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第十五話 ――白き灯の揺らぎ ――

 山の空気は、どこか重かった。


 雪ノ丈はゆっくりと家へ戻った。


 戸を開ける。


 灯明の光が揺れる。


「兄さま……お帰りなさい」


 夏絵が振り向いた。


 その声を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がほどけた。


 言葉が出ない。


 ただ、近づく。


 だが――


 一瞬、足が止まった。


(……触れていいのか)


 自分の手は、何人もの血に染まってきた。


 その躊躇を――


 夏絵が越えてきた。


「兄さま」


 静かに抱きつく。


 その温もりに、迷いは消えた。


 雪ノ丈は、ゆっくりと腕を回す。


「……なにがあっても、一緒にいてくれるか」


 低い声。


 夏絵は顔を上げる。


「はい」


 迷いのない瞳。


「どこまでも、一緒です」


 その言葉に、胸の奥が強く鳴った。


 夜。


 囲炉裏の火が揺れる。


 雪ノ丈は、氷雨の言葉を思い出していた。


(……見届ける)


 なぜ、そんな言い方をした。


 そのとき。


 夏絵がぽつりと呟いた。


「……さっき、変な人が来たの」


 雪ノ丈の目が細くなる。


「男の人で……優しそうな顔をしてたけど、少し怖かった」


 氷雨。


 間違いない。


「何を言われた」


「……“滝のところで待っている”って」


 静寂。


 囲炉裏の火が、ぱち、と鳴った。


 雪ノ丈は立ち上がる。


「夏絵。来るか」


 驚いた顔。


 だが、すぐに頷いた。


「……はい」


 夜の山道。


 二人は並んで歩いた。


 滝の音が、次第に大きくなる。


 逃げることもできた。


 だが――


 雪ノ丈は止まらなかった。


(……終わらせる)


 その決意だけが、足を動かしていた。


 やがて、滝の前に出る。


 白い霧が、月光を受けて輝いていた。


 その中に――


 氷雨霧丸が立っていた。

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