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第十四話 ――滝の問い ――

 滝の音が、世界のすべてをかき消していた。


 氷雨霧丸は崖の縁に立ち、流れ落ちる水の向こうを見ている。

 野橋雪ノ丈は、ただ黙ってその背を見つめていた。


「――雪ノ丈君」


 氷雨が振り向く。


 その瞳には、哀しみとも興味ともつかぬ光が宿っていた。


「この時代は、もう終わる」


 静かな声だった。


「剣も、名も、忠も……すべてが、あの水のように流れ落ちていく」


 滝の飛沫が、白く舞う。


「だからこそ、私は君に問いたい」


 一歩、近づく。


「――これから、君はどう生きる?」


 風が吹き、雪ノ丈の頬を打った。


 答えは、すぐには出なかった。


 この問いに答えることが、何かを決定的に変えると、分かっていたからだ。


(……どう生きる)


 仇は討った。


 だが、何も終わってはいない。


 胸の奥に残るのは、空白と――


 ひとつの温もり。


 雪ノ丈は、ゆっくりと息を吐いた。


 そして、顔を上げる。


「俺は――」


 滝の音を裂くように、言葉を放つ。


「夏絵と共に生きる。それだけだ」


 一瞬。


 氷雨の目が、わずかに見開かれた。


 やがて、静かに笑う。


「愛、か……」


 その声には、どこか懐かしさが混じっていた。


「時代を越える答えだね」


 滝の光が、二人の間を裂くように揺らめく。


 氷雨は空を見上げた。


「……そうか。君は、そこへ辿り着いたのか」


 小さく呟く。


 そして、再び雪ノ丈を見る。


「ならば――その答えがどこまで通じるか、見届けさせてもらおう」


 その言葉に、わずかな違和感が残る。


 だが、雪ノ丈はそれ以上問い返さなかった。


 風が強く吹く。


 霧が視界を覆う。


 次に見たときには、氷雨の姿はもうなかった。


 ただ、滝の音だけが残っていた。

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