血の匂いがする肉の群れ
この館の結界は出し入れができる。
理屈としては全く分からないが、わかっていることは私が鍵になっていると言うこと。
「なあ何故だ、なぜこうなるのか教えて欲しい!」
未来は必死に答えを知ろうとしている。
「私もよくわかってないのよ、ただここの結界は強固な壁の役割があること、そして出し入れが可能ということだけが今わかってることよ。」
多少説明口調になったが聞かれたことに答えただけ。
何も変な事ではない。
「この騒ぎが落ち着いたらじっくり調べて見なさい。」
「ああ、そうさせてもらう。」
実際私も理屈を知りたいと思っていた。
なので近いうちに専門的に調査を頼もうと思っていた。
嗚咽、叫び、惨たらしい声が聞こえる地獄の状況をどうにかしてからの話だが。
今も声が響いて来て夕暮れの鴉の群れのような五月蠅さがある。
「ここにいる限りは安心よ。」
私は二人に再度伝えておく。特にフレンは慌てふためいてドタバタと足音が五月蝿いから。
館は冷酷に冷んやりとした空気が立ち込めていて汗をかいた体を適度に冷やしてくれる。
まるで空調設備が置かれているかと思うほど。暑かった体も冷えて冷静になってきた。
「そういえばペラはどこにいるの?」とフレンが聞いてきた。単純に気になったのだろう。
私も逃げきった安心感から一瞬忘れてしまっていた。もし館にいるならこの騒ぎで出てきてもいいはず。
なのに一切顔を見せないのはオカシイ。
「私が探してこようか?」
「いや、私が探してくるわ。」
私は近くの適当な部屋で休んでてと指示を出してから廊下を歩く。
はやる気持ちがそのまま行動にも現れてちょっと早足になった。
もしかしたら館にいないのではという不安感がだんだん募る。
「ペラ~どこにいるの?」
もしかしたら私たちが帰ってきたのに気づいて隠れているのかもしれない。
そんな淡い期待……そう思わないと心配で胸が張り裂けそうだ。
声をかけるだけでなく、一部屋ごとに丁寧に探しているがどこにも見つからない。
最悪な考えが脳を掌握していく。
既に何らかの方法で敵に摑まっているのでは?
なんならもう捕まって殺されてるのでは?
死。
その一言が頭で液体のように広がっていく。
水槽に水が溜まっていくような感覚。
出てきてくれ。
見つかってくれ。
見逃しているだけ。
そう期待をこめながら探す。
しかし見つからない。
結局見つからない。
……気が付くと一周して玄関に戻って来ていた。
その刹那目の前がチカチカしてきた。
目の前に銀河が広がっているよう。
暗く時折眩しく光る。
足元はブラックホールのような深淵。
そんな感覚を抱えながらわずかな視界で二人の居る部屋にたどり着いた。
「どうしたんだ!」
私はたどり着くなり倒れ込み未来が咄嗟に支えてくれた。
フレンも駆け寄り背中をさする。
私の顔は絶望してるのが一目でわかるほど青ざめて、目に光はなく深淵を映していた。
体に力も入らず立ち上がることすら困難だった。
「$&8~……」
何かを話そうとしても聞き取れない程小さく発音すらままならない物となっていた。
「何だ?気をしっかり持て!」
「未来!どうしよう!どうすればいいの!」
未来が私に呼びかけて、フレンは指示を仰いでいる。
「フレン氷か水を持ってきてくれ!」
フレンが分かったと慌ただしく出ていく。
ドアが壊れそうな勢いで。
「まぁこうなった原因は分かるけどな。」
私はその言葉にピクッと反応する。
未来はそれに気づいたように続ける。
「シラリアがそんな状態になるってことはペラが居なかったんだろう。」
その言葉に私の意識は磁石で引っ張られるように現世に戻ってくる。
「……そうよ」
私は俯きながら目も合わせずに答える。
未来は私の側に近寄って「大丈夫か?」と聞いてきた。
「……大丈夫大丈夫……」
以外にもシラリアの復活は早かった。
もう少しかかると思ったが私の心は丈夫にできているらしい。
「まぁ落ち着け、コーヒーでも持ってこようか?」
シラリアは逡巡して断った。
「そんなことしてる時間がもったいないわ。」
未来は「そうか」と返事をするとドアを開けた。
本来では何の脈略もない行動だが私にとってはありがたい。
「どうせ外に出て助けに行くって言うんだろ?」
「ええ、必ず戻って来るから。」
今の精神状態的にドアを開ける手間すら面倒でイライラするところだ。
だが未来は私のことをよく理解してる。
前も思ったがなぜ私の思考を理解できるのだろう。まるで何十年も一緒にいたかのように錯覚する。
本来は「たった一週間」なのだが。
そこにどんな原因が渦巻いているのかは分からない。だがそれで困ることは今のところない。
不都合があればこちらから調整するがそんな必要はない。話さずとも良いということは無駄な行動を削減すること、つまりプラスでしかない。
そんなことを考える余裕はこの先にはない。
目の前には既に押し寄せる愚者が良く見える。さっきまで安全なところから獣を鑑賞するだけだったが今度は飛び込まなくてはならない。
まるでピラニアの蠢く池に飛び込むのと同じだ。彼らは飛び込んだものが何かも分からないままただ噛みついて食い千切ろうとする有象無象の集団。
これだけの数の肉を切り裂けるのはとても興奮する。涎が垂れてきそう。




