第八話 歓迎会
「「「かんぱーい!」」」
グラスのぶつかる澄んだ音が響く。
今、私達七人はパーティハウスの食堂にいる。
私の歓迎会兼至上命題達成祝いだ。……一応、私の歓迎会がメインらしい。恐縮してしまうけれど……それ以上に、こんなに良くしてくれて感激だ。
「あ、このお酒美味しい」
一口飲んだお酒に感激する。
こんなに美味しいお酒飲んだこと無い。
「あ、気に入ってくれた? クレセントっていう魔法醸造のクリスタルエール! うちのパーティ皆これ好きなんだ! 深い味わい、強い炭酸……キンキンに冷やしたクレセントは喉越しも最高でしょ?」
「うん、本当に美味しい! 初めて飲んだ」
お酒の解説をしてくれたのはアンネだ。
彼女は私達の帰還を出迎えた後、すぐにパーティの準備を整えてくれた。
元々私の歓迎会の準備はしていたらしかったが、至上命題達成という報告を聞いて、すぐにより豪勢なパーティにするための追加準備を始めた。
Sランクハウスキーパーというのはすごい。何のスキルを使っているのかは知らないが、信じられないスピードで準備を整えていた。
このクレセントっていうエール、本当に喉越しが良い。私、エールの苦みって苦手なんだけど……これはごくごく飲めちゃう!
「今日はアルマの歓迎会だからな、どんどん飲んで食べて楽しんでくれ」
「うん、ありがとうヴェイセル」
皆と笑い合い、食事に舌鼓を打つ。
そうか……楽しいって、こういうことなんだ。
「にしてもアルマの能力は驚くべきものだな」
「そうですね。あれを使えば、アルマが触ることさえできればどんな相手でも致命傷を与えられるのではないですか?」
レティとアウラからの高評価は嬉しいが、残念ながらそれはできないんだよなぁ。ちゃんと訂正しよう。
「あはは、そんなことないよ。私がアイテムと認識できるのは、何かの素材になったり、そのまま使えたりするような……つまり剥ぎ取った後には普通にアイテムになるようなものだけだから。特に使い道のない部位には使えないんだ。……だから、仮に心臓に触れたとしても、その魔物の心臓に使い道がなければ収納できない。……というか、そもそも心臓を触れる状況なら、私が収納しなくても倒せるでしょ?」
「……確かに、それはそうですね。そこまでいったら普通に殺せばいいですね」
「アイテムの認識は、そういやそういう話だったな。だがどちらにせよ、いろんな前提が崩れる能力だよな。……例えば、固い外皮が素材になる敵なんかは、触れるだけでその外皮を奪って防御力を下げられるんだろ?」
豪快に肉を頬張りながら会話に加わったレオンも、別方向の誤解をしてた。もちろん、誤った認識は放置しない。
自分の評価を下げることを言うのはどうしても不安を感じるけれど、勘違いされたままだと後の致命傷に繋がりかねないし。
「んーレオンのその考えは試したことあるけどできなかったんだー。……で、調べてみたんだけど、そういう体を守るための部位って、魔法やスキルへの耐性が高いらしくって、収納スキルにも抵抗しちゃうみたい。アイテムとして認識自体はできるんだけどねぇ」
「マジか。……ま、そう上手い話はねぇか」
ほんと、もうちょっと使い勝手が良ければ自慢できる能力なんだけどねぇ。
ちなみに、戦闘系ジョブの人達の武器とかは、私の収納では奪えない。それどころか、専門である盗賊ジョブの人達でも奪えない。
高級な武器防具は使用者の収納系スキルの効果は受けるが、盗難は受けないように対策されていたりする。そういうスキル対策効果が施されている。なので、高級装備は盗むのが困難だ。
では、安価な武器なら盗めるかと言うと……これも実はそうでもない。対策されていない普通の武器防具でも、戦闘系ジョブが身に付けていると、基本的には奪うことができないのだ。
理由は単純。スキルだ。戦闘系ジョブの基礎スキルは、身に付けている武具を保護する効果があるのだ。
なので、私の収納術が対人で有利に働くことも基本的にはない。
「そもそも、仮にそういう使い方ができたとして、あまり乱用するのは認められん」
「だな。危険過ぎる」
「……まぁ、私も基本的には使いたくはないかな。触らないといけないっていうのが結構厳しい」
ザシャとヴェイセルの言葉に同意しつつ、次の料理に手を付けた。
ローストビーフ……おいしいなぁ。
「厳しいどころじゃない。非戦闘系ジョブというのは前に出ることを嫌がるのが普通だ。今回の〈愚神の心臓〉だって、普通なら頼まれても断るだろう。君のように自ら提案するのは珍しいことだよ」
