十九
王妃殿下は犬族でゲームでは穏やかな見ためだったはず。陛下とは幼馴染で幼な頃からの婚約者。学園を卒業してすぐに二人は結婚して、一年後に王子を懐妊した。
翌年――王子を産んだ後、王妃殿下は体を崩して十五年間もの間、別荘で療養中。王子は乳母、メイドによって育てられた。
(本当なら学園に入ってから、ヒロインとここに来るはずだったけど、来てしまった)
この行動が――のちに、どう影響するのかはわからない。
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馬車を降り側近リル、従者、近衛騎士は応接間に通されて。
私たちは王妃殿下の専属メイドに部屋へと案内された。
王妃殿下――十五年経ったいまでもお体の調子が戻らないなんて、獣化する子を持つのは大変なことなんだ……、……あれっ? 私も獣化するけどお母様は元気だけど……
もしかすると狼と猫の体格の違い?
それとも能力の違いが関係しているのかな?
いまは傷が早く治る能力だけど。十六歳――大人の仲間入りをした時に、個々に能力が開花すると習っている。
「リチャード様、ミタリア様。こちらがサリア王妃の部屋です」
メイドが王妃殿下の扉の前で足を止めて扉をノックした。すぐ、中から可憐な声が返ってきたこの声が王妃殿下の声なんだ。では声がなかったから――感激する。ちなみに王子と私の声はゲームで聞いていたよりも若い感じで、王子は声変わりが終わったばかりかな?
メイドが扉を開き、王子と私は部屋の中に通された。
専属メイドは王妃殿下の命でお茶の支度に向かった。
「母上、失礼します」
「王妃殿下、ごきげんよ」
部屋の中は天蓋付きベッド、テーブル、書斎、化粧台――棚の上には王子の幼な頃からのいまのお姿が描かれた、大きさがポストカードくらいの肖像画が、ずらりと並んでいた。
(あ、小さい頃の王子可愛い)
でも、スチルで見ていた派手な部屋とは異なり、淡いブルーで統一された、落ち着きのある部屋だった。
天蓋付きベッドには何故かブラッシングする為の、高級な櫛が何本も置かれていた。
「遠い所までご苦労様リチャード、初めましてミタリアさん」
部屋のテーブルに着く鋭い瞳の王子とは違い、穏やかな瞳のサリア・ローランド王妃殿下。しかしサリア王妃殿下は何故か――自己紹介する前から私の名前を知っていた。
(王子が教えたのかな?)
「は、初めまして。サリア王妃殿下。リチャード様の婚約者に選ばれました、アンブレラ公爵家の娘ミタリアです」
スカートを持ってカーテシーした。
「ミタリアちゃん座ったままで、ごめんなさいね。聞いた話によるとあなたも獣化するのよね」
「えっ、は、はい」
「ふふっ、だから……リチャードとお揃いのブレスレットを着けているのね」
王妃殿下は王子とお揃いのブレスレットを見ていた。
「このブレスレットは僕がミタリア嬢にプレゼントしました。それで母上、お体の具合はどうですか?」
王子は常にの堂々とした雰囲気ではなく、緊張しているみたい。
「イリア陛下に似てリチャードも優しいのね。あのね、私の体はもういいの」
「そ、そうなのですか? では、城にお戻りになるのですか?」
「最初は――リチャードの学園入学に合わせて戻る予定だったのですが。あのね、リチャード。この歳で恥ずかしいのですけど、いま私は妊娠をしております、もう、三ヶ月ですって」
「母上が、妊娠?」
王妃殿下が妊娠⁉︎
「おめでとうございます、王妃殿下」
「それはめでたいが……母上、だ、誰の子をですか?」
王子、それを聞いてしまうの!
「まぁ、リチャードったら酷いことを聞くのね。もちろん陛下の子に決まっております。あなたは知らないだろうけれど十五年間――交信鏡で毎日陛下と話をしたり。毎月、満月の夜に狼姿の陛下とお会いしていたわ」
「ジュ、十五年もの間、母上が父上と交信鏡で話して、満月の夜に会っていた? そんなこと父上から聞いたことがない。いつ母上のことを聞いても『お前は気にしなくていい』としか言わなかった……」
それは酷い、でも王妃殿下は困りながら微笑み。
「まったく陛下は言葉足らずね。多分、私は大丈夫だから心配するなって言いたかったのね。交信鏡と、ここに来ても殿下はあなたの話ばかするわよ。リチャードがハイハイしたとか、リチャードが立って歩いた。パパとママと俺たちを呼んだ――最近身長が伸びた。リチャードが婚約者を決めてその子に夢中のようだって、ね」
婚約者に夢中⁉︎
「婚約してから僕たちは部屋で過ごしている。それなのに僕がミタリアに夢中だと知っていると言うことは……父上はご自分の特殊部隊を使い、僕たちの見張りをしていたか……気付かなかった」
特殊部隊なんているの?
「だから母上はミタリアの名前と、獣化することを知っていたんですね」
「ごめんなさいね。獣人にとって獣化種は希少な存在。ちょっとの油断で誘拐、監禁されてしまうの。二人が心配で陛下は見ていたのね。だって――あなた達はお互いを信頼して獣化し過ぎです」
獣化し過ぎ。
「信頼ですか? 僕はミタリアを信頼していますが、ミタリアは僕を信頼している?」
「わ、私は、その……信頼とかまだ分からないですけど。リチャード様の側は安心して、ホッとします」
「そうなのか? 嬉しい」
喜んだ王子に、王妃殿下の前でキツく抱きしめられた。




