第十話 授与式典と報酬
式典のスタートはパレードから。
多くの人が集う大通りを馬車で行く。
無論、屋根の無い、集まった民衆からしっかりと見えてしまうタイプのものだ。
めちゃくちゃ目立ってる! 怖い!
みんな平然と手を振ってる! すごい!
……ガチガチに緊張してるの、私だけ?
……アンネずるいよ……自分だけ「私はダンジョン探索に行ってないから」って言って一人でパーティハウスに引きこもって。
緊張のあまり、ただただ無心で時間が過ぎ去るのを祈り続け……ようやく式典会場へ。
会場にはたくさんの人々。
人多すぎだよ。国の至上命題とはいえ、ただの冒険者の依頼達成になんでこんなに集まるのさ。
入場した私達が示された席に着くと、御歳を召された男性が立ち上がった。……って、国王陛下じゃん!
「我が民よ! 今日ここに集まってもらったのは他でもない、我が王国の至上命題を達成した者たちが現れた! その者たちを盛大に祝うためである!」
国王陛下直々のありがたい挨拶。
……しばらく、式典にふさわしい固めの言葉で褒められた。割とガッツリ褒められた。
そしてその挨拶の後、本題となる。
「よって、我が手より記念品を、我が孫娘セシリアの手より報奨を、『導の煌星』へ授与する」
言葉の直後、王様の席の近くに座っていた女性が二人立ち上がった。よく似ている。
……歳上の方の女性は王太子妃殿下だ。つまりもう一方がセシリア様なのだろう。
私とヴェイセルも立ち上がり、壇上の指定された場所へと向かった。
……ほんと、なんで私? 絶対アウラとかの方がいいって!!!
……思っていることを顔に出しちゃダメだぞ、私。
今の私は『導の煌星』の代表。そして冒険者の代表。新人冒険者が憧れる、冒険者の頂点。
凛々しくしていないと。
向かい合う陛下とヴェイセル、セシリア様と私。
王太子妃殿下が陛下に記念品を、セシリア様に報酬を手渡す。
そして、まずは陛下からヴェイセルへ。
「『導の煌星』リーダー、ヴェイセルよ。そなたらの功績を讃え、これを送ろう」
「ありがたく頂戴いたします」
陛下から渡された記念品。それは盾だった。うちのパーティのエンブレムを刻んだ盾。
武具としての実用性はほぼないだろうが、とても綺麗な装飾のされた飾り盾だ。
ちなみに、うちのパーティのエンブレムは煌めく星をイメージしている。そのまんまだ。パーティハウスの玄関の上にも、そのエンブレムの飾りが取り付けられている。
次は私だ。
「こちらが報酬です。これからも頑張ってくださいね」
「はい、ご期待に添えるよう、誠心誠意尽くす所存です」
微笑むセシリア様に、一つの鞄を渡された。大きい。……まぁ、装備が入っているんだから当然か。
それにしても、セシリア様美少女だなぁ。同じ女でも見とれちゃうよ。こりゃ王都で人気なのも納得だ。
私達が席に戻ると、王様が再び民に向かい、宣言する。
「これにて式典を終える。そして、この後から日付が変わるまでは、この会場付近の天幕にて、王家から酒を振る舞う。至上命題達成の祝い酒だ、存分に飲むといい」
王様の宣言に、歓声が上がった。
今までで一番の歓声だ。現金だなぁみんな。……そりゃそうか。
こうして、式典は終わり、その日は夜まで騒がしかった。
私達も当然お酒を飲み……私は気付いたらパーティハウスで寝ていた。
……誰が連れ帰ってくれたんだろ?
