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第百七十三話


一五三五年十二月 富山湾沖合



「ふむ、流石にこの暴風でもびくともせんな。」



冬の荒波を進む大型船。

その艦橋にて、北山水軍総裁である畠山義総が感嘆の声を上げた。

この船は所謂安宅船に類するものなると思うが、全長四十メートル・全幅十メートル級であり、この時代のものとしてはかなり大型なものを言えるだろう。

船体を白漆で塗られ、真っ白な帆が張られたこの大型船は『七尾』と名付けられた。

水軍総裁の畠山義総が本拠地から名付けられたものだ。

七尾湾に造成された港・造船所を母港とした『七尾』は艦隊旗艦であり、七尾級のネームシップであった。



「ええ。むしろこの程度の波で航行できないようであれば、艦隊旗艦は任せれぬでしょうな。」



傍らでそう答えたのは重見弥次郎通種だ。

重見弥次郎は北山水軍総管を任されている。

ここで創設された『北山水軍』について解説せねばなるまい。

『北山水軍』は当初『能登水軍』と名付ける予定であったがその編成計画を進めていく中で、同盟加盟各国での活動も想定されることから、本山協定全体の水軍と言う事でそう名付けられた。

そのトップとして能登畠山家当主である畠山義総が北山水軍総裁に任命された。

これは所属する水軍兵の多くを畠山家から転用するためだ。

畠山兵を転用する理由は、能登の地政学的位置である。

能登は海以外は周囲を同盟国である越中と加賀に囲まれているため、陸から侵攻されるリスクが少ない。

その為大胆な編成変更が可能だったのだ。

そして実質的に水軍を育成・指揮を担うのが北山水軍総管である重見弥次郎だ。

重見弥次郎は伊予・村上水軍の出身であり、そのノウハウを叩きこむために神保家に招聘されたのだった。



「それはそうだな。ところで弥次郎よ。質問しても良いかね?」

「は。もちろんです。」

「船首に何か設備があるようだがあれは何だ?」

「ああ、あれですか。あれは現在越中にて開発中の兵器が据え付けられる予定だと聞いておりまする。」

「ほう…。義弟(おとうと)から聞いている『龍筒』と言うやつか。」

「は。計画ではこの船に載せるもので、『轟龍(ごうりゅう)』と言う名になるとか。」

「『轟龍(ごうりゅう)』か。それは大層な名前だな。」



轟龍(ごうりゅう)』は現在開発中の龍筒(ロケット砲)の艦載型だ。

予定されている轟龍のスペックは砲身長二.二~二.四メートルと大型のもので、おそらくは一~二キロメートルほどの射程を持つことになるだろう。

その射程距離はこの時代としてはオーバースペックなものであろうが、敵の攻撃可能距離の外から大火力の一撃をお見舞いできることだろう。

実際の運用としては上陸支援として遠距離から敵の沿岸陣地を砲撃して面制圧を行い、随伴の関船や小早船で援護を行いながら揚陸作戦を行う事になるだろう。

正直砲撃戦は想定されていない。



「弥次郎は村上水軍の出と聞いたが、そのようなものは聞いたことあるか?」

「いや某も初耳でござるが、御屋形様から想定される運用は聞いておりますれば。」

「ふむ。しかしこの船は白い船体だがこのような目立つ色したのは何故か?」

「はい。この船は政治的な目的もございます。北山水軍艦隊の旗艦でありますれば。」

「象徴的なところもあるというわけか。まあ確かのこの様な巨大な船が現れれば、敵からしたらぎょっとするかもしれぬな。」



それに加えて前述の強力な砲が完成すれば、存在そのものが強大な抑止力となることだろう。

まぁそれでも戦国時代においては、と言うか実戦では何が起きるか分からないので、綿密な演習が必要となる訳だ。



「総裁閣下、他にもご説明が必要でしょうか?」

「ああ、そうだな。」



北山水軍総裁は実質的には名誉職ではあるが最高指揮官であり、その立場から畠山義総は矢継ぎ早に質問を投げかけた。

やはり優秀な人物だ。

それに対する答えも踏まえてもう少し北山水軍の編成について解説するとしよう。


まず今回は演習であり、この演習には他に三隻の船が随伴していた。

サイズとしては関船クラスであり概ね二十四メートル程度の全長である。

そしてそれぞれの役割のために形状・構造の違いが見られた。

まずは快速・哨戒型の『淡雪(あわゆき)』だ。

この船は船体を最も細長く設計し、帆の面積を大きく取った快速船である。

敵を発見次第にいち早く対応できるのが特徴だ。

次は直衛型の『袖雪(そでゆき)』だ。

この船は船体側面の装甲を強化したもので、敵の小船の接近を防ぐ盾の役割を果たす。

前述の『淡雪(あわゆき)』よりは全幅が広く、安定した構造となっている。

最後は支援・兵站型の『細雪(ささめゆき)』だ。

この船は艦隊の支援船であり、搭載兵器は最小限であるが予備の弾薬・糧食を積載し内部には小規模な武具の修理・製造設備も有していた。甲板にハンドル式クレーンを装備し他の船へ物資を補給する「洋上補給」の要となるのが目的で、実際の艦隊編成時は後方に位置する事になるだろう。

さてこのハンドル式クレーンは『七尾』にも装備されている。

これは『七尾』荷役を助けるものであるが、将来搭載される轟龍(ごうりゅう)の給弾機構の一部としての役割も期待されているものだ。

あ、ちなみに関船三隻のネーミングは畠山義総の完全な趣味である。

なお、この関船三隻であるがそのうち戦闘を行う『淡雪(あわゆき)』と『袖雪(そでゆき)』には船首に一門の艦載型龍筒が装備される予定だ。

とはいえ船のサイズや安定性の兼ね合いから、『七尾』のそれよりは幾分小さいものになる予定だ。

細雪(ささめゆき)』は戦闘艦では無いので(もちろん戦闘員は乗り込むものの)、火器は携帯型の者のみとなるだろう。


またこの艦隊に配備されているもので特徴的なものがある。

それは通信装置だ。

もちろんこの時代に無線などある筈も無いので、光を使った通信装置である。

具体的には純度を高めたオイルを使用したランプでありその光を真鍮製の凹面鏡で指向性を持たせ、その光をシャッターで遮る事で光の明滅による信号を発信する。

その信号を解読表を見て通信とするわけだ。

あとは手旗信号も予備手段として用意する予定だ。

このあたりは現代知識を活かしたものだな。



「まあここまで色々説明してきましたが、とりあえず一番実現しないといけないものがありますな。」

「それは何だ?」

「…それは兵が船酔いをしない事です。」



眼前では幾分かの兵達がまさに船酔いでダウンしているようだ。

彼等は陸戦の兵から転属して来た者だろう。

まぁ何とか慣れてもらうしか無いな。






七尾級『七尾』が進水し、ついに演習の段階となりました!

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