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第16話 饅頭作戦

 そして、俺達は浮遊島への扉がある郊外の丘に戻ってきていた。すっかり町中を探すものと思っていたけど違ったようだ。


「で、ここでどうするんだ? 悪魔を探すならもっと他に場所はあるだろう」

「そう焦らなくても大丈夫だよ。こんな広い町をただ歩き回っていても大変なだけだ」

「と言うと?」

「悪魔をここまでおびき寄せれば良い。ここなら悪魔が暴れても人間達に被害は及ばないだろう」

「さすがモンド様にゃ。行き当たりばったりのタケシとは違う――、にゃにゃ!」


 ミネが腹を立たせることを言ったので背負っているパンパンのリュックを後ろに引っ張ってやった。重みで後ろに倒れたミネは、ひっくり返された亀のように起き上がることができず、じたばたとしている。


「まあ、それは名案だとは思うけど、どうやっておびき寄せるんだ?」

「こらー! 起こしてくれにゃー!」

「悪魔の好きそうな物を置いておけばフラフラと吸い寄せられるように来るはずさ」

「本当に起き上がれないにゃー! このままあたしは餓死してしまうに違いないにゃ……」

「好きそうな物ねえ」

「うう……、何も悪いことせずに生きてきたのにこの仕打ちはひどいにゃ……。タケシの部屋に飾ってある人形の腕を折ってしまったのが少しだけ悪いことだけど、接着剤で直して事無きを得たはずにゃ……」


 人形の腕が尻から生えていたのはお前のせいか。このまま放っておけば色々と悪事を白状しそうである。しばらくミネの食事だけ苦手な納豆を出し続けてやることにしよう。


「ミネ、まだお菓子は余っていたよね。出してくれないかい」

「モンド様……、あたしはもうこのまま死んでしまうにゃ……。モンド様のお気に入りだった食器が無くなったのをタケシのせいにしたけど、あれはあたしが割って隠しましたにゃ……」

「もう済んだことだ、気にしていないよ」


 やっぱりあれもお前か。モンドも気にしていないとか言っているが、罰と称して浮遊島十周も俺を走らせたくせに。


「起き上がれないなら腕をリュックのベルトから抜けば良いと思うよ」


 モンドのその一言により場に静寂が訪れ、やわらかな風が吹き抜けた。


「……ハッ!」


 言葉の意味を理解したミネは、モソモソと動いてリュックから離れることに成功し立ち上がった。


「やったにゃ! これで餓死しなくて済むにゃ!」


 餓死はしないけど明日から納豆地獄だがな。


「良かったね。それじゃあ、お菓子を頼むよ」

「はーい」


 自分の未来も知らず、ミネは上機嫌でリュックの中をがそごそと漁って、ひとつの饅頭を取り出し、モンドに手渡した。


「そんなので本当に悪魔を釣れるのか?」

「これに悪魔が好きな人間の生命力をエッセンスとして加えるのさ。すぐに気づけるよう百人分を濃縮しておこう」


 モンドが饅頭に向かってゆらゆらと指を動かすと、仄かに光を帯び始めた。


「よし、これをここの岩の上に置いておけば完璧だ。一応、僕達はそこの草むらに隠れておこう」


 光る饅頭がポツンとあっても怪しいと思うけど、他に案もないのでモンドの作戦に乗るとしよう。草むらへ移動して身体を隠す。


 それから五分ほど。

 息を潜めて待っていると、町の方から誰かがやって来た。


「この辺りで妙な気配が……。やや! なんだこの饅頭は!」


 背中に白い羽を生やし、光る輪っかが頭の上にあるその人物は、光る饅頭を見つけ慄いた。どこからどう見てもドロワットである。


「まさか天使に化けていたとはね。狡知に長けた悪魔らしいと言える」


 モンドが草むらから身を出してドロワットに賞賛の言葉を向けた。

 えっ、こいつが悪魔なの?


