にマンへ襲いかかった。


反射光線(リフレクトレーザー)


マンは両手を前に突き出す。


指先から放たれた光線が次々と泡を撃ち抜いた。


ドンッ!


泡が爆発する。


さらに反射した光線が別の泡へ命中。


再び爆発。


反射。


爆発。


反射。


光線は縦横無尽に飛び回り、数秒後には無数に存在していた泡を全て破裂させてしまった。


「なっ……これでもダメなのか……」


バルは苦しそうな表情を浮かべる。


「なら、とっておきを見せてやる!


巨大泡(ヒュージバブル)


その瞬間。


マンの周囲を囲むように複数の泡が突如現れた。


泡はみるみる巨大化し、マンの逃げ場を塞いでいく。


「これはまずいね」


余裕の笑みを浮かべていたマンの表情が、初めて苦笑へと変わる。


次の瞬間――。


ドォォォン!!


マンを包み込むように巨大化した泡が一斉に爆発した。


轟音が修練場を揺らし、土煙が周囲を覆う。


やがて爆煙が晴れる。


そこにマンの姿はなく、砕けた床だけが残されていた。


「惜しかったね」


声は背後から聞こえた。


振り返ると、指先をバルへ向けたマンが立っている。


しかし服は破れ、全身のあちこちが煤けていた。


爆発の影響を受けているのは明らかだった。


「僕じゃなかったら、あそこで終わっていたかもしれないよ」


「参ったな……。今のでもダメなのかよ……」


バルは両手を上げ、降参の意思を示した。


「良い線はいってたよ」


マンは笑いながら言う。


「最後のは泡を透明にしていたのかい?」


「いや」


バルは首を横に振る。


「泡を目に見えないほど小さくして配置しておいて、一気に巨大化させただけだ。結構自信のある技だったんだがな」


マンは感心したように頷く。


そしてポケットから櫛を取り出し、乱れた金髪を整え始めた。


「正直危なかったよ」


「僕はダメージ覚悟で泡が大きくなる前に光の防護膜を纏って突っ込むしかなかった。もう少し威力があれば、僕を戦闘不能にできていたかもしれない」


その言葉にバルは少し驚いた表情を浮かべる。


「はぁ……また課題ができちまったな」


頭を掻きながら苦笑する。


「戦ってくれてありがとう」


バルは深く頭を下げた。


「こちらこそ」


マンも笑顔で返す。


「戦ってくれた礼と言ってはなんだけど、修行中に子供を襲っていた盗賊を捕まえたんだ。後でここに届けておくよ」


「盗賊ですか?」


バルは目を丸くする。


「以前サタさんも盗賊を捕まえていましたね。そうですか、ありがとうございます」


軽く手を振りながら修練場を後にする。


一人残されたマンは周囲を見渡した。


砕けた床。


抉れた地面。


焦げ跡だらけの修練場。


「はぁ……」


大きくため息を吐く。


「修練場、結構壊しちゃったよ……」


パシーから言われた言葉を思い出す。


――修練場あんまり壊さないでよ!


だが次の瞬間には笑顔に戻っていた。


「まぁ怒った顔も可愛いから良いけどね」


そう呟きながら、マンも修練場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