館の秘密、結界
「で?どうやってこの包囲網突破するの?」
フレンは嫌いなものを前に出されたような顔をしている。
流石にこの状況は厳しいと思っているのか。
「そんな不安な顔する必要ないわ、未来ならこの意味わかるでしょ?」
私は未来にウインクをする。
ほぼ両目を瞑ってるような下手くそなウインクだが。
「ああ、わかってるよ。」
フレンは「どういうことよ!」と怒鳴り散らしてくる、どういうことか全く分かっていないようだ。
「まぁ簡単に言うと悩んでも仕方ないから館までダッシュで飛び込むよって話よ。」
「危ないって!絶対待ち伏せとかされてるでしょ!」
勿論そんなこと分かりきっている、館の周りは特に固められているだろう。
「じゃあここで敵が囲むのを待つ?」
フレンは確かにと小さくつぶやいた。
正直なことを言うとその辺から人の気配がごろごろする。
多分未来も同じ気配を感じ取っているはず。
なのにいまだに襲ってこないのはこちらの出方を疑っているのか、待機するよう命令を受けているのか。
現に枝をパキッと割るようなかすかな音が聞こえてくる。
絶望的な状況とは反対に天候は快晴で森の擦れあう木の葉の隙間から漏れ出す陽光がスポットライトのように私たちをはっきりと映し出してくれている。
陽に当たり過ぎて肌が焼けるほどに熱い。
それともこの暑さは背水の陣ともいえる状況の真の心境から出されるものなのか。
「私はまだここの地形を完全には覚えていないからシラリアに全部頼ることになりそうだ。」
未来はそれでもかまわないかと聞いてくる。
私は「いいに決まってるでしょう、任せなさい」と高らかに宣言した。
実際ここの地形は全て頭に入っているし、任されるというこの状況を楽しんでいる気持ちが少しはあった。
「私が1・2って言ったら3のタイミングで走り出して。」
一応敵に気付かれないタイミングでスタートして一秒でも反応を遅らせたいという狙いがあった。
昔なんかの本で読んだが人間の反応する速度はどれだけ鍛えても1秒ほどらしいから。
2人は頭を縦に振って了解の合図をした。
チャンスは一度きり、ここで下手をすれば全員摑まり館も奪われて命の保障も出来なくなる。
何より私の大事な親友のペラが何も知らずに人質に取られている。
これは完全に私のミスだ。
せめて無事に済ますのが最良及び決定事項だ。
「1・2」
3のタイミングで私たちは私を先頭に走り出した。
敵から見れば急な動きの表れに一時の混乱を与えるだろう。
実際焦って前に飛び出すだけの奴らもいたがそれくらいは片手で対処した。
大きな帝国の兵というだけあって数は相当いるらしい。
だがほとんどが武装もままならない足軽以下だった。
服も薄い半袖の白い服一枚で武器も持たない自殺願望者のような風貌をしている。
それが時間が経つほど湧き出てきて1人から2人、10人、20人と増えていた。
「あー!」
数が多くてイライラする。
怒りに身を任せながら心は冷静に進んでいく。
後ろから聞こえる足音もどんどん増えていて緊迫感が高まる。
後ろを向く暇もないのでひたすらに走り続ける。
私自身の息遣いが大きく聞こえて走る感覚がだんだんなくなっていく感覚がした。
2人はちゃんとついて来ているだろうか、確認したいがしたところでどうすることもできない。
この森は滅多に人が立ち入らない為、木々が生い茂っていて前方が見えないのがこの森の特徴だがこんなに煩わしいと思ったことは無い。
髪に木の枝や葉っぱが付いているのが分かる。
なんなら顔にも葉が付いて視界を僅かに狭めている。
「まだ…着かないの…」
後ろからフレンの声が聞こえる。
フレンが付いてきているのなら未来もついて来ているはずだ。
もう少しだと心の中で返事をしておいた。
その返事は通じるはずがないが館が見えてきた。
「飛び込め!」
大声で指示を飛ばす。
私は先に慣れた手つきで扉を開ける。
二人の方を見ると未来はすぐに空中で前転をするように飛び込んできたが、フレンは息も絶え絶えであわや追いつかれるといった距離だ。
「私が距離を離すから私が入ったらすぐに閉めて!」
考えさせる暇もなく未来にそういうと大量の敵の前に飛び出しフレンが通り過ぎたことを確認して全方位に剣を振るった。
前線にいた敵は吹き飛び、また一瞬の隙を作った。
振るった勢いそのままに扉に入ると未来が扉を迅速に閉めて、フレンが鍵をかけた。
ただこれで終わりではない。
この扉は木で出来ているためすぐに破られるだろう。
現に「ドンッドンッ!」と体当たりをしている音が響く。
2人は扉を抑えて侵入を僅かでも遅らせようとしている。
「このままだと破られるぞ!」
「どうすんのよ!」
「心配ないわ。」
心配する二人に対して私は落ち着いていた。
「何故だ!何か策でもあるのか!」
「策というよりもここの特性と言うべきね。」
私は深海のように青い髪についた枝葉を丁寧に取りながら答えていた。
「あ~!入って来るよ!」
「バン!」と扉が倒れる音がした。
……が敵は入ってこない。
いや正確には入ってこられないだが。
「これはどういうことだ?」
扉のあった場所には入ろうと躍起になっている大量のウジ虫がたかっていた。
顔を歪ませながら無理やり入ってこようとするが後ろから続々と来る人波に揉まれて次々と踏みつけられていた。
その姿は滑稽で非常に醜いものだ。
皆自分が手柄を取ろうと考えているのが分かる。
腕を組んで外を眺めている私に未来は突っかかる。
「これはどういう状況だ?」
一切の状況整理ができていないようだ。
フレンは入ってくるんじゃないかとオドオドして歩き回っている。
普段冷静な未来も眉を釣り上げて扉のあった方向をじっと見つめている。
その様子は不可思議な現象を解明しようと躍起になる科学者そのものだ。
「教えてあげようか?」
2人は一斉にこちらを向き近寄ってきた。
まるで餌を撒かれて集まってくる鳩のようで顔に?が浮かんでいる。
2人は私の目の前まで来て「教えろ」と無言の言葉を発してくる。
私は以前リラックスした状態で髪を手で遊ばせながら答える。
「この館はね強力な結界があるの。」
「何?そんな馬鹿な!」
未来は信じられないと言った様子で再度扉の方向を見ている。
私も扉の方を見ると、人間の執着の根源が見えた。
敵は未だ諦めずに結界に向かって突進を繰り返している。
ただ結界にぶつかることによって腕を骨折したり倒れたりして、数が減っている。
フレンは頭を抱えて「なぜ?」と連呼して自問自答を繰り返している。
まるで呪いをかけようとする呪術師のようだ。
私はこの結界の強さを知っていた。
なぜならこの館の機能は全て知っているから。
この館には数多くの特殊かつ強力な仕掛けが残されている。
この結界もその一つだ。
「シラリア、この結界はどういうことだ?」
「何かおかしなことでも?」
私はあえてはぐらかしてみる。
別に意図は無い、ただのからかいだ。
「気付かないわけないだろう、ここの結界は本質が違いすぎている。」
この結界の不思議な点はそこだ。
本来結界は人を拒むものではなく透明にする機能だ。
なのにここの結界は何人も入れない強固な壁の役割を果たしている。
未来はやや興奮気味で顔が笑っている。
新しい玩具を見つけた幼児と同じ顔だ。。




