三十一
「ミタリア、コレ好きだったよな」
「リチャード様、私ばっかりに薦めていないで、ご自分もお食べください」
「一緒の夕飯が嬉しくてな」
と、終始、ご機嫌な王子との夕食を終えて、客間に移動して寝る準備をしていた。ワンピースの時も思ったけど、ネグリジェも女の子らしい薄ピンク色だ。
(……私、こんなに可愛い、ネグリジェは持ってない)
「ミタリア様、ネグリジェと髪型はどういたしましょうか?」
「これでいいわ、ありがとう」
王子が呼んでくれたメイドに着替えを手伝ってもらい、ふかふか高級オフトゥンに潜り込んで、肌触りを楽しんでいた。
「ふかふかマシュマロ高級オフトゥン、最高!」
これなら直ぐに眠れる。
……
……
……あれ?
いつもならふかふか高級オフトゥンに潜ると、すぐに寝れるのに今日にかぎって目が冴えている。
お腹の熱とムズムズが一向に治らないし……王子に甘えたい、甘えたくて仕方がない。だからといって、深夜に王子の部屋には行けないし、寝てしまえば明日には治ってるかも……。
「ミタリア様、失礼いたします。おやすみなさいませ」
「ありがとう、おやすみなさい」
片付けを終えたメイドは客間から下がり、一人になる部屋。その部屋で目は冴える一方で眠れず、高級オフトゥンの中でゴロゴロ寝返りをうっていた。
メイドが下がり、しばらくして部屋の外から遠慮がちな声が聞こえてくる。
「リチャード様。メイドに確認したところ、ミタリア様は既にお休みになられましたので、その姿で部屋に突入はお控えください」
「うるさい、俺はミタリアにいますぐ会いたいんだ」
慌てる側近リルの声と王子の声の後、乱暴に開いた客間の扉。その扉に狼のシルエットが見えて私はベッドから体を起こした。
「え、リチャード様?」
「そうだ、俺だミタリア、中には入らせてもらう。リル、いまから二人だけの時間だ――必要なものを置いたら下がれ」
「……かしこまりました、リチャード様」
これ以上、言い返せずリルはテーブルに何か置き、礼をして下がっていった。こんな時間に王子は何をしに来たの? と彼を見たところ口に何かを咥えている。
「あの、リチャード様はこんな夜更けにどうされたのですか?」
と聞くと、私のベッドに咥えて来たものを置き。
「……ミタリア、頼む、その櫛で俺をブラッシングしてくれないか……目が冴えて眠れん」
と、狼姿の王子が言った。
「ブラッシングですか?」
「そうだ、ブラッシングしてくれ。ミタリアにブラッシングされたい」
コレって私が王子に撫でられたいと思っているのと同じ? こんな気持ちになっているのは私だけじゃないんだ。
「ミタリア、何を笑っているんだ?」
「あ、すみません。リチャード様が私と同じだと思って」
「え、ミタリアが俺と同じ?」
王子の見開かれた、青い瞳が私を見つめた。
こうなったら、私も素直に言ってしまおう。
「私も王子に撫でられたくて、甘やかされたくて仕方なかったんです……私もリチャード様のお部屋に行こうか悩んでおりました」
ヘヘッと、照れて変な笑い方をした。
あなたに撫でられたいと告白した後から、喋らなくなった狼王子を見ると、口をポカーンと開けたまま固まる狼がいた。
+
客間のベッドの上に寝そべる狼に、私はブラッシングしていた。
「リチャード様の毛ってさらさらで気持ちいいですね。ブラッシングはどうですか? 気持ちいですか?」
「あぁ、初めてのブラッシング……凄くいいな。お腹のむずむずが落ち着いてくるよ、ミタ……リア、すー……すーっ」
「リチャード様、寝ちゃだめです。私の撫で撫でが終わるまで、いくら気持ちがよくても寝ないでください」
「おっ、そうだった……しかし、なんとも言えぬ心地よさだ」
その後――ブラッシング中に寝落ちしそうな、王子をなんとか寝かせず、私の撫で撫での時間が始まった。もちろん、王子は元の姿に戻って服を着てもらい、私は猫の姿でだ。
触るのは頭と頬、顎の下と背中まで、お尻と尻尾、お腹を触るのはNGだ。
王子に撫で撫でされるとお腹のむずむずは止まり、ぽわっと暖かくなるような気がした。
「これはいいにゃ、堪らないにゃ」
「そうか? ミタリアは頬が気持ちいいのか? ん? それとも顎の下か?」
「どちらも……気持ちいいです」
王子に撫でられてゴロゴロ喉が鳴る。さっきまで眠れないと思っていたのに眠気がやってくる。
「ミタリア、眠かったら寝ていいぞ。俺も寝るから」
撫でられながら、うとうとする私に寝ていいという。
「お言葉に甘えますにゃ……って、リチャード様はどこで寝るにゃ? 部屋に戻るの?」
「いや、ここだけど?」
普通にこたえる王子にダメだと追い返そうとしたが。王子の撫で撫でとふかふか高級オフトゥンの寝心地に負けた。
次の日、目覚めると狼王子のもふもふな胸の中で、私は猫の姿で丸まって寝ていた。




