第十一話 冒険の準備
「アルマはまず、報酬で貰った装備の確認だな」
報酬を分けた後、次の冒険の準備へと話が移り、ヴェイセルからそう言われた。
私は報酬の入った鞄を持って、確認を始める。アンネも手伝ってくれるというので、私の部屋に来てもらった。
他のメンバーは、現在休暇中。私も明日からしばらくは休暇を取る。……ただ、追加報酬分の装備は早めに確認して、何か間違いなどがあれば王宮へ連絡しなければならない。休暇も後回しにして確認する必要があった。
そういうわけで、頂いた装備を一つずつ確認していく。
まずは〈アルカディアコート〉。私が今後冒険で着ることになる装備だ。
鞄から出したコートを確認する。
かなり昔に作られたコートのはずだが、割と今でも通用するデザインだ。……襟や袖の刺繍やボタンの模様はかなり古い意匠だけれど、それも雰囲気があっていい。
「【道具鑑定Ⅴ】」
鑑定すると、コートの詳細情報が頭に浮かんだ。
名称:〈アルカディアコート〉
分類:装備アイテム
効果:古い伝説における理想郷の名を持つコート。
何種類もの幻獣の素材を組み合わせて作られており、その軽さと柔軟性の割に高い防御力を持つ。
また、込められた魔法により、装備者の周囲の気温や湿度を快適な状態へ変化させる。
サイズ調整効果付き。
うん、正しく求めていたアイテムだ。
「ちゃんと合ってるね」
「アルマ? 鑑定だけじゃダメだよ? 袖を通してみないと」
「え? でもサイズ調整効果付いてるから、大丈夫だと思うけど」
「いいからいいから」
アンネに言われ、私はアルカディアコートに袖を通した。
今のままだと少し、大きいかな? 袖も丈ももうちょっと短いほうがいいかも。
そう思っていたら、突如服のサイズが変わり、私にピッタリのサイズになった。流石サイズ調整効果付き。
「おー! いいね、似合ってる」
「そ、そう?」
「うんうん、よく似合ってるよ!」
「……ありがとうアンネ」
「いえいえーこちらこそ眼福でした。それじゃあ、次のアイテム確認しよっか」
言われて次のアイテムを確認する。
次のアイテムは……これ、〈パナケイアポーチ〉。
ベルトに装着するタイプのポーチだ。実用品という感じで、特にデザイン面で変わったところはない。
「【道具鑑定Ⅴ】」
名称:〈パナケイアポーチ〉
分類:装備アイテム
効果:かつて薬学の発展に寄与した賢者に、薬の神が与えたとされるポーチ。
薬、もしくは薬の材料となりうるアイテムのみ収納可能。(対象アイテムを入れた容器ごと収納可能)
見かけ上の容積の約二十倍ものアイテムを収納可能であり、なおかつ収納したアイテムの品質を維持する効果を持つ。
また、どれだけアイテムを収納しても重さが変わらない。
「これも合っているね。……ちょっと試してみるかな」
「試す?」
「うん。ちょっとね……」
言いながら、私は〈下級スタミナポーション〉を一つ手に持った。
腰にポーチを付け、スキルを使う。
「【道具即時収納☆】……やっぱだめか」
残念ながら、手に持ったポーションはポーチに収まってはくれなかった。
続けて、その状態から私はいつもの背嚢を背負い、再びスキルを使う。
「【道具即時収納☆】……そうなるよねぇ」
持っていた〈下級スタミナポーション〉が消え、背嚢に入ったのが感覚的にわかった。
その後、取り出したポーションをパナケイアポーチに入れ直して、今度は【道具即時取り出し☆】を試してみたものの、結果は同じだった。
「んー、そのポーチにはスキルでの収納と取り出しができない感じなの?」
「いや、たぶん違う。おそらくだけど、アイテム士の【道具即時収納☆】と【道具即時取り出し☆】は、【収納術Ⅴ】がかかった入れ物への出し入れ限定なんだ。この二つのスキル、【収納術Ⅴ】の習得が前提になっているスキルだし」
「あー、なるほどね」
私は実験に使った〈下級スタミナポーション〉を元々あった場所に戻した。
「なら、そのポーチははずれ?」
