二十
カチャカチャとテーブルに紅茶と、ケーキが用意されていく。
抱きついた王子はまた頬にかぷっと甘噛みした――それも王妃殿下の前で。
王子!
「ふふっ、良いものを見せてもらったわ。まぁ私と陛下も負けてませんけど」
王妃殿下は愛おしそうに、お腹をさすった。
ゲームでは王子とヒロインが王妃殿下に会いに行く話で、子供の話はでていない。
私が覚えている内容は――ベッドに横たわる病弱な王妃殿下。細くなった手で王子を撫でて、あなたの事は愛してる大切だと伝えた。
素敵で感動するイベントだと思っていたけど。お子様はどこに行ったの? 妊娠期間十月十日だと聞く。いまが妊娠三ヶ月だとすると、あと七ヶ月以上経てばお子様は生まれるはず。
ゲーム内で二人が王妃殿下に会うのは。四月に学園に入学して、お会いするのは七月の夏季休暇。だとすれば、お腹の大きな王妃殿下にお会いすることになる。
妊婦姿の王妃殿下のスチルはなかった。このイベントは離れていも王子は王妃殿下に愛されていた、そういう内容だったと思う。
王子の弟か妹――子供はどこにいってしまったの?
ゲームとは話が変わってしまったから?
それとも、私が重要な何か忘れている?
「さぁ、リチャード、ミタリアちゃん。たくさん用意したから、好きなお菓子を取って食べてね」
お菓子……⁉︎
「あ、あぁ、リチャード様、忘れていたわ!」
「突然、大きな声を出して、どうした?」
「ごめんなさい、リチャード様。わ、私――お昼のことしか考えていなくて、手土産を忘れていましたわ!」
王妃殿下にお会いするのに、手ぶらできてしまっていた。
「……すみません」
「まぁ、元気なリチャードの顔が見られて、可愛い婚約者が来てくれて、手土産なんて良いのよ」
それは王子もだったようで。
「母上、すみません。僕もだ――母上に久しぶりにお会いできると、浮かれていて忘れていました」
しゅんと肩お落とした私たち。
王妃殿下は優しく微笑んで。
「二人もと落ち込まなくていいのよ。陛下なんて更にすごいから。毎月の満月の夜――狼の姿で王都からここまで走ってきて、手足も拭かずに私のベッドに登り、眠っている私を起こして「ブラッシングしてくれ」よ」
国王陛下がブラッシング⁉︎
「父上がブラッシング!」
「雨の日もそのまま、風の日も――ほんと可愛い人よね」
だから、ベッドの脇に高級な櫛が何本も置いてあったんだ。
王妃殿下は唯一、狼姿の陛下に触れられる番だもの。
「ブラッシングは羨ましいな。僕たちは二人とも獣化したらグルーミングしかないか」
「グルーミング! リチャード様二人いっぺんに獣化しなくても、いいんじゃないですか?」
「僕は甘噛みしたいし、ミタリアにグルーミングもしたい」
二人でペロペロ?
ふかふかオフトゥンの上で、寄り添って?
「それはずるいです。リチャード様は私を三ペロで終わるかもしれないけど。私は大きなリチャード様をたくさん、ペロペロしなくちゃ終わらないわ」
ゴフッと紅茶を豪快に吹いた王子と、驚く王妃殿下。
あれ、私、変なこと言った?
「三ペロって――ははっ、ミタリアは僕をグルーミングすることには、抵抗ないんだな」
「ミタリアちゃんて、案外大胆ね」
「あっ――!」
グルーミング――いわば狼姿の王子をペロペロすること。
そのことに気付いた私はボフッと、音が出るくらい、真っ赤に染まった。




