第九話 女子会
第二から第四宝物庫の目録を確認して、私に合った装備を皆で相談したりしていると、あっという間に時間は過ぎた。
そうして、式典の前日。
「確認しておいてよかった」
「そうですね。流石に今回は必要ですから」
「任せてねー! 私がちゃんとアルマに合う服を選んであげるから!」
「ごめん、みんな」
今日は女性だけで出かけていた。
出かける先は……服屋だ。
至上命題達成報酬をもらう授与式典は明日。
だというのに、私は礼服を持っていなかったのだ。
礼服を持っているかとレティに訊かれ、素直に答えた結果この状況である。
……今まで王族との謁見とかしたことなかったから、完全に失念していた。
「『光輝の剣』のときはどうしていた?」
レティの問いは当然のものだろう。
なにせ、オリハルコン級なら普通に王侯貴族と会う機会がある。礼服ぐらい持っていて当然だ。
「えっと……私はパーティメンバーとはいえ、実質使用人みたいなものだったから。王侯貴族に謁見するような場には行くことはなかったよ」
「……まさかとは思ったが、やはりそういうことなのか」
レティは毎回『光輝の剣』の話に呆れている。……いや、レティだけでなく皆か。
「でも! アルマも今回はちゃんと礼服必須だよぉ~? なにせ主役だからね!」
「その……主役って言うけどさ、私には荷が重いよ。……私、皆が敵の動きを封じた後で美味しいところだけ貰ったようなものだし」
「アルマの言うこともわかります。逆の立場なら、私も恐縮してしまうかもしれません。……ですが、そもそも至上命題の達成には、アルマの能力が不可欠だったことは事実。それに、戦闘系ジョブが戦闘を受け持つのは当然のこと。むしろ、自分にしかできないことだからと、その身を危険に晒してまでパーティに貢献した貴女はやはり讃えられるべきです」
アンネにちょっとした抗議を送ってみたが、アウラに諭されてしまった。
でも式典で主役なんて言われても……目立つの慣れてないんだよぉ。
「ま、実際に矢面に立つのはリーダーのヴェイセルで、アルマは報酬を受け取るだけだから」
「そうは言うけどさー」
「はいはい、諦めて諦めて、今後はどんどん貴族とかとやり取りしていくことにもなるんだから」
アンネに押され、私は服屋に入った。
こんな高級なお店入ったことないよぉ……。
※※※
そうして、自分がこんな服を着て良いのだろうかと、本気で悩むほど高級な服を買った。
アンネのセンスが良いのか、単に服が良すぎるのか、私に似合う服を選んでくれたとは思う。鏡をみて、本当に自分なのか疑ったほどだ。
……っていうか、礼服って皆決まったデザインなのかと思っていたけど、思ったより色々あるのね。
ちなみに、今回買ったのは当然冒険者女性用の礼服。
貴族女性ならドレスだが……冒険者女性のものは、騎士用の礼服を少しカジュアルかつ女性向けにアレンジしたような感じだ。……なお、女性向けに限らず冒険者向けの礼服は大抵騎士が着る礼服よりカジュアルに作られている。
「今日はありがとう」
「いえいえーどういたしましてー」
「いい買い物ができてよかったですね」
現在は皆で食事中。
ちょっとおしゃれな食堂のテラス席だ。
「今日は女性メンバーでの親睦も兼ねている、好きなものを頼んでくれ」
「お金はパーティ資金からでるからねー!」
「うん、ありがとう」
やってきたウェイトレスに好きな料理をいくつか頼む。皆も各々の好みを注文した。
「アルマは卵料理が好きなのですか?」
「うん。しっかり火の通った白身の食感が好きなんだ」
そんなふうに、好きな料理や飲み物に付いて語ったり、運ばれてきた料理に舌鼓を打ったりしていると……外からこんな会話が聞こえてきた。
……通行人の男性たちの会話だ。
「……それにしても、『導の煌星』が至上命題を達成するとはな。やっぱ『光輝の剣』より『導の煌星』が上なのかね?」
「いやぁ、『光輝の剣』だってこの前ジズを討伐しているからな。オリハルコン級でも安全を考えると複数パーティでかかることが多い相手だ。それを一パーティだけで討伐したってんだから、戦闘能力は『光輝の剣』が上なんじゃねぇか?」
「……ま、『光輝の剣』がダンジョン潜ったらしいから、その結果次第だな。『導の煌星』は至上命題こそ達成したが、十階層止まり。対する『光輝の剣』は今回十三階層を目指すってよ。本当にそれが達成されたなら、『光輝の剣』の到達階層更新が話題になるだろう。そしたらダンジョンの進行度の差はみんなから明確に意識される。至上命題達成の功績を以ってしても、天秤は『光輝の剣』側に傾く可能性が高い」
