第六話 【道具認識拡張☆】
準備万端整えて、私達は厄災の写し身に対峙した。
「ヒヒッ……ギャハハハハハハハッ!!!」
私達を認識した厄災の写し身は、耳障りな笑い声と共に、魔力を迸らせた。
ダンジョンが軋む。
そして、その軋みと共に、数多の魔物が出現した。
「俺がやる」
言葉と共に、ヴェイセルが走り出した。
「【剣嵐Ⅴ】」
今までの戦いではほとんど見せることのなかった攻撃系スキルを使い、出現した敵を切り刻んでいく。
そして、そうやってヴェイセルが戦っている中で、既にザシャが姿を消していた。
私は、レオンが護ってくれている後ろで、タイミングを窺う。
「いきます。【魔力矢生成Ⅴ】」
アウラが言葉と共に魔力で矢を作り出し、厄災の写し身に照準を定めた。
「【貫通射撃Ⅴ】」
そして、凄まじい威力の矢が放たれた。
その矢を妨げようと現れた魔物すら貫通し、厄災の写し身の右腕を消し飛ばす。
「アアアアアアアア!!」
叫ぶ写し身。
アウラは気にした風もなく、再び魔力の矢を作り出して、第二射以降をつがえる。
「まだまだいきますよ。【貫通射撃Ⅴ】、【貫通射撃Ⅴ】、【貫通射撃Ⅴ】!」
二射目に続き、三射、四射。
再び、大量の魔物を消し飛ばしつつ、写し身の残る四肢を破砕した。
「ウゥゥウウ……アアアアアアッッ!!!!」
写し身の叫び声と共に、その千切れた四肢からドロドロとした黒い液体が溢れ出し、四肢の代わりに長くウネウネとした触手を形成する。
そして、狂乱する写し身が、それを無闇矢鱈と振り回す。
「おっと、【要塞盾Ⅴ】!」
凄まじい先端速度に反応できなかった私と違い、レオンはスキルを用いて完全にガードする。私では目で追えないが、恐らく一発一発丁寧に盾の角度を調整し受けきっているのだろう。安心感が半端じゃない。
……たぶん、私が考えた初期の作戦だと、このタイミングで私は死んでいたかな。この触手攻撃とその攻撃密度、攻撃速度は私の予想を大きく越えていた。
厄災の写し身が触手を使い始めてから、周囲の魔物の出現は止まっていた。
ヴェイセルとアウラが触手を破壊しているが、その度に生えてくる。
だが、それもここまでだ。
「レティ、準備ができたぞ」
「ありがとう、ザシャ。……じゃあ、行こう。アルマも準備して」
「うん! ……ヴェイセル、前はお願い!」
「任せろ!」
私、アウラ、ザシャがレオンの後ろに、レティはその更に後ろに。
ヴェイセルが一人前に出て、猛攻をかいくぐりながら、その触手を落としていく。
「やるぞ、アルマ、アウラ」
「うん、私の【道具認識拡張☆】は大丈夫。準備が整えばすぐに【道具探知Ⅱ】を使うよ。脳にかなり負荷がかかるから、二人とも気をつけてね」
「ああ」
「わかりました」
頷くアウラとザシャ。そして、ザシャが後ろから私とアウラの背に手をかざす。
「【認識共有Ⅴ】」
ザシャのスキルによって、私とアウラ、そしてザシャの精神が接続される。……作戦会議前に厄災の写し身の姿を見せてくれたときは無言で使っていたはず。今回声に出して使ったのは、スキル使用を周知するためだろう。
「ヴェイセル、こちらは準備整いました」
「了解! 行くぞレティ! 【剣嵐Ⅴ】!」
言葉と同時、ヴェイセルがすべての触手を一瞬にして切り払った。まさに嵐のような剣戟だ。
一瞬で、再び写し身の四肢が断たれた状態となる。
そして、直後。写し身が新たな触手を生やす前に──
「【氷魔法限界突破Ⅴ】! 《氷棺》!」
──膨大な魔力が迸った。
杖を振り下ろしたレティの魔法により、一瞬にして写し身が氷に囚われる。
薄く、けれど強固な氷だ。氷の周辺では、床に刻まれた魔法文字が煌めいている。レティの魔法を補助するために、ザシャが隠密行動しつつ刻んだ魔法文字だ。
今回、敵を囚える氷は、厄災の写し身が抜け出せないほど強固でありながら、かなり薄く構築する必要があった。そのための魔法文字だ。単に強固にするだけならともかく、薄くという注文がレティの実力を以てしても達成を困難にしていた。だから補助が必要だった。
さぁ、準備が整った。
「【道具探知Ⅱ】」
スキルによって、私は周辺にあるアイテムを探知する。
そして、探知されたアイテムには、災厄の写し身の体内にある〈愚神の心臓〉も含まれる。
元来、魔物の素材がアイテムとして認識されるのは、魔物からその素材を剥ぎ取った後だ。今回の状況で言えば、【道具探知Ⅱ】を使ったところで、〈愚神の心臓〉は探知できないのが普通だ。
けれど、私には最上位スキル【道具認識拡張☆】がある。
このスキルは【道具鑑定Ⅴ】習得後に習得可能になる最上位スキルだ。
