二十一
恥ずかしくて、照れるけどーー王妃殿下と王子は楽しそうに笑ってくれた。この笑顔と王子の弟と妹をなくしたくない。
いま思い出した記憶は戻ったら忘れないうちに、しっかりノートに書かなくては。
「ミタリア、グルーミング約束な」
「や、約束ですか? リチャード様は本気で言っています?」
「本気だけど、本当に僕が三ペロで終わるか確かめないと、すりすり、甘噛みはしたから」
そうだ。王子にすりすりと甘噛みは、すでにされている。
「三ペロなんて言葉の綾です。別に、た、試さなくても大丈夫ですよ」
狼姿の王子をブラッシングするならいいけど、ペロは難易度が上がる。もう少し王子と親密な関係になったのなら、出来るかもしれないけど。
――いまは無理。
それに……この話を始めてからお腹のムズムズは大きくなっている。それは王子も同じなのか、さっきから同じ所を、時々気にして撫でているようにみえた。
それに気付いた――王妃殿下は王子と私を交互に見て頷き。
「ミタリアちゃん、少しリチャードに話があるから2人キリにしてもらえる? 応接間で休むか、書庫、庭園のテラスで待っていて欲しいわ」
「はい、分かりました。庭園のテラスに出てもいいですか?」
えぇっと、王妃殿下はベッドの脇に置かれた鈴を鳴らして、専属メイドを部屋へと呼んだ。コンコンコンと扉を鳴らしてメイドがやって来る。
「お呼びですか、王妃殿下」
「リチャードに少し話があるからミタリアちゃんを、庭園のテラス席に案内してあげて」
「かしこまりました、王妃様。ではミタリア様を庭園のテラスにご案内いたします」
「はい、王妃殿下、リチャード様失礼いたします」
王妃殿下と王子を部屋に残して、私は庭園のテラスに案内された。
+
王妃殿下の部屋に残った王子。
「母上、僕に話とはなんですか?」
「リチャード、貴方――お腹のこの辺に番紋が浮かんでいない? そうね、お腹の右下あたりかしら?」
――何故、紋様のこと母上はわかった?
「はい。花のような形の番紋が腹の右下あたりに、浮かびました」
俺は服をめくり、母上にお腹に浮かび上がった紋様を見せた。その番紋は薄いピンク色をしていた、母上はこの紋様をじっくり見て。
「それだとまだ出来立ての紋様のようね――この色だと、二人はまだ軽い甘噛みくらいで、キスはしていないのね」
キスしていない?
この紋様でそこまで、分かってしまうのか。
「キスはまだですが。その、キスが――この紋様とは関係あるのですか?」
「えぇあるわ。婚約者のミタリアちゃんにもあなたと同じ位置に、同じ形の番紋が浮かんているはず。私も経験あるからわかるわ、時々ムズムズするのよね」
俺は『そうだ』と母上に頷いた。
「母上の言う通り、時々ーーそれもミタリアといるときに、ムズムズしたり熱くなったり、ズキッと痛むときもあります」
「そう、まだ痛みもあるのね。リチャードにはっきり伝えるわ。この番紋はどちらかに好きな人が出来ればすぐに消えてしまう紋様ね、例えるなら儚い恋」
儚い恋。
「そんな……僕かミタリアに好きな人ができると、この紋様は消えてしまうのですか?」
――嫌だ。俺はミタリアと繋がる、この番紋は消したくない。
「その様子だと、リチャードはミタリアちゃんが好きなのね。でも、相手のミタリアちゃんはあなたを好きかな? と、恋の一歩手前で止まって悩んでいるのかしら」
恋の一歩手前?
そうかミタリアは僕を好きかどうか、悩んでいるのか。
「母上、僕はミタリアが欲しい。僕だけを好きになってもらいたい」
リチャードと俺の名前を呼び、母上は座ったまま手を広げた。俺は立ち上がり母上に近付き体を寄せると、優しく俺を抱きしめてくれた。
温かい、こうされるのは十五年ぶりなのだろう――
とうの昔に忘れてしまった、母上の柔らかな香りと体温を感じた。それは懐かしくて、この温かさはミタリアが母上に会いたいと言わなければ、けして感じられなかった母上の温かさだ。
「だったら、リチャードも陛下の様に強く、優しく、時にはしっかり言葉を伝えられる、立派な狼になりなさい」
立派な狼か、俺はまだ半人前の狼だ。
強く、優しくなり、ミタリアを守れる狼になりたい。
「……分かりました。なれるよう努力いたします、母上」
絶対に俺を好きにさせる。
覚悟しろよミタリア。




