第17話 ドロワット VS 悪魔
三メートルほどの体躯になった悪魔が紅い瞳をドロワットに向ける。
「でやあああああ!」
気合いとともにドロワットが突進をかけた。だが、悪魔の瞳が妖しく光ると金縛りにあったかのように固まってしまう。
「う、動けん……!」
どうにかその呪縛から逃れようとしているが、悪魔の力の方が上らしい。
動けないドロワットへ悪魔が目にも止まらぬ速さで拳を叩き込む。
「ぶへぶへぶへぶへえええええ!」
最後の拳をもらうと俺達の前まで吹っ飛ばされてきた。
その顔はボコボコに腫れあがっており、先ほどまでの勇敢さは見る影もない。
「なんだいこの汚い天使は」
「頑張って悪魔を倒そうとしていたんだからそんなこと言ってやるなよ……」
モンドが汚物を見るような目を向けるので、ドロワットを不憫に思いフォローしてやった。「ふむ」と顎に手を当て何やら一考した動きを見せてから言う。
「そうだ、良いことを思いついた。ミネ、何かスプレーを持っていないかい?」
「にゃ? 救急箱に冷却スプレーならありますにゃよ」
「それで良い。この醜い天使に吹きかけてくれ」
「はーい」
言われた通りリュックから冷却スプレーを取り出したミネは、その噴出口を倒れたドロワットに向けてシューと吹きかける。そこへ、モンドが指をゆらゆらと動かして何やら細工をする動きを見せた。
「冷た! ん、おお! 痛みが消えた!」
ミネが腫れあがったドロワットの顔にスプレーを吹きかけると、みるみるうちにその腫れは引いて元の顔に戻った。元気になったドロワットは立ち上がって槍をぐるぐると回す。
「ありがとうございます、創造主様! 次こそはあの悪魔を倒して参ります!」
「うん、頑張って」
月並みな声援をモンドからもらい、ドロワットは再び悪魔へ突進していく。
まさか回復してやるなんて……。中華料理屋の換気扇ぐらいギトギトに根に持つ奴だと思っていたが、忌々しい相手に優しさを見せるなんて……。俺の中のモンドに対する見方が変わりそうである。
「ぜやあああああ!」
ドロワットが悪魔へ力一杯に槍を突き出した。それを後ろに下がってかわした悪魔の瞳がまたも妖しく光る。
「う、動けん……!」
金縛りでドロワットの動きを封じ込めると、またも激しく拳を叩き込む。
「ぶへぶへぶへぶへえええええ!」
先ほどの再現のように俺達の前に吹っ飛ばされてきた。ボロ雑巾の如くボロボロである。
「ミネ」
「はーい」
モンドが合図するとミネがスプレーをドロワットに吹きかけた。
「冷た! おお、これでまだ戦える! 次こそは我が槍で勝利を収めて参ります!」
「うん、頑張って」
あっという間に傷が癒えて体力を取り戻したようだ。また槍を構えて突進して行った。
そして、返り討ちに遭ったドロワットが飛ばされてくる。
「にゃー、元気になるにゃよー」
「冷た! むむっ、何度も申し訳ありません。次こそは!」
「うん……、頑張って……」
「…………」
駆けて行くドロワットの背中を見ながら俺は気づいてしまった。
悪魔の方が強いと見たモンドは、何度もドロワットがやられる様を見て楽しんでいるだけだと。その証拠に、平静を保とうとしているが堪えきれず口元が上がっているし、なんならさっきの声援も笑いが漏れていた。
ドロワットもドロワットで作戦を考えれば良いのに、バカ正直に正面から向かってばかりである。かと言って、俺自身良い作戦を思いついているわけでもないのだが。
それから、十回目の惨敗を喫したドロワットを見下ろしながらモンドが、
「飽きたね」
散々弄んだあげくの一言である。むごい。
ドロワットが向かって来なくなったので悪魔の標的が俺の持つ饅頭に移る。
「饅頭ヨコセエエエエエ!」
悪魔が地を蹴り一直線に向かってくる。そのあまりの速さにモンドの陰に隠れる間もない。饅頭を遠くに投げて危機を回避するしかないようだ。
腕を振りかぶって悪魔の頭の上を越すように饅頭を投げようとした刹那、小柄な人影が悪魔の前に立ちはだかった。その後姿には見覚えがあり、俺は「あっ」と声を漏らす。現悪魔のおっちゃんの押し売りから助けてくれたあのフードの女の子だ。
使い込まれ色あせた外套がふわっと揺れた。
「グアッ!」
声を上げた悪魔は勢いよく後ろに飛び下がる。見るとその身体に二本の切り傷が走っていた。
手前の女の子に視線を戻すと、その両手には刃が湾曲したダガーが逆手に握られていた。初めて出会った時、おっちゃんの髭を切り落としたのはあのダガーだったのか。
「下がっていて、ください」
消え去りそうな声量であったが俺の耳にハッキリと届いた。
第17話を読んで頂きありがとうございます。
第18話は6/14の17時に投稿予定です。