「そうなんだ」
……レティが嘘をついているとは思えないけれど、未だにちょっと納得できていなかった。自分が普通だと思っていたから。
「そうなのです。……もう、ゴブリンのときですら驚いたぐらいですからね?」
「その話聞きたかった! アルマ、ゴブリンに突っ込んでいったんだって? すごいね。私、魔物に突っ込んで行くなんて無理だなぁ」
アウラがゴブリンの話を出すと、アンネが食いついた。
このパーティだとハウスキーパーのアンネだけが、私と同じ非戦闘系ジョブだ。
……ザシャも一応半分ぐらいは非戦闘系ジョブと言えなくもないが、十分な戦闘スキルを取っている。
「私は前のパーティだと強制的に戦わされてたからね」
「いくら強い防具があるって言ってもさ、戦闘用のスキル無しで魔物と戦うの怖くない? ゴブリン相手に消耗品を使うわけにもいかないだろうから、アイテム士としての本領すら発揮できないでしょ?」
「ん?」
アンネの言葉に引っかかった。
どうも認識違いがあるらしい。
「ん? え、何? その反応。……私、変なこと言った?」
「いや、えっと……強い防具って?」
「え、アルマって今までも十階層より先まで潜ってたんだよね? だったら、防具もオリハルコン級冒険者に恥じないものを身に付けているんじゃないの?」
「……えっと……私がダンジョン潜るときに着てるのって、だいぶ前に古着屋で気に入って買った、ただの動きやすい服だけど」
「「「は?」」」
アンネ以外の全員から、驚きの声が上がった。
見回すと、皆が絶句している。
え、またなんか変なこと言っちゃった?
「まて、アルマ……どういうことだ? なぜそんな装備でダンジョンに?」
「え、いや……非戦闘系ジョブなら、良い防具なんて要らないだろって言われてて……だからちゃんとした防具なんて買ったことなかったんだよ」
「またアンガスか……」
震え声で質問してきたヴェイセルに答えると、レオンが頭を抱えた。
「アルマ……明日装備を買いに行こう」
「え? ……でも、レティ──」
「でもじゃない。そんな危険な状態で、君をダンジョンに連れて行くわけにはいかない」
レティの言葉に、皆が頷く。
……私、非戦闘系ジョブだけど、それでも?
「アルマ……非戦闘系ジョブだろうが防具は必須だ。流れ弾で死ぬぞ」
……ザシャに思考を読まれた。
流れ弾で死ぬのは私もわかっている。だからいつも必死で流れ弾が当たらないよう位置取りを気をつけているわけだし。
私は今までもこの装備でやってきた。だから、なんとかやれるとわかっている。
そして、私に新しい装備があったところで、パーティの火力が上がるわけでもない。
だから、引け目を感じた。
「でも、お金が──」
「今回の報酬も入るし、そうでなくても必要な装備ならパーティ資金から出す」
「そんな、悪いよ」
「悪くない。うちのパーティでは皆そうしている。パーティ資金の主要な使い道だ。アルマも活用してくれ」
そんな会話をしていると、パーティハウスの呼び鈴が鳴った。
「出てくる」
アンネが玄関に向かっていった。
「ともかく、俺達のためにも装備は買ってくれ。不安でまともに戦えん」
「……わかったよ」
結局、ヴェイセルの言葉に私は折れた。
仲間を不安にさせてまで拒否することじゃない。
「ヴェイセルー手紙ー」
私が折れたところで、アンネが戻ってきた。
ヴェイセルに手渡された手紙は……なんか豪華だ。
「王宮から? ……確認しよう」
そう言って、ヴェイセルは手紙の内容を手早く確認する。
そして──
「はは、ははは! これはいい!」
「何が書いてあったのですか?」
「ああ、皆も読んでくれ」
そう言ってヴェイセルが見せてくれた手紙の内容を要約すると……どうやら至上命題達成の報酬として、追加で王宮の第二から第四宝物庫に収蔵されているアイテムの中から望んだ物を貰えるらしい。
「なるほど……こりゃいいじゃねぇか」
「そうだな」
「まさに、渡りに船というやつだね」
「あ、なるほどねー!」
そう言って、私以外の皆が私の方を見る。
え、なに、どういうこと?
「今回の至上命題の功労者は間違いなくアルマだ。……だから、この追加報酬でアルマの装備をもらおう」
「は? ……はああああああ!?」
私の装備に王宮の宝物庫に収蔵されるようなアイテム?
むしろ緊張で動けなくなっちゃうってぇ!!!