会話の内容は『光輝の剣』と『導の煌星』を比べるものだった。
ちょっと、気分が沈む。
特に、ジズの話。
やはり、私が抜けて新しい人が入り、パーティの戦力が上がったようだ。
「大丈夫だ、アルマ。……民衆の評価を気にする必要はないよ」
「レティ……」
「ジズを倒した『光輝の剣』の戦闘能力が上がったのは事実だろう。非戦闘系ジョブが抜けて戦闘系ジョブが入れば、そうなって当然だ。だが、それなら冒険者は皆戦闘系ジョブだけでパーティを組めばいいか? 答えは否だ。彼らは、戦力こそ上がったかも知れないが、その分失ったものがある。……それこそ、今回の『光輝の剣』のダンジョン探索……そこでアルマ、君をパーティから追い出した彼らの判断は、その真価を問われることになるだろう」
「それに、もし仮に『光輝の剣』が上手くいったとして、それでアルマの価値が揺らぐわけではありませんよ。貴女が私達のパーティに必要な極めて優秀な人材であることは事実なのですから。そこに『光輝の剣』は関係ありません」
「二人共クールで冷静だねぇ。私なんかはこんなに可愛くて優秀なアルマを追い出した馬鹿達は、ダンジョン攻略上手くいかないに決まってる! 痛い目見て後悔しろ! って言いたくなるよ」
「言いたくなる、というか既に言っているな」
「あはは……みんな、ありがとう」
励ましの言葉が沁みる。
優しい人たちに拾ってもらえて、私は幸せだ。
「ほらほら、そんなことよりこれ! 私の好物なんだー! 食べてみて!」
そう言って、アンネは自身の皿から麺料理を取り分けて、私にくれた。
「いいの?」
「もちろん! いいものは分け合わないと!」
「分け合う?」
「そうだよ! 幸せを分け合うの。人に幸せを分けて、相手も幸せになってくれればさ、それを見てまた自分も幸せになるじゃん? 自分の幸せが相手の幸せにもなることで、幸せが一つから二つになる。そこからそれを見た自分がまた幸せになって三つになるわけ。つまり、幸せが一から三になるんだよ。これが私の「分け合う幸せ三倍理論」!」
「毎度聞く度に思うが、定量的ではない理論だね……素敵な考え方ではあるが」
「レティってさ、クールな割に他人の言葉を素直に素敵とか言えるところ……素敵だよね!」
「……同じ言葉を返さないでくれ」
「あ、照れてる! かわいいー!」
アンネの言う「分け合う幸せ三倍理論」を聞いて、私は衝撃を受けた。
私の知る人間の大半は、幸せは自分だけが独占すればいいと考えていた。
筆頭はアンガスだ。彼は自分の金や時間を他人のために使うことを毛嫌いしていた。他の『光輝の剣』のメンバーだってそうだ。……いや、ティーナは毛嫌いしていたのではなく、そもそも他人とコミュニケーションを取るのを怖がっていただけかもしれないけれど。
……あのパーティにいたままでは、こんな素敵な考えには出会えなかっただろう。
分けてもらった幸せを、口に運ぶ。
「……美味しい」
「ね! 美味しいでしょ!」
花咲く笑顔で、喜ぶアンネ。
それに私も微笑み返す。
「幸せ、二倍になったよ」
「それなら今、三倍になった」
思った通りの反応を返してくれたアンネに、嬉しくなる。
「別に三倍で止めなくても良いだろう? もう一皿頼もう。私も食べてみたい。アウラもそうだろう?」
「ええ。アンネとアルマが随分美味しそうに食べていますからね」
「いいね! そうしよう!」
そんな三人を見ながら、思う。
『導の煌星』にやってきてから、食事が本当に美味しくて……楽しい。
こんなに美味しい食事、こんなに楽しい食卓は、『光輝の剣』にいた頃は望むべくもなかった。
今や、むしろ私を追い出してくれたことだけは、アンガスに感謝したぐらいだ。
「私、『導の煌星』のメンバーになれてよかった」
私がそう言うと、三人はこちらをみた。
そして、微笑む。
「そうでしょ? うちはいいパーティだからね」
「これからまだまだたくさん、楽しいことも嬉しいことも積み重ねていきましょう」
「私達はパーティ名の通りになりたいからね……私達を見た新人が、こうなりたいと思えるそんな冒険者パーティでなければ。……そのためには、楽しいパーティであることは大事だとも」
「……うん、そうだね!」
それから、いくつか追加の注文をして、お腹いっぱい美味しい料理を食べた。
その幸福な気持ちのままパーティハウスに戻り、以降は明日の準備。
そうだ、私は『導の煌星』のメンバー。
明日は、新人冒険者達が憧れるような姿を見せなくちゃね。




