第十二話 ――再会 ― 氷雨霧丸 ――
丘の上の墓地からの帰り道。
木立の間を抜ける風が、夏の名残をわずかに運んでいた。
野橋雪ノ丈は、手に残る線香の香をかすかに感じながら、ゆるやかな坂を下っていた。
ふと――
前方に人影があった。
白い着物。
浅葱色の羽織。
折れた扇を指先で弄んでいる。
その男は、気づいていたかのように顔を上げた。
「……あれ、雪ノ丈君かい」
柔らかな声だった。
雪ノ丈は足を止める。
「……氷雨さん」
氷雨霧丸。
記憶の中と変わらぬ、穏やかな笑み。
だが――
その眼の奥に、わずかな影が沈んでいた。
「ここにいるということは……草太郎君の墓参りかい?」
「ええ。さっき行った帰りです」
氷雨は小さく頷いた。
「そうか……あの子も、喜んでいるだろうね」
風が吹き、落ち葉が二人の間を転がる。
雪ノ丈は微笑を返そうとしたが、胸の奥に小さな違和感が残った。
(……何かが、違う)
氷雨の声は穏やかだ。
だが、どこか温度がない。
「君もずいぶん立派になったね。……まるで、お父上のようだ」
雪ノ丈は目を伏せる。
父の名を出されるのは久しぶりだった。
だが、その言葉は妙に胸に刺さった。
氷雨は空を見上げた。
「時の流れは早い。……あの頃の私たちは、まだ何かを守れると思っていた」
「……あの頃?」
雪ノ丈が問い返すと、氷雨はわずかに笑った。
「いや、昔話さ」
扇を閉じる。
「君は――まだ知らないままでいいのかもしれない」
その一言に、空気が変わった。
雪ノ丈は言葉を失う。
「また、どこかで会おう」
氷雨は軽く手を振る。
「そのときは、少し長い話をしよう」
背を向け、ゆっくりと坂を下っていく。
その背中は、昔と同じようで――
どこか決定的に違っていた。
木々の間に姿が消えたとき、風が一陣吹いた。
冷たい霧の匂いが、かすかに残る。
雪ノ丈は無意識に空を見上げた。
光が、やけに白く感じられた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。ここから物語が佳境に入っていくので、読んでくれたら嬉しいです。ここからもよろしくお願いします




