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第百六十九話


一五三五年八月 越中氷見狩野屋別邸



狩野屋別邸に朝倉宗滴らを招いて行ったその夜、僕はそのまま狩野屋別邸にて宴席を催した。

宴席は思いのほか盛り上がり浅井亮政は酔いつぶれてしまったようで、その配下に寝所として用意した離れへ連れていかれてしまった様だ。

僕はと言うとそもそもそれ程酒に強く無いのもあるのだが宴席を離れ、夜風で涼んでいた。



「ここにいたか、越中守殿よ。」

「あ、これは宗滴殿はもう飲まれないのですか?」

「ふ、それはこちらの台詞よ。せっかく儂が敦賀の酒を持ってきたと言うのに、気付いたら主が居らぬ故な。」



朝倉宗滴は手に持った徳利を掲げた。



「ああ、ありがとうございます。…しかしいつも宗滴殿が持って来てくださる酒は強いんですよね…」

「まぁまぁそんなこと言わずに飲まんか。」

「はぁ、頂きます。」



僕はお猪口に注がれた酒に口を付けた。



「く~~、キツイ。」

「フハハ、飲めるじゃないか。」



朝倉宗滴が僕のとなりにドカっと座った。



「…宗滴殿。本日の新兵器の説明はいかがでしたか?」

「ああ、あれな。龍筒と言うのはまだ実物が無いと言う事だから何とも言えないが…」



朝倉宗滴はお猪口の酒を飲み干してからふーっと息を吐いた。



「北山式火槍と言ったか。あれは儂も何発か撃たせて貰ったが、あれは使いようによっては戦局を変えるものになるだろう。」

「何か良い案でも思いつきましたか?」

「威力は申し分ない。アレの弱点は火薬を用いているから雨天に弱いところだろうが、それよりも連発が難しいところだ。」



さすがは朝倉宗滴だ。

特性を正確に分析しているな。



「…まぁそれは数を揃えることが出来れば複数人で順次射撃すれば克服できる。」



おお、そこまで考え付くのか。



「仰る通りです。上手くいけば敵の射程外から一方的に打ち倒すことが出来るかもしれません。」

「騎馬隊の機動力でも厳しいかもしれぬな。…それであれの製造はどれくらいで軌道に乗るのだ?」

「それについては昼間も申しましたように、飛騨の事業が重要になります。三木殿の説得は四郎二郎にやってもらいますが、既に必要な施設建設については我が配下の小嶋六左に準備させており、人手も準備しております。」

「周到だな。その準備については教えてくれるのか?」

「まずは三木と内ケ島の領境界付近に我が神保家の目付陣屋を建設します。それを『飛騨政務処』と名付け、そこから三木・内ケ島それぞれに目配りを行うのですが…」



僕は朝倉宗滴に説明を始めた。

以前も述べたかもしれないが、三木と内ケ島は仲が良くない。

また内ケ島は我が神保家の傀儡に近い存在ではあるは正直信頼しているわけでも無い。

そこで小嶋に差配をさせるわけだが、滞納していた税の代わりに鉄や鉛の採掘事業をさせ納めさせるか、安く買いたたくつもりだ。

そして採掘させた鉄や鉛は三木領内に運び、そこで製錬・加工を行う訳だ。

もし内ケ島がそれに不満を持って何かを画策してもそれはそれで仕方ない。

その時は実力を見せるだけだ。

『飛騨政務処』付近に、内ケ島の安全保障として編成していた兵二千を駐屯させればいいだろう。

場所は飛騨の牧戸付近を予定している。

ここはまさに三木と内ケ島の所領境界付近であり、それぞれの軋轢もブロック出来るだろう。



「飛騨での事業が上手くいけば氷見での量産開始をし、続いて近江でも製造工場を建設します。それまでに近江の鍛冶師の教育が必要ですな。」

「それは楽しみだな。北山式火槍の量産まではどれくらいの期間を想定しているのだ?」

「上手くいけば来年早々には氷見ではそれが出来るでしょう。」

「ふむ、それであれば出来るだけ早い時期に儂のほうで複数回してもらいたい。言い値で構わぬ。」

「…同盟国に対して高い価格では売りませんよ。まぁ原価計算はこれからなのでそれは少しお待ちください。」

「期待しておるぞ。」



朝倉宗滴は再び徳利から酒を注いだ。



「…しかしの、越中守殿よ。」

「はい、何でしょう?」

「此度の新兵器やその為の事業、技術だけでは無く制度設計など、お主の考えることは目を見張るものがある。軍事に関する事は儂の方に得手がある思っているが、お主の考えは到底儂には考えつかぬものよ。」



朝倉宗滴はお猪口を僕の方に向けて来た。



「思い起こせばこれまでの事も、な。お主、何者なのじゃ?」



僕は息を飲んだ。

ぐっと結んだ拳の中にはじわりと汗をかいたのを感じた。



「俺は神保長職です。」

「そんなことは分かっておる。」

「…では俺は何と答えるべきでありましょうや?」

「それを儂に聞くのか?」



朝倉宗滴の眼光は鋭かった。

ここ氷見は神保家の勢力下だから本来ビビるようなものでは無い筈だが、歴戦の勇士である朝倉宗滴の眼光は突き付けられた切先にも感じられた。

僕はふーっと大きく息を吐いた。



「分かりました。実は…、俺は今よりかなり遠い未来より来たのですよ。」

「未来…だと?」

「はい。俺は今よりおそらく五百年近く先の世から来たのです。」



僕は自身の事を語り始めた。












ついに朝倉宗滴へ、自分が未来から来たことをばらします。

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