その性能はなんと……元来アイテムと認識されない状態であってもアイテムとして認識可能になるというものだ。
生きたままの魔物の体にある素材、建物の建材、死後に死体がそのままアイテム扱いとなる生き物の体、土に埋もれた鉱物、まだ摘まれていない薬草……それらすべてをアイテムとして認識できる。
このスキルとの組み合わせで、【道具探知Ⅱ】は〈愚神の心臓〉を探知していた。
「痛ぅ……確かに、これは中々の負担ですね。でも、確かに認識できました。それでは【誤射避け☆】」
私の【道具探知Ⅱ】の内容が【認識共有Ⅴ】によって共有された。【道具探知Ⅱ】は【道具認識拡張☆】によって、周囲のすべてのアイテムたりうるものを探知する。その情報は膨大だ。
アウラは頭を一度抑えてからスキルを使った。対してザシャは余裕そうだ。……ザシャの脳は密偵のスキル故に情報処理に強いのかもしれない。だから、この程度問題ないのだろう。
アウラが使った【誤射避け☆】は指定した対象に射撃によるダメージを与えないようにするスキルだ。
スキル名通り、味方への誤射を避けるためのスキル。
残念ながら、ダメージを与えないだけで、矢には対象に命中した場合と同じだけ反作用がかかる。つまり、ダメージを与えないようにした相手に命中した矢はそのまま弾かれて落下する。なので、このスキル単体だと、味方の体や敵前衛の体を透過させて奥の敵を攻撃することはできない。
……まぁ、アウラは【貫通射撃Ⅴ】との組み合わせることで、味方の体を透過しての不意打ちに使っていたりするけれど。……あれ、最初見たときは肝が冷えた。
今回アウラが【誤射避け☆】で対象に指定するのは〈愚神の心臓〉だ。これで、〈愚神の心臓〉を破壊すること無く、射撃できる。
「そして、【閃光矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】!」
アウラの弓から光の矢が放たれた。
それはまっすぐに、四肢を断たれ氷に囚われた厄災の写し身の心臓へと突き進み、貫通した。
そして、そこに、私が手を突き出す。
私の体は、矢が放たれる直前からザシャに抱えられ、運ばれていた。
氷漬けの厄災の写し身のすぐ近くまで。
……運ばれている途中、頭上を通り抜けた矢には、正直肝が冷えた。
さぁ、対象は眼の前。
アウラの【閃光矢Ⅴ】【貫通射撃Ⅴ】によって穿たれた穴の奥に、黒い心臓が見える。【誤射避け☆】のお陰で、心臓にダメージはない。
その心臓を、私は……私の【道具認識拡張☆】は〈愚神の心臓〉だと認識している。
その心臓へ向けて、私は手を伸ばした。
氷が薄いおかげで、指先が心臓へ届く。
「【道具即時収納☆】!」
私が使ったのは、文字通りアイテムを即座に収納するスキル。
私が触れてさえいれば……スキルや魔法による盗難対策でもされていない限り、自身の背嚢の中に収納することができる。
そしてそれは、【道具認識拡張☆】でアイテムと認識している素材にも適用できる。
このスキルのコンボによって、私は厄災の写し身の体内にある〈愚神の心臓〉を、収納した。
ザシャが私の体を氷から引き離してくれる。
私はそのままスキルを続けて使用。
「【道具即時取り出し☆】【道具即時取り出し☆】、そして【道具使用】!」
取り出したのは、収納したばかりの〈愚神の心臓〉と、〈封印匣〉というアイテムだ。
〈封印匣〉は他のアイテムに封印を施すことが可能なアイテムで。呪われた物品や毒物、病の原因となる物などを運搬する際に用いる。
私は〈封印匣〉を使い、〈愚神の心臓〉を封印した。
直後、氷の中の厄災の写し身の肉体が消滅していく。
心臓をアイテム扱いで奪われてなお、心臓と繋がっていたらしい。だが、その繋がりも、封印によって断たれたのだろう。
私達の完全勝利だ!
「やっっっったあああ! 皆! 〈愚神の心臓〉、入手だよ!」
「よっしゃあああ! よくやったアルマ!」
「貴女のおかげです、アルマ。よくやりました」
「まさか今回こんな成果を上げられるとはな!」
「史上初の至上命題達成。感慨深いな」
「まだまだこれからだよ。なにせ、今回はまだ、アルマが参加して初のダンジョンアタックなのだからね」
皆と喜びを分かち合う。
私は『光輝の剣』にいる間はついぞ味わえなかった達成感を、胸に強く感じていた。
※※※
その後、ダンジョンからの帰還には特に問題は起きなかった。
けれど、ギルドへ〈愚神の心臓〉を持っていったところ、史上初の至上命題達成ということで大騒ぎになった。
騒ぎに巻き込まれるのは疲れたけれど……このときもやはり、皆で成し遂げたことへの達成感に、強い喜びを感じていた。




