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第十六話 ――滅びの理 ――

 滝の音が、重く響いていた。


 氷雨霧丸は、静かに二人を見つめていた。


「来たね、雪ノ丈君」


 そして、視線を夏絵へ移す。


「……彼女が、君の答えか」


 雪ノ丈は一歩前に出る。


「夏絵には手を出すな」


 氷雨は首を振る。


「その必要はない」


 穏やかな声だった。


「私は奪うために呼んだのではない」


 一拍。


「確かめるためだ」


 静寂。


「君の“生き方”が、本物かどうかをね」


 雪ノ丈の手が、刀の柄にかかる。


「……何を知りたい」


 氷雨は、ゆっくりと語り始めた。


「君の一族が、なぜ滅びたか」


 風が止まる。


 滝の音だけが残る。


「私を拾ったのは、君の曾祖父――野橋冬左衛門殿だ」


 淡々とした語り。


「だが、家は腐っていた。守ることに囚われ、人を縛るための剣になっていた」


 雪ノ丈の胸が軋む。


「君の父は、それを壊した」


 一歩、踏み出す。


「私を含む八人と共に、一族を斬った」


 夏絵が息を呑む。


 氷雨は続ける。


「血の海の中で――君の両親は、笑っていた」


 静かな声。


「絶望の中で、なお幸せだった」


 その言葉に、雪ノ丈の心が揺れる。


「私はそれが許せなかった」


 氷雨の目が細くなる。


「なぜ、あの状況で笑えるのか」


 一歩、さらに近づく。


「だから――斬った」


 沈黙。


 滝の音が、遠くなる。


「……お前が」


 雪ノ丈の声が震える。


「そうだ」


 迷いはなかった。


「だが、君と彼女は殺さなかった」


 視線を夏絵へ。


「君の目の奥に、何かを見たからだ」


 雪ノ丈の拳が震える。


 怒りか、悲しみか。


「……何がしたい」


 絞り出す声。


 氷雨は静かに笑った。


「君がどうするかを見たい」


 その一言だった。


「滅びに飲まれるか――それとも、抗うか」


 滝の水が、激しく打ちつける。


「私の見た未来では」


 氷雨は足元を見た。


「この場所で、すべてが決まる」


 雪ノ丈は、刀を握る。


(……斬る)


 だが――


 背後に、夏絵の気配。


 その温もり。


「……俺が斬るのは」


 顔を上げる。


「あんただ」


 氷雨は微笑んだ。


「そうでなくてはね」


 ゆっくりと刀を抜く。


 月光が刃を照らす。


 雪ノ丈もまた、刀を抜いた。


 滝の霧が、二人の間に流れ込む。


 ――ここで斬らなければ、すべては終わる。


 風が止む。


 音が消える。


 次の瞬間。


 二つの刃が、交差した。

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