表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
208/214

第二百六話


一五三六年九月下旬 山城国・上賀茂某所



「儂は今更、貴殿を若造と侮ったりはせぬ。武家の当主どうしとして、この場所で我が六角を落としてみせよ」



十年前、無礼講であった筈の宴席の外れで見た、ギラギラとした鋭い眼光。

目の前の六角定頼の顔は確かに十年との年月を刻んではいたが、その眼光は十年前と変わっていない。

なるほど、確かに六角定頼は神保長職(ぼく)に戦を挑んできているのだ。



「…六角殿。二条関白様は我に戦をせよ、と仰せですが、そもそも俺は戦など好んでおりません。」

「何だと?」

「…正確に言えば、血で血を洗うような戦を好んでいないと言う事です。」



僕の言葉に、六角定頼は何かを品定めをするように目を細めて来た。



「…よく分からんな。越中の隣国、加賀を武力で平らげた者の発言とは思えぬ。」



やはり他国から見れば、そう見えるか。

…確かに北山協定の連合軍をもって、加賀一向一揆を討伐したのは事実だ。



「仰る通り、我が神保家は同盟軍と共に加賀に侵攻し、加賀の一向一揆を討伐しました。ですが、我が神保家としては、あの戦は自衛戦争だと思っております。」

「…どういうことだ?」

「長年加賀の一向一揆はある時は越中の門徒を扇動し、またある時は直接的に越中に侵攻をしてきました。彼奴らが隣国におれば、それは先の世まで続くことになりましょう。」



事実、史実において越中周辺においても織田信長による北陸平定までは、あの周辺はまだまだ混乱していた筈だ。



「あの戦にて、多くの血が流れたのは事実。なれど、復興を遂げつつある今において、民心は安定し徐々に経済も育ちつつあるの、またもう一つの事実です。」



加賀の復興については散らばっている薬売り(ちょうほういん)や狩野屋のネットワークを使って、いくぶん大げさにして他国に喧伝していた。

。彼奴らが隣国におれば、それは先の世まで続くことになりましょう。」



事実、史実において越中周辺においても織田信長による北陸平定までは、あの周辺はまだまだ混乱していた筈だ。



「あの戦にて、多くの血が流れたのは事実。なれど、復興を遂げつつある今において、民心は安定し徐々に経済も育ちつつあるのも、またもう一つの事実です。」



加賀の復興については散らばっている薬売り(ちょうほういん)や狩野屋のネットワークを使って、いくぶん大げさにして他国に喧伝していた。



「では越前はどうなのだ? 貴殿は朝倉家の内訌に、私欲から介入したのではないか?」

「あれは当時の朝倉家当主、宗淳孝景殿が家臣を抑えられずに敦賀朝倉家に仕掛けた戦にござる。我が盟友が理不尽な理屈にて排除されそうになるのを助けたまで。」



まぁ打算的な事があったのは事実である。

この内戦が始まる前から越前国内がきな臭いのは感じ取っていたが、それも集結し、朝倉宗滴を中心としてうまく纏まっている。



「ふむ、上手く口が回るものよ。では堅田はどうなのだ? 六角は元より、かの地の自治に協力して来た。貴殿ら北山協定の旗を持ち、突然浅井めが介入して上手くそこに収まっているでは無いか。」

「おそれながら、それにより六角殿らに不利益を与えておりますでしょうか?」



堅田は元来から堅田衆等により自治都市としての性格が大きかった。

六角定頼は堅田に対して諸関所の撤廃や湖上特権の保障といった『自治の庇護者』として振る舞うことで、琵琶湖の莫大な物流利権をがっちり手中に収めていたはずだ。



「我が同盟者たる浅井殿は堅田本福寺の明宗殿の要請を受け、かの地域の治安維持に腐心しておりまする。本福寺は、真宗の中央から迫害を受けており、それをお助けしたと言う訳です。堅田の自治に対しては従来通りのものを認め、そして六角殿への税はこれまで通りであり、増収分からの税のみ、浅井殿は警備費用として受け取っております。それに何の不利益が、六角殿にありましょうや?」

「ん、それは…」



無論、この取り組みの後に北山協定の物流を琵琶湖湖上運送へかなりの量を切り替えていて、堅田の収入は爆増したと言っても良いだろう。

正直それでも、北山協定としてはウハウハだ。



「我ら北山協定は六角殿と敵対するつもりはありませぬ。…六角殿らが我等がにそうしたいのであれば話は別になりましょうが。…そう言えば、何やら我等や狩野屋の周辺を嗅ぎまわっている者共がいるようですな?」



さてここからは反撃だ。



「…儂は知らんな。」

「まぁ良いでしょう。我が手の者が、甲賀の忍びを捕らえており、かの者の里へ書状を送っておりますゆえ、六角殿からも甲賀へ確認いただけると良いでしょう。…ところで六角殿は公方様から管領代への就任を打診されたと聞き及びましたが、どうお返事なさるおつもりで?」

