第13話 虎の尾を踏む
それから、まともな人に道を訊ねて神殿の場所を教えてもらい、モンド達のいる丘へ戻った。
俺が町に下りてから一時間は経っただろうに、二人はまだおやつタイムを満喫していた。あげくの果てに「もう戻ってきてのかにゃ」ときたもんだ。俺のどうしようもない怒りを残っていたお菓子を一気に食べてやることで解消してやった。
「そんなに食べたかったのかにゃ? 素直にそう言えば良いのに……」
「タケシは引っ込み思案なところがあるからね。僕達が気づいてあげれば……」
的外れなことを言いながら二人して憐憫の眼差しを向けてくる。やめろ、そんな目で見るんじゃない。
といったやり取りを経て、今度は三人で町に下りた。往来する人達にぶつからないよう上手く歩を進める。
「ここは人間が溢れかえっているね。今度天災でも起こして減らした方が良いかな?」
現地調査をした〝創造主様〟がまた物騒なことを言い始めた。
「これぐらい発展した都市なら普通だろ。俺の元居た世界の首都なんてもっとすごかったぞ。満員電車なんてこれの比じゃない」
「ああ、会社という強制労働施設に行く為に走る棺桶に押し込まれるってやつかい。確かに、それと比べたら長閑なものだね」
人間代表としてフォローに成功したようだ。モンドの認識も間違っていないので訂正しないでおいた。
それからもしばらく歩き、人の波を抜け本通りから外れた道に入る。ここを進めば神殿に着くはずだ。
ちらりと後ろを振り返り二人がいるのを確認したがちゃんとついて来ていた。ミネと地上に来たのは久しぶりだが相変わらずネコを被った雰囲気を出している。
密かに苦笑いを浮かべ正面に視線を戻すと、向こうから槍を持った兵士らしき人達が何やら急いで走ってくるのを見つけた。
「そこの三人組! 止まれ!」
ただならぬ様相で兵士の一人が叫んだ。周りを見渡してみると三人組どころか、人は俺達しかいない。まだ何もしていないはずだが……、言う通りに歩を止めて身構える。
そして、一定の距離を開けてあっという間に囲まれてしまった。刃先こそ向られていないが物々さは変わりない。
先日のビーエン王国の時といい、こうも兵士に囲まれる機会が連続で訪れるとは……。
「えっと、どうかされましたか……?」
「動くな! ドロワット様、包囲しました」
兵士達の輪の一部が開く。すると、白い羽を背負い光る輪を頭の上に浮かせた少年が俺達の前に進み出た。手には兵士達のより上等な槍がある。間違いなく天使だ。
「うむ、結界が反応した通り、得たいの知れない力を感じるぞ」
「獣人がいますね……。こいつでしょうか?」
「いや……、そっちの緑色からだ」
ドロワットと呼ばれた天使は槍の切っ先をモンドへ向けた。
あっ、まずい。
「キミ……、天使なのに礼儀がなっていないようだね」
モンドが涼しい顔をしながら明らかに怒気を含んだ声を出した。こいつは人間に対しては比較的寛容だが、上位種の天使や神、悪魔や魔王には容赦なかったりする。
「ふん、礼儀がなっていないのはどっちだ。ここから先は女神ジュノン様が居られる神殿。人間の姿に化けた不審者め、正体を見せろ!」
ドロワットはぐるぐると槍さばきを見せてビシッと構えた。
モンドの顔を見るのが恐い。
それでもそろりと目だけで様子を窺うと、朝食に二日連続玉子焼きがなかった時と同じ笑顔をしていた。かなり怒っているのがわかる。同じくモンドの感情を理解しているミネもあわあわとうろたえている。
モンドが指をパチンッと弾いた。その音とともに俺達を取り囲んでいた十人ほどの兵士達が紐の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「な、なんだ!」
威勢の良かったドロワットも突然の出来事に驚いている。そして、さらに敵意を強めた形相でモンドを睨んだ。
早く土下座して謝ってくれと祈っていると、
「タケシ、この天使に僕が何者なのか教えてあげてよ」
モンドが俺にパスを渡してきた。ここで俺かよ。
教えると言っても、モンドはどっちを言って欲しいのだろうか。
創造主か裏ボスか。
ここで選択肢を間違えると俺にも被害が及ぶかもしれない。
ドロワットに裏ボスと言って伝わる訳がないので、普通なら創造主だと言うところだが、モンドは裏ボスを名乗りたくて仕方ないはずだ。
刹那の思案を経た俺は解を出す。
「あー……、こちらに御座すのは、世界を見守る創造主であり、やがては世界を支配する裏ボスになるお方であるぞー……」
横目でモンドの反応を見つつ、それっぽく紹介した。創造主を強調して言ってみたが問題なかったようだ。
よし、これでドロワットにも伝わっただろう。
そんな安堵の気持ちが芽生えかけたのだが、
「創造主? 創造主様がそんな緑色のダサイ服を着ているわけないだろ! 創造主様を騙る不届き者め、成敗してやる!」
ああ、俺の思いは伝わらなかったようだ。グッバイ、ドロワット君。
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第14話は6/5の17時に投稿予定です。




