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第百七十二話


一五三五年十一月 越中城ヶ崎城



「御屋形様、お呼びでございますか?」



僕の眼前には三好康長が控えていた。



「ああ、孫七郎。良く来たな。まぁ、楽にしてくれ。」

「恐れ入ります。」



三好康長は足を崩した。

三好康長は一年ほど前に長岡六郎(細川永元)の紹介で神保家家臣として召し抱えた武将だ。

某歴史ゲームでの印象では武勇と言うよりは政治や知略に秀でた人物でったような気がする。



「…して某をお呼び立てされたのは?」

「うむ。孫七郎には京に赴き、朝廷工作を頼みたいと思っていてな。」

「朝廷工作…にございますか。」



この時代の朝廷は財政難に苦しんでいたものの、権威だけは依然として『名跡』や『官位』の授与権として強力に機能していた時代だ。

北山協定としても管領である細川高国を通してそれなりな権威は手にしていたものの、神保家として朝廷と接点はあまり無かったわけだ。



「そうだ。我ら北山協定…と言うか取っ掛かりは神保家として、となるがね。」



僕は今までの朝廷との状況を説明した。

正直我等神保家は帝や朝廷からしたら田舎侍に過ぎなかったからな。



「なるほど。これからは朝廷との密接な関係を構築していきたいのですな。」

「そう言う事だ。今の朝廷は大変お困りな財政状況と伺っておる。」



畿内の状況は史実とはだいぶ異なってはいるが、朝廷の状況が厳しい状況なのは変わりないようだ。

この時代の今上天皇は後奈良天皇であったはずだが一五二六年に即位したものの、即位礼を行えない状況であった。

史実においても即位礼が出来たのが一五三六年であり、”この歴史”においても同じ状況だろう。



「仰る通りで。つまり神保家として天皇陛下の即位礼やその他に対する支援を申し上げると言うことでよろしいですな?」

「そうだ。必要な準備は出来ている。これは目録だ。」



僕は三好康長に、献上品の目録を手渡した。



「なるほど。我等の不浄の銭であっても朝廷からしたら背に腹は代えられないものにございますからな。その他には酒や工芸品…」



三好康長は読み進める目を止めた。



「御屋形様。目録には北山式火槍とありますが、これはこの前見せて頂いた新たな兵器にございますな?」

「そうだ。性能も見てもらっただろう。」

「はい。しかしあれは戦場を左右する可能性があるものになりましょうが、そのような貴重なものを外に出して良ろしいので?」

「分からぬか? それこそが俺の狙いよ。」

「は、はあ…。」



三好康長はいまいちピンと来ていないようだ。

まあ確かに新しいものを独占できる様であればそれが一番だからな。



「もちろん献上する北山式火槍は意図的に性能を落としていて、見た目だけ装飾してあるがな。それに分解も出来ない代物だ。」



性能を落としても弓矢に比べれば強力な武器に違いないが、これは敢えて複雑な構造にすることで簡単にコピーできないように製造したものだ。

重要な機構部分も分解できない様に接合してしまっている。

分解も出来ないので当然メンテナンスも不可能だ。



「…なるほど。見せる為、のものですか。我等北山協定はこれ程の工業力があると見せつけるわけですな。その他酒や工芸品も我々の豊さを喧伝出来る事でしょう。」



そう、北山協定、とりわけ神保家の経済力を朝廷へアピールするのだ。



「…それで神保家としては朝廷へ何をお求めになりますか?」

「それはな。まずは孫七郎。お前が官位を頂くべきだな。」

「そ、某が、でございますか?」



三好康長が目を丸くした。



「お前は我が神保家の朝廷への全権特使となってもらいたいのでな。そうだな、弾正忠(だんじょうのちゅう)あたりを頂くのが良いだろう。」



まぁこれは今回の献金で可能だと思う。

弾正忠(だんじょうのちゅう)は正六位くらいのものだから、それなりな金を包めばいける筈だ。

三好康長にはそれなりの官位を持ってもらい、スムーズな朝廷工作を出来るようにしたいからな。



「…しかし本当の狙いは某の官位では無いですよね?」

「それは、な。次にやりたいのは隣国の三木よ。」

「飛騨の三木様にございますか。」

「うむ。三木殿が飛騨一国を治めるにあたってその権威性を高めたいと思っている。そこで目を付けたのは飛騨国司家・姉小路家の名跡よ。」



これは三木氏も史実でも(もっとも時代はだいぶ違うのだが)行ったものだ。

史実では姉小路良頼(=三木嗣頼)が自ら朝廷工作を行った結果であった。

今回はこれを同盟国として神保家主導で行いたいと思っている。



「…神保家がそれを行って成功すれば、三木様は御屋形様に頭が上がりませぬな。」



それこそが狙いである。

三木家に対して大きな恩を売れば、我等に反目する事もあるまい。

同盟関係を強固にし、結果として三木家は正式な北山協定の一員になれるだろう。

内ケ島はまぁ、気の毒だがな。

税を滞納したのだから、それは諦めてくれ。



「…委細承知致しました。準備出来次第、出立いたしましょう。」

「うむ。まずは広橋卿に会うと良いだろう。畠山義総(あにうえ)を通して面会願いの書状を送付済みだ。」



広橋卿、と言うのは広橋兼秀という人物だ。

武家伝奏と言う役職であり、その役目は武家の奏請を朝廷に取り次ぐと言うものだ。

畠山義総(あにうえ)は公家に対して顔が広いのはとても助かる。



「某、広橋卿には面識がございますれば、話は早うございます。儀礼的な場にてお会いしたことがありますからな。」



このあたり、流石は三好家出身と言うべきかな。



「おお、そうか。…他に何か必要なモノがあれば用立てる故、遠慮なく言うが良い。」

「承知いたしました。」

「警護の兵も準備しよう。よろしく頼むぞ。」

「御意!」



三好康長が深々と頭を下げた。

この数日後三好康長が京へ向かって出発していった。

この訪問で三好康長は大きな成果を出すのであったが、それはまた後で語る事としよう。









朝廷工作開始です!

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