第百七十一話
一五三五年十月 能登七尾・北山協定造船所
この日、僕は能登国七尾にある北山協定陣営の造船所を訪れていた。
ここは七尾近郊の和倉に作られた陣営最大の造船所であった。
もっとも七尾城から湾の対岸にある能登島には、これに近い造船所がもう一つ存在していた。
史実における”二穴城”の西の湾に奥に築かれたそれは、対岸の七尾からは絶妙に隠蔽された場所だ。
管理上必要と言う事で畠山義総から管理権を譲り受け、事実上重見弥次郎の所領となっている状態だ。
そこでは七尾・和倉で建造されていた大型艦と同型艦の建造が進んでいた。
別に畠山家へ秘匿している訳では無いが、まぁこれは我等の影響を強く受ける艦隊を結成したいと言う意図であった。
七尾で建造されている艦はほぼ完成しており、艦名は『七尾』とされる予定だ。
これをネームシップとするならば、その能登島でのそれは七尾級二番艦と言う事になるだろう。
二番艦の名前は『氷見』になる見込みだ。
話を戻すが、今日は北山協定陣営の水軍である『能登水軍』の旗艦となる艦の進水式が行われるのだ。
七尾・和倉の造船所は『能登水軍総裁』である畠山義総やその側近、関係者で賑わっていた。
越中神保家側は僕の他には嫡男の小三郎長教、侍大将の遊佐総光、御用商人である狩野屋市兵衛が出席していた。
「あれは…デカいですな。」
遊佐総光は大型艦を目の当たりにして感嘆の声を上げた。
「そうだな。あの船は畠山家で運用することになるから、名前は『七尾』と命名される予定だ。」
七尾級一番艦『七尾』の船体は白く塗装されていた。
軍用艦であるから本来目立たせるは必要のであるが、この艦は政治的な象徴も含めての船体色となっていた。
まぁいずれにしても40m級の大きさの船体はこの時代においては圧倒的な大きさであり、まさに異様な風貌を言えた。
これを目にした敵はどう思うだろうか?
「成程ですな。…しかし実質的には船手組頭殿の影響を大きく受けるのでしょう?」
「まあ、それはな。」
前にも述べたが畠山家にはここまでの大型船を運用するノウハウが無い。
当面は『北山水軍総管』として召し抱えた重見弥次郎通種の統制を受けることになるだろう。
「…しかしあのような巨船は運用できるのですか? 普通の港には入れるように見えぬのですが。」
「我等本山協定の港、氷見と七尾の港は通常より水深を掘り下げる工事を実施済みだ。朝倉家の敦賀港も来年には工事を行う事になるだろう。…越後はまぁまだ先だな。」
越後はまだ国内が纏まっていないのもあり、氷見や七尾基準の港湾整備はまだ出来ないかな。
「しかし他国の港には入れませんな。」
「その場合はあれは沖合に停泊し、小型の関船や輸送船で兵や物資を揚陸する運用になるだろうな。詳しく言えば…」
実際の運用としては七尾級を中心とし数隻の関船・小早船・輸送船で艦隊を構成する予定だ。
この艦隊で敵地を攻めるときには偵察の小早船で索敵、あるいは敵地に潜入した偵察員の情報を元にして敵の弓矢の射程距離を超えた位置からの射撃を行う。
(まずは北山式火槍での射撃、龍筒完成後は更に遠距離からの砲撃で面制圧を実施。)
そして敵が弱体化した後に揚陸作戦を実施する感じだ。
「なるほど、いまいち想像できませぬが、御屋形の仰る事ですからさぞかし恐ろしい事なのでしょうな。」
まあピンと来ないというのは仕方ないか。
そうこうしている内に式典が進み、参加者が七尾級一番艦『七尾』に乗り込む時間になった。
そこでは北山水軍総管である重見弥次郎が艦の説明を行っていた。
まぁこの辺は専門家に任せるのが一番だろう。
「そう言えば飛騨での事業も施設の建設が進んでいるようですな。」
そうそう飛騨の事業(鉄・鉛の採掘)については現在施設を建設中だ。
その前段階として神保家御得意のユニット工法を用いて、飛騨国牧戸に『飛騨政務処』を建設した。
ここは三木領と内ケ島領の中間であり、両方ににらみが利く場所だ。
まぁ専ら内ケ島の監視の色が強いが、ここには二千の兵が駐屯し、飛騨政務処総監として小嶋六左が在所している。
まったく小嶋六左邦鎮は実に優秀な人間だ。
「うむ。飛騨政務処の建設がほぼ終了していたので早速各鉱山の整備、そして製錬加工工場を建設中だ。」
工場建設のキモはもちろんメインとなる製錬・製造工程もそうなのであるが、それにも増して重要視しているのは環境対策だ。
製錬課程で出る廃棄物・廃液の処理や再利用工程を含めたパッケージとして建設を進めているのだ。
何とか来年には本格稼働としていきたいものだ。
まあ後は木材の伐採ではげ山にならないように植林も必要かな。
「順調に稼働していけば北山協定全体の発展になりましょうな。」
この時代の経済と言うものはどうしても軍事に結び付きやすいものだ。
まさに富国強兵政策と言うべきかな。
北山協定の水軍旗艦、ついに進水です!




