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第百七十四話


一五三六年一月 能登七尾湾内・机島周辺



この時期、冬の日本海は荒波に揉まれている筈であるが、ここ七尾湾の奥にある机島周辺の海域は静かなものだった。

また冬の時期には珍しく僅かに日が差す陽気であり、これから行う”イベント”には絶好の天候と言えた。



義弟(おとうと)よ。此度は宗滴殿までお呼びしての話のようだが、何を行う予定なのだ?」



ちょうど和倉港と七尾湾机島との中間の距離に停泊しているのは七尾級ネームシップである『七尾』だ。

この時代としては圧巻の大きさである『七尾』は白く塗装された船体の色も相まって実に異様なものに見える事だろう。

その甲板上には北山水軍総裁の畠山義総、同盟国・敦賀朝倉家当主朝倉宗滴、そして僕・神保長職がいた。



「はい。以前お二人にもお知らせしていた新兵器の試作品が完成いたしました故、その試験も兼ねてお二人をお呼びしました。」

「ふむ。それは設計図にあった『龍筒(りゅうとう)』というやつかの?」



朝倉宗滴が口を挟んで来た。



「その通りです。…おい!」



僕が合図すると、配下の者が代車に載せられた”新兵器”を運んできた。



「ほぉ…、これが…」



畠山義総と朝倉宗滴が興味津々と言った感じで覗き込んでいた。



「はい。これが『龍筒(りゅうとう)』です。筒の中にそこにある弾薬を入れ発射するものでして…」



僕は説明を開始した。

龍筒(りゅうとう)』についてざっくり説明しよう。

外観は黒光りした木製の筒だ。

全長は四尺(約百二十センチ)程度で北山式火槍(鳥銃)のような細いものでは無く、重厚感のあるものだ。

砲身内部は飛騨の鋼を幾重にも叩き鍛えた積層鍛造であり、その周囲を、補強のための太い鉄帯アイアンバンドが幾重にも締め上げていた。

そして表面補強も含めて黒漆でガッチリと塗装をされた砲身は怪しく黒光りしていた。



「後方に穴が開いているのは射撃の衝撃を逃がすためです。そして飛ばす弾薬は二種類あります。」



そう、弾薬(ロケット砲弾)は二種類用意していた。

一つ目は質量(運動エネルギー)弾だ。

弾頭に大きな鉛玉を使用し、推進用の火薬を点火する事で射出しかなりの速度でぶつける事で、敵の装備や設備を破壊するものである。

弾頭の重量は四百匁(約1.5キログラム)程にも達し、その威力は相当なものだろう。

二つ目は榴弾だ。

これは弾頭に三百二十匁(約1.2キログラム)程度の火薬を使用し発射時の火炎を利用して弾丸後部「遅延火薬(導火線)」に点火、飛翔中に一定時間燃え続け、標的に到達した頃に内部の爆薬を炸裂させるものだ。衝撃信管が開発できれば良いのだがさすがにこの時代の技術では再現が難しい為、このような時限信管を採用したのだ。

この二つの弾薬に共通するものとして龍筒から放たれるのは現代の砲弾に近い「先端が尖った円筒形」であると言う事だ。

この形状は射程と直進安定性に寄与するものだ。

また弾薬後方には薄い鉄板で作った安定翼を取り付けた。

これは矢のように真っ直ぐ、回転せずに目標へ飛翔させることを目的としていた。



「まぁここまで色々と述べてきましたが、まずは見ていただくのが一番早いですからな。早速射撃をお見せしましょう。」



僕は横に控えていた北山水軍総管・重見弥次郎に目配せした。

重見弥次郎は『龍筒(りゅうとう)』に弾薬を筒の先端から滑り込ませた。



「発射機構は北山式火槍のものを流用しております。」



筒の側面、射手の目の高さにある小さな点火機構。弥次郎が火皿の蓋(火蓋)を開け、姜右元が調合した極小粒の点火用火薬をパラパラと振りかける。北山式火槍の機構を流用したこのシステムは、発射時の火炎が筒内部の「推進薬」へ一気に伝わるよう、導火孔が精密に設計されている



「これで準備が整いました。では射撃いたします。」



弥次郎が龍筒を肩に担ぎ、後方の排気口を周囲に人がいない方向へ向けた。重厚な木のグリップを握り、引き金に指をかけた。



「放て!!!」



引き金が引かれ、火縄が火皿を叩く。火蓋が開き、点火薬が爆ぜたその瞬間。



ドォォォォン!!!



筒の後方の穴から、凄まじい勢いで「後方噴流バックブラスト」が噴き出した。

しかし『龍筒(りゅうとう)』を担いだ弥次郎の体はぐらつくこと無く安定していた。



「な、何と!? あれほどの爆音がしたと言うに、何故弥次郎は平然としておるのだ?」



畠山義総が驚きの声を上げた。



「筒の後ろから衝撃を逃がしたから、ですな。それよりも義兄上(あにうえ)、弾着をご覧ください。」



僕は机島の岩礁の方向を指さした。

そこには予め射撃目標として要塞を模した木製構造物を設置していた。

(要するに越中城ヶ崎城を築城した時に製造したユニット構造物を置いていたわけだ。)



バァァァン!! バキバキ!!!



質量弾が着弾した瞬間、その構造物が砕け散った音が響いた。



「な、何と…!? あれでは兵が持つような盾なぞ役に立たぬではないか。」

「それどころか城の門も破壊できるのは無いか?」



その光景を見ていた兵達も驚きの声を上げた。



「カカカ! 面白い、実に面白いぞ越中守殿よ!!」



朝倉宗滴が膝を叩いた。



「北山式火槍にも驚かされたが、こいつはその比では無いな! 用兵としては難しいかもしれぬが、これならば、非力な兵であっても、城門を一人でブチ破れるではないか!」

「仰る通りです。…次の弾薬の射撃をお見せしましょう。」



僕の合図を受け、弥次郎は先程と同じ所作で弾薬を込め発射準備をし、『龍筒(りゅうとう)』を肩に担いだ。

流石に机島に榴弾を放つと島を火事にしてしまうので、湾上に浮かべた小型の廃船を標的にした。



「放て!!!」



ドォォォン!!!



先程と同じような爆音が鳴り響いた。

そして目標の廃船に着弾すると少しして大きく爆発した。

船は火が着くとともに、大きく破壊されてしまったようだ。



「む、むぅ。何と言う威力か。あれは焙烙玉を遠距離に射出できるようなものか。」

「はい。まだ改良の余地はありますが…」



弾薬の中に金属球を詰めればさらに破壊力・殺傷力を上げることは出来るだろうが、現在の技術ではあれが限界であろう。

もっともそれでも恐ろしいものであるわけだが。



「あれを持ち運びできるモノで出来るわけか。」

「…いずれはより大きい『龍筒(りゅうとう)』を開発する予定です。」

「ああ、この船の船首にある設備はその為だと弥次郎が言っておったな。」

「その通りです。」

「むぅ…。義弟(おとうと)よ。恐るべき兵器を作り出すものだな。」



畠山義総が腕を組みながら唸り声を上げた。

軍神たる朝倉宗滴は目を輝かせているし、二人にはかなりインパクトを与えられたようだな。







新兵器『龍筒(りゅうとう)』が完成しました。このあと氷見にて製造が進み、少しずつ配備が進んでいく事でしょう。

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