「ああ…。あれは中々に面倒な打診をされた故、儂も困っておったものよ。」



六角定頼の目が少し泳いできた気がする。



「まったくもって同情いたしまする。そもそも公方様が坊主共やそれに近しい幕臣に乗せられて、庇護者であったはずの管領・細川道永様を排そうと為されたのが間違いと存ずる。それは六角殿も御感じになれているのでは?」

「ぐ…うむ…」



六角定頼が腕を組んで押し黙った。

何とか反撃しようと、考えを巡らせているのだろう。



「さて六角殿。我等は隠し立てをしておりませぬ故に既にご存知でありましょうが、我が軍は総勢五千を京の郊外にて待機させております。これは二条関白様が仰るように、近衛府の職務としてです。」

「…千二百は、畠山屋敷周辺におることは知っている。だが残りはどこなのだ?」

「それは申せませぬな。」

「まぁそれは良い。この千二百、わざと見せているな?」

「少なくとも帝の即位礼が終わるまでは、公方様には静かにして頂きたいものですからな。」



公方・足利義晴が現状で動員しているのは、兵千二百と聞いている。

眼前の六角定頼が弾正台の職務と言う名目で手勢を郊外に五百を待機させているから、これと公方が合力すれば少し面倒だ。

もっとも京鳴滝城にいる我等北山協定の主力を動員すれば最終的に数で上回るが、序盤戦で畠山屋敷周辺の兵達は苦労する事になるだろう。



「…我が六角の五百、この動きが鍵になるか?」

「貴殿が、六角弾正少弼殿が、帝の忠実なる臣下として、即位礼の間はその職務に当たって頂くことを期待しておりまする。」

「それは、神保近衛少将殿も同じでは無いかな?」

「当然、それの為に兵を進めて来たのですからな。」

「なるほどな。」



そもそも我等北山協定は公方に対して事を起こす気はさらさらを無い。

近衛少将として近衛府の職務、つまり即位礼の間に洛中や内裏の警備を行うための軍であり、もし公方らが言いがかりをつけて行動を起こせば、それは帝に背く、つまり逆賊になることを意味するのだ。

それ故に日和見の畿内の諸将は、更に日和見を決め込むことになるだろう。

公方は六角定頼への管領代就任打診など、色々な工作を諸将に行っているはずだが、軍が多く集まらないのもその為なのだろう。

さて、どう出てくるか?



「はっ…、ハハハハ! これは完敗だ。御覧になりましたか、二条関白様。この者は我が六角の城を完全に陥落させましたぞ。」



六角定頼がやれやれと言うような仕草を見せた後、大きな声で笑い始めた。



「ふむ。身は武家の戦など終ぞ見る事は無いと思っておったが、中々見どころがあるものよな。」

「ははは、それよ。…いや、儂もおごりがあったのかも知れぬ。」



六角定頼が息を整えると、姿勢を正した。



「近衛少将殿。我が六角は弾正台の職務として、洛中の共同警備を提案する。」

「ほう、それは有難き話にございますな。」

「詳細はそうだな、我が六角に居てほしい場所を言ってくれればそれで良い。」

「左様にございますか。」



つまり我が北山協定の指示に従ってくれると言う事だ。



「承知いたしました。…では追って文を認める事に致しましょう。」

「その代わり、近衛少将殿の手の者が捕らえたと言う甲賀の者は、無事に返してくれるのだろうな?」

「それはもちろん。しっかり飯も食わせており、健康に問題は無いと聞いておりますれば。」

「承知致した。」



そこまで言うと、六角定頼が二条尹房のほうへ向き直った。



「関白様、これで某への用事はお済でしょうな?」

「弾正少弼、もう帰ると言うのかね。」

「このような疲れる戦をするのは初めてでしてな。正直、もう帰って休みたいのですよ。」

「ほう、貴殿程の者でもか。」

「某も四十を超え、もう若くないですからな。」



六角定頼が自嘲気味に笑った。



「相分かった。下がってゆるりと休むが良いぞ。」

「ははっ、有難き幸せにございまする。」

「うむ、帝の即位礼の件、よろしく頼むぞ。」

「ははっ。」



六角定頼は平伏し、その後部屋を足早に出て行った。



「さて、近衛少将よ。どうであった?」

「はぁ…。六角殿が仰ったように、こんな戦はもうこりごりですよ。:

「だが誰も死ななかったであろう?」

「左様ですな。それついては関白様に感謝いたしまする。」

「そうじゃろうそうじゃろう。」



二条尹房が満足そうに頷きながら目を細めた。

ううむ、これは、もう少し包んでおいた方が良さそうだ。










これにてここでの六角との戦は完了しました。これで公方・足利義晴が千二百も内裏近くに持っていようと、即位礼の間、金縛りの様に動くことが出来なくなることでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