「いや、これはこれで使うよ。緊急時に必要になるポーションを必要な分背嚢に入れて、予備とか戦闘中には使わない薬とかをこっちに入れる」
「なるほどねー」
最後に靴。
〈シーシュポスブーツ〉だ。
これも実用品感って感じの見た目。しっかりとした造りのブーツだ。
「【道具鑑定Ⅴ】」
名称:〈シーシュポスブーツ〉
分類:装備アイテム
効果:古い伝説で神の罰を受ける男の名を冠するブーツ。
装備者の肉体的・精神的状態及び装備者への負荷に関わらず、歩き続けることを可能とする。
ただし、負荷や疲労を軽減する効果はない。
サイズ調整効果付き。
うん、想定通り。
試しに履いてみると、最初は大きすぎるサイズだったが、すぐにピッタリのサイズへと変わった。
「んー、もうちょっと可愛いブーツのほうが似合うだろうけど、流石に高望みかー」
「あはは、実用品だからね」
「まぁねぇ。……うん、今度マジックアイテムの性能に影響なく見た目だけ整えてくれる職人さんのところいこ」
「え、そんな人いるの?」
「いるいる! アウラとかレティもお世話になってる職人さんだよ!」
「なら、行ってみたい」
「オッケー! 今度みんなが探索行っている間に予約しておくね!」
「うん、ありがと」
ま、どうせダンジョン探索では、返り血やらでぐちゃぐちゃになっちゃったりするんだけどね。
でも、やっぱり可愛いに越したことはないと思う年頃の女の子なのでした。
※※※
装備確認の日から数日の休暇を経て、また次のダンジョン探索の日が近づいてきた。
今日はその準備のための買い出しだ。
「薬とか食料の買い込みはこれでオッケーかな?」
「うん、ここまで付き合わせてごめんね、アンネ」
「いいのいいの、私も生活用品とか食料の買い出ししなくちゃいけなかったし!」
アンネ行きつけの食料品店の後、私がいつも行く錬金術師のお店でダンジョン用のアイテムを買い込んだ。
「メインの背嚢の方は前のままだよね? たしか、報酬で選べる宝物庫のアイテムにちょうど良さげなの無くて断念してたんだっけ? ……買い替えたりはしないの?」
「んー、今回はパスかな。中身の入れ替えとか整理も必要になるしね。しかも、他の装備変えたばかりでちょっと勝手が変わっちゃったから、背嚢まで変えると慣れない装備ばっかりで私がきついかも。背嚢の買い替えは他の装備に慣れてからかな」
「なるほどねー、納得。……それで、この後は? 何かまだ必要なものある?」
「あとはサポート用のアイテムとかスクロールをいくつか買い足さないとかなー……あ、前回珍しく封印匣つかったから、それも買わないと」
「オッケー……となると、魔法用品店?」
「そうだね」
私達は魔法用品店へ足を向け歩き出す。
そうして、その途中、私達はその状況に遭遇した。
私の行きつけの錬金術師のお店と魔法用品店の間には、冒険者ギルドがあるのだ。
その冒険者ギルドに人集りができていた。
その奥から、苛立たしげな……思い出したくない声が聞こえる。
「アルマ、こっち」
身を竦ませた私の手を引いて、アンネが裏路地に入る。
そして、その裏路地から冒険者ギルドを窺うと……ボロボロの男女が現れた。
ボロボロと言っても、傷を追っている様子はない。
だが、服も体も汚れ、髪はボサボサ、眼はどこか血走っているように感じる。体も、身に付けた装備も、しばらく手入れできていなさそうだ。
そんなにボロボロになっているのが誰かと言えば……この王都に二組存在するオリハルコン級冒険者の一方だった。
もちろん私達『導の煌星』ではない。
そう、『光輝の剣』だ。
オリハルコン級冒険者パーティ『光輝の剣』が、その光輝を陰らせ、まるで敗者のような様相で冒険者ギルドから出てきたのだ。
周囲に怒りを滲ませるアンガスを先頭に、彼らのパーティハウスの方へと去っていった。
他のメンバーもほとんどが苛立たしげだったが、最後尾のティーナだけ苛立ちではなく怯えを浮かべていた。