※※※
「さて、そういうわけで、報酬金を分けよう」
集まったみんなにヴェイセルが宣言した。
「今回の報酬だが、まず至上命題が星金貨十枚と金貨二百枚だ。それから、その他のダンジョンで確保した素材を売却し、得られた利益が金貨四百八十枚。……星金貨十枚は金貨千枚相当だから、今回の利益は金貨換算で千六百八十枚だな」
「すごいですね。至上命題分は当然として、他の売却利益もそこまでいくとは」
「アルマのおかげだ。アルマのお陰で今までより多くの素材を、より良い状態で運ぶことができた」
「役に立てたようでよかったよ」
こういうところで役に立てないと、パーティに入れてもらった意味が無いからね。
「そういうわけで、報酬を山分けする。今回は星金貨はパーティ資金に加える。で、ダンジョン探索に参加した六人がそれぞれ百枚、アンネが八十枚とするつもりだ。異論あるやつはいるか?」
「はい!」
私は勢いよく手を上げた。この報酬はどう考えてもおかしい。
「却下だ」
「却下!?」
話すら聞いてもらえず却下された。
「どうせ百枚はもらい過ぎだと言うのだろう? そんなことはないからちゃんと受け取ってくれ」
「……読まれてる」
ヴェイセルは私の言う事を完璧に言い当てた。
そして、レティにも諭すように言葉をかけられる。
「アルマ、ここはもう『光輝の剣』じゃないよ」
「でも非戦闘系ジョブ──」
「ちゃんと役割を果たしたのですから、戦闘系ジョブだとか非戦闘系ジョブだとかは関係ありません」
「でも追加報酬で装備までもらったし」
「それはそもそもパーティ資金から出す予定だったろうが。その分パーティ資金が浮いただけだ。報酬は別でちゃんと受け取れ」
「う……レオンまで。……でもほら、この前の探索の消耗品代とかも私、出してないし」
「何を言っている。それも装備の話と同じだ。そもそも、消耗品代なんていうのは真っ先にパーティ資金から出すものだ」
「えっ?」
ザシャの言葉に絶句した。
かつてアンガスに言われたことを思い出す。
──消耗品なんてのはアイテム士にとっての武器みたいなものだろう? だったらお前が消耗品の費用を出して当然だろうが!
そう言われ、少ない分前から消耗品代を出していたのだ。
「どうせまたアンガスだろう? 消耗品はアイテム士が使うものだからアイテム士が出すべきとでも言われていたか?」
「……正解」
「それはもう忘れるといい。俺達は、そんな事は言わない。……そもそもうちは、武器代や武器の修理費、手入れ道具の購入費、それら全部パーティ資金から出すんだ。アイテム士が使う消耗品をパーティ資金から出さない道理がない」
「分前そのものも、非戦闘系ジョブだからと少なくされていたのかもしれないが、うちはそんなつもりもない。アンネの取り分については契約通りの内容になっている」
「家で待っているだけだからね。流石に命の危険があるみんなと同じ額はもらえないよー」
「俺達は同じ額で構わんと言ったのだがな」
「私が構わなくないの。私達は対等だけど、だからこそ仕事に見合った報酬じゃないといけないよ。みんなの取り分には危険手当が乗ってるとでも思って」
対等……対等な仲間。
「対等なら……分前は同じ額で当然ってこと?」
「そうだ」
「そっか」
私は、つくづく『光輝の剣』では対等な立場じゃなかったんだな。
「ほら、アルマ、お前の取り分だ」
ヴェイセルから金貨袋が手渡された。
みんなにも手渡されていく。
冒険者ギルドは金品の預かり業務もやってくれるが、それは本人が預けなければならない。
そのため、報酬の分前は現金を手渡しするのは普通のことだ。
だが、私にとって、これほどずっしりと重たい金貨袋を渡されるのは、初めての経験だった。
「……アルマ、随分呆けていますね」
「えっと……こんなに重い金貨袋を持ったのは初めてだったから」
「……参考までに訊きますが、『光輝の剣』での分前はどの程度だったのです?」
「オリハルコン級になってからは……報酬金額に関わらず、一律金貨五枚」
見慣れた反応。
そんなに呆れられるほど酷いのか、『光輝の剣』。
「アンネ、アルマ加入前の俺達の消耗品の準備に掛かっていた金額は?」
ヴェイセルが問いかけると、アンネは悩む仕草の後、答えた。
「金貨二十枚かなー。ダンジョン探索の度にそのぐらいかかってたはず」
「……俺達より深い階層に潜ってたのに準備資金四分の一以下かよ」
「『光輝の剣』、下手すると今回の探索で十階層にすらたどり着けないのではないですか?」
呆れるのではなく感心した表情のレオン、もはや心配げな表情になっているアウラ。
でも、流石に十階層まで辿り着けないなんてことはないと思う。流石に私がいなくてもちゃんと準備するだろうし。
「これからはアルマのお陰で消耗品代も浮くねー! パーティの資金繰りは大助かりだ! アルマ大好き!」
「ちょっ、わわわ……!」
アンネに抱きつかれた。
アンネ、可愛いし良い子だけどさ、流石にスキンシップに積極的過ぎない?!
「ま、アルマ、うちのやり方はこうだ。これからはこのやり方に慣れてくれ。……それで、もうしばらく……まぁ数日か? そのぐらいゆっくりしたら、準備を整えてダンジョンに潜ろう。次回の俺達の目標は十一階層への到達と探索だ」
ヴェイセルは私に向けた言葉に続けて、みんなに目標を語った。
その言葉に、皆はまさに腕が鳴ると言いたげな様子で、不敵に笑ってみせた。
……留守番役のアンネと、アンネに抱きつかれて困惑中の私以外。