「こ、これは創造主様! 何故そのような所から……、い、いえ! それよりも先ほどの非礼を詫びさせてくださ――、ぎゃあ!」


 問答無用とばかりに、バチンッと今日四度目となる雷撃を受け、ドロワットは悲鳴を上げて黒焦げとなった。動かなくなったそれを見下ろしながらモンドがわざとらしく額を拭う。


「ふう、これでまた善行が積めたね」

「いや、一仕事したみたいに言ってるけど、ドロワットが悪魔じゃないってわかっててやっただろ」

「あれ、バレてたかい? タケシは変なところで勘が鋭いね」


 ドロワットの誤解は解けたようだが、ジャージをダサいと罵られたことをかなり根に持っているらしい。二人が分かり合える日は来ないだろう。

 それよりも悪魔をおびき寄せるという成果は得られなさそうである。光る饅頭を手に取り、町中を地道に探そうと提案しようとしたその時、


「おっ、さっきの兄さんじゃないか」


 不意に背後から声が掛かる。振り返ると先ほど俺に変な物を売ろうとした商人のおっちゃんであった。悪びれた様子もなくにこやかな笑顔を見せている。


「そっちはお連れさんかい? カッコいい方の兄さんと可愛いお嬢さんにお近づきの印としてキャンディーをあげよう」

「わーい、ありがとうにゃー」

「ミネ、僕はそっちの赤色の方が良いから交換しよう」


 出会って早々、おっちゃんは二人を懐柔するべく餌を渡した。カッコいい方、という言い方に引っかかりを覚えるが、まあ事実なので流すことにする。


「さて、兄さん。うちの商品を買う気になったかい? 今なら壺を買ってくれたらおまけとしてストラップを三本つけよう。どうだい!」

「はあ……、じゃあ買います……」


 どうせ買うまで粘られるのは目に見えているので、さっさと買うことにした。助けてくれた女の子には悪い気もするけど、おっちゃんと再会してしまった運を恨もう。


「ああ、ちょっと待ちな兄さん」

「えっ?」


 俺が財布を取り出したところでおっちゃんが待ったをかけた。


「兄さんとの仲だから安くはするけど、それでもでかい出費になっちまう。そこでだ、その饅頭と物々交換ということにしてやるよ」

「これと、ですか? ただの饅頭ですよ?」

「馬鹿を言っちゃいけねえ。俺にはわかるんだ。さあ、早くそいつを渡せ!」

「うわっ!」


 おっちゃんが強引に俺から饅頭を奪おうと手を伸ばしてきたので反射的に避けた。


「な、なにするんですか!」

「うるせえ! 早く、早くそいつを喰わせろ!」


 歯をむき出しにし大量のよだれを垂らしながらおっちゃんは叫んだ。なんだ、様子が普通じゃないぞ。


「早く、ハヤク……、ヨコセー!」


 獣の咆哮のような叫び声を上げ、俺に掴みかかろうと腕が伸びてくる。だが、その腕はもう人間のそれではなく、異質に筋肉が膨れ上がっていた。

 その巨人のような手で掴まれそうになり身を丸めた瞬間、ドンッという衝撃音が響く。薄ら目で確認するとおっちゃんは後方に飛ばされていた。


「タケシ、あれは人間に化けているけど悪魔だよ。不用意に近づくもんじゃない」


 どうやらモンドの力に助けられたようだ。俺に注意するようなことを言っているけど、ペロペロとキャンディーを舐めながら言われてもありがたみはゼロである。そもそも、最初から気づいていたならもっと早く言え。


「ウグアアアアアア!」


 雄叫びを上げたおっちゃん、改め悪魔の身体がどんどんと大きくなっている。


「ふむ、百人分の生命力を前にして本能を抑えきれなくなったようだね。悪魔にはご馳走過ぎたかな」

「モンド様! まだキャンディーがありましたにゃ!」

「一度に食べ過ぎるのはよくないからそれは持って帰るとしよう。どれどれ……」


 悪魔が持っていたバッグをミネが拾ってきたかと思うと二人揃って物色し始めた。悪魔が本来の姿に戻るべく唸り続けているというのに、こいつらは何をしているんだ。


「この壺なんて家に飾るのに良さそうですにゃー」

「それは生命力を奪う壺だね。あんまり触ると死ぬよ」

「にゃにゃ! 危ないにゃ!」


 不思議な青色をした壺は、手にしていたミネに放り投げられ、未だ倒れているドロワットの頭に当たり割れてしまう。すると、その衝撃で意識が戻ったようで頭を押さえながら立ち上がった。


「いてて……。やや! 悪魔ではないか! この私が成敗してくれる!」


 巧みな槍さばきを見せて切っ先を本来の姿に戻った悪魔に向けた。気絶から目覚めてすぐに動けるとは伊達に天使をしていないらしい。

第16話を読んで頂きありがとうございます。

第17話は6/12の17時に投稿予定です。

